フランスでは住民参加で商店街に活気を

『専門店』2010年4月号に掲載された記事です。


商店街や地域社会の衰退は、都市開発・交通整備による影響が大きい。
フランスでは、五〇~六〇年代の無秩序な都市開発の反省から、住民はもちろん、商店街を巻き込んで町づくりが行われている。関連する法律が制定され、一定の効果を生み出しているようだ。

フランスでは、日本のようなNPOなどによる行政の代行型はあまり一般的ではなく、都市計画のあらゆる場面で住民が参加し、自分たちの町づくりを実現している。

日本型の住民参加がみられない理由のひとつは、住民と行政の距離が小さく(議員一人当たりの人数は、フランス一一〇人、日本二〇〇〇人ほど)、「自分たちが選んだリーダーに責務をゆだねる」という考え方に徹しているからだ。

また、行政の透明性が確立しており、行政が計画中の事業について十分認識できるよう情報が開示され、住民が意見を述べて議論する機会も設けられている。

都市計画においては、提案から決定までの手続きの期間に、詳細な情報提供や広報活動、住民の意見を反映させるための「公的審査」と「コンサルタシオン(事前協議)」のプロセスを経なければならない。

公的審査の委員は、行政側ではなく行政裁判所所長が決め、第三者的立場で公正な判断を下す。役所の一角に一~二ヶ月の間、住民の意見や要望を受け付ける窓口を設置し、これらをまとめ、専門家としての検討を行ったうえで、適否を判断することになっている。

生活環境に影響を及ぼす規模の事業において、さまざまな立場の市民と関係団体が協議を行うコンセルタシオンは、都市計画の最重要プロセスだ。一九九六年には、国が「コンサルタシオン憲章」を発布し、事業への市民参加を保証している。

コンサルタシオンの方法に関して具体的な規定はないが、一般的には、発案から工事期間まで継続的にコンサルタシオンが繰り広げられる。市民への徹底した周知と協力関係の構築を目標に、アンケートの実施や説明会の開催、計画書の公開などを行い、事業主や関係各団体、住民との密なコミュニケーションを図るのだ。コンサルタシオンの結果は、説明会や展示会、印刷物などで一般に公開され、誰でも容易にアクセスできる。

都市計画から商業を考え、中心街に活気を取り戻す

フランスの場合、商業の諸問題に関しても、都市計画による対策が重要視されてきた。中心街の空洞化を食い止めるには、都市計画からの議論が不可欠だからである。

一九六〇年代末から、都市計画を検討するために、商工会議所の代表などを交えた委員会を設置しはじめた。道路整備など交通や生活環境を含む事業計画に対しても、見解を提出できるようになった。

経済的な側面からは、大型店法として知られるロワイエ法やラファラン法で、「商業活動は、環境や都市の質の保護を考慮しなければならない」と定められている。

都市計画でも、二〇〇〇年に成立したSRU法(都市連帯・再生法)において、都市計画に商業地域の活性化の概念が取り入れられた。

経済および都市計画の両面から商業地区の整備について検討できるのは、画期的である。

フランスには、行政組織とは別に、都市計画を一貫して担当する専門の第三者機関が存在し、そこから発行された二〇〇七年の報告書では、都市計画と商業活動の関連性と展望について書かれている。これまでの「商業都市計画」ではなく、「都市計画における商業」とみなし、中心街の再生を実現させようという内容だ。

商業活動を都市計画から分離・独立して考えるのではなく、「都市計画を成功に導く原動力のひとつ」とし、住居・交通・環境・経済などの他の要素と合わせて総括的にとらえる必要性があるという。

フランスでは、一九五〇年代後半から建設ラッシュがはじまり、多くの古い建物が壊され、いわゆる近代的な団地が建てられていった。六〇年代には、自家用車の所有率がアメリカに次いで二位となり、大量消費時代とあいまって、乗用車利用による郊外型大型店に力点がおかれた。その結果、都市の中心街は寂れ、雇用や治安の悪化、大気汚染といったさまざまな社会問題を引き起こした。

こうした事態を鑑み、一九六七年に土地基本法が制定され、都市開発の見直しがなされてきた。一九七七年には住環境改良プログラム事業(OPAH)が成立し、一九八二年には脱車依存社会を目指すLOTI法(国内交通に関わる方向づけの法律)、一九九六年には「きれいな空気を呼吸する権利」を守る大気法が定められた。これらの法律もまた、都市計画と関連づけられているのだ。

「あらゆる人がよりよく暮らすことのできる町」を実現するには、住居、交通、環境、経済といった諸分野から総合的に都市計画を練る必要がある。わが国のような縦割り行政においては、ハードルが高いのかもしれないが、これまで無視されてきた住民の声を、いかに反映させていくかが、今後の町づくりにおいて大きな課題といえる。

 

パリの都市計画と商店街 街づくりも住民参加で 3/3
パリでは、1991年からの10年間で7の「界隈計画」が市議会で承認され、実施された。モントルグイユ/サン・ドゥニ界隈計画では、居住者の流出を防ぐために2階以上にオフィスや事業所などの新規開業を禁じ、駐車場の新設を認めず、上下可動式の車止めを設置。

界隈の価値に注目したパリの都市計画と商店街 1/3
パリの都市計画と商店街 乱開発から伝統重視へ 2/3

パリの市場事情から日本の「市場」を考える 1/2
パリの市場事情から日本の市場を考える 2/2
若者への優遇措置でフランスの商店街に活気を

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