フランスの非営利団体系メディア『Altermondes』

アルテルモンド(Altermondes)<廃刊>のダヴィッド・エロワ編集長のインタビュー(2010年11月)

アルテルモンドは、2005年3月創刊の季刊誌。基本的には4,000部発行で定期購読者数は2,200人。

今年の12月号が24号目で、その他特別編集で10号分発行しています。特集号は部数を増やし、たとえば、リベラシオンとのコラボで発行した「ミレニアム開発目標」の特集号は、例外的ですが、12万部発行しました。

この手のメディアとしては発行部数も購読者数も悪くはないと思います。もちろん、安定した経営には、定期購読者を増やす必要があります。ただ、一般紙のリベラシオンでも、10万部以上の発行に対し、定期購読者数は22,000人とさほど多くはありません。リベラシオンはキヨスクでも販売していますが、定期的に読むのは2万人にすぎないのです。桁は違いますが、割合的からすると、この雑誌は悪くはありません。

既存メディアの現状は厳しく、最も深刻なのは、リベラシオンやルモンドなど、情報全般を扱う一般紙です。新聞の情報は質が低下し、読者が減っています。

そうしたなか、新しいタイプのメディアが出現しています。専門を絞った、しっかり地に足のついたメディアです。なぜなら、人々はより正確な情報、自分の興味のある情報を求めているからです。

こうした状況がいつごろはじまったのか、正確にはわかりませんが、フランスのマスメディアの危機は、80年代の末ごろからだったと思います。インターネットの普及で、ますます悪化していきました。人はネットで情報を入手するようになったからです。マスコミのスキャンダルがあったりしたため、メディアへの信用も落ちました。

新しいタイプのメディアが増えたのは、インターネットが出現した1990年代ごろだと記憶しています。1980年代にコミュニティラジオが発達し、1981年にラジオ・リーブルの設立が可能になり、オルタナティブラジオのブームが起きました。ネットメディアの発達とともに、2000年ごろから既存メディアとは違う雑誌や新聞が次々に創刊されました。

「マスメディアの情報は正しくない」と人々は思いはじめ、本来あるべきメディアへの回帰しだしたのが、2000年代の初期の現象です。紙媒体は消える、といわれた時期です。オルタナティブメディアが発達したのは、既存メディアの信頼度の低下を反映した結果といえます。オルタナティブメディアには質のいいもと悪いものがありますが、正確な情報を提供しているものの信頼は高まっています。

もちろん、オルタナティブメディアを信用してもらうのも容易ではありません。メディアそのものが信用されていないからです。私たちの雑誌はNGOや労働組合とかかわりがあるため、疑わしいとみなされることもあります。私たちは、ルモンドやリベラシオンでは見つけられない情報を提供しています。他の雑誌とは完全に違う情報です。

オルタナティブメディアを立ち上げるのは、普通の媒体に比べて、さほどお金がかかりません。ただ、部数や読者数を増やす難しさがあります。なかなか方法が見出せません。我々も、定期購読者を増やすのに苦労しています。

アルテールモンドの収入の50%は購読料です。2つめの収入源は助成金で、予算のうち30%を占めます。特集によって助成先は変わります。国連やEU、自治体、県や市などから助成を受けます。残りの5%ほどは、市民団体からのわずかな広告料、それから、会費です。収入モデルはバランスがとれています。広告に依存しているわけではなく、定期購読者が増えたら、助成金を減らすことができます。

2010年の財政は悪くはなく、2011年はさらに少し良くなる予定です。いずれにせよ、定期購読者を増やすことがカギになります。経済的にはまあ大丈夫の状態ですが、快適とまではいきません。特に、このところ金融危機が響いています。

行政からの助成金を受けられるのは、非営利団体だからです。私たちは出版社ではなく、営利企業でもありません。私たちが非営利団体にしたのは、助成金を受けることができるという理由からです。ただ、フランスの非営利団体はどこも資金繰りに苦労しています。財政難で自治体は助成金を削る傾向にあり、助成を受けるのが難しくなっています。

ここのスタッフは2人で、有給です。お金をかけずに雑誌を発行できるのは、編集長の私が、財政、編集、重要な交渉などほとんどのことを担当しているからです。もうひとりのフローランスは、定期購読者拡大、販促、広報、イベントなどの企画を担当しています。

私はもともとジャーナリストではなく、ジャーナリズムの学校にも行っていません。農業を学び、農業技術者として働いていたのですが、ジャーナリズムには興味を持っていて、市民団体の機関紙の編集を手伝ったり、少しずつ方向転換していきました。

私が考えるジャーナリストとは、情報を人々に伝えることを使命にした人です。最近は多くのジャーナリストが専門家やエキスパートになっていますが、私はそれがジャーナリストだとは思いません。情報を探し出し、それを借りてきて、誰かに与える。それが私の考えるジャーナリストです。情報は誰かに制限されるものではなく、誰もが情報に参加すべきだと考えます。ジャーナリストとは、伝達することを許された人です。情報を見つけて、他者とともにその情報を組み立てていく。専門家が組み立てた情報は危険です。ジャーナリストや大学の専門家が組み立てた情報がいいとはいえません。仲間同士の閉じられたクラブのようなメディアであれば、一般の人の問題には関心がないように見えてしまいます。これでは、メディアに対する疑いを助長するだけです。

私たちは、毎回、他の人を加えて、情報を組み立てていきます。特集を企画するときは、たとえば、非営利団体に一緒に作業することを提案します。話し合い議論ながら、その特集の目的を明確にし、どのようなテーマを扱うか、誰にインタビューするかなどを一緒に決めていきます。普通はジャーナリストたちだけで編集会議をしますが、私たちは、非営利団体の人たちも加えて会議をします。こうすることで、独創的なアイデアが生まれ、問題の理解が深まります。ジャーナリストは問題をわかっていないことが多いのです。テーマを決めたら、3つか4つ、10ぐらい質問して、それだけで終わりです。私たちは、単なる仲介者ではなく、非営利団体と特集の中身を決め、構成を組み立てていきます。それが、私たちの役割のひとつです。

もうひとつの役割は、人々が抱えている問題をジャーナリスティックに書くための教育をすることにあります。ジャーナリストではない人たちに、記事がどのように書かれているかを説明し、インタビューやルポを実際に体験してもらい、記事を書くことを学ぶといった教育です。書き方や取材のテクニックも必要ですが、それぞれの人が情報の発信者になることができます。誰もが優れた取材や調査ができるより、それは当然のことなのです。誰もがメディアを立ち上げることができるのです。

私たちは、情報を構築の可能性を教えます。国のメディアが絶対なる独立性を保ち、品質を維持させるために、それぞれがメディアの役割を共有することが重要です。それには、メディア教育が必要です。

メディア教育といっても、メディア理論ではなく、実践が中心です。グループで1日議論し、翌日一緒に作業をします。こうしたワークショップをときどき開催します。今年の夏は大学でワークショップを行いました。参加者数はイベントによって50人とか10人とか変化しますが、たとえ10~15人程度でもかまいません。

アルテールモンドは、既存メディアともコラボレーションしています。リベラシオン、共産党系のユマニテ、カトリック系のラ・ヴィ、フランスのインターナショナルラジオRFIといったメディアです。ただ、オルタナティブメディアに協力する既存メディアは限られているのが現状です。

海外のオルタナティブメディアと連携したいのですが、現段階では残念ながら実現していません。他の国のオルタナティブメディアと共同できたらいいと考えています。フランスのオルタナティブメディアは、アメリカなどとは違い、5年ほど前に誕生し、規模が小さく、そのわりにはあまりにも多くの仕事をしているため、なかなか手を広げるのが難しい状況といえます。

(2015年5月22日)

新タイプのオピニオン雑誌に活路を見いだすフランス
ネット出現で混乱するなか、フランスのジャーナリストたちは、本質に立ち戻り、新タイプのオピニオン雑誌の創設に活路を見出しはじめている。既存メディアから独立し、経営も編集方針も従来型とは違う、新しいオピニオン雑誌が登場し、読者を増やしている。
国際問題を伝えるフランスの異色雑誌『XXI』
XXI(ヴァンティアン)は、語り(ナラティブライティング)のジャーナリズムを追求する季刊誌。2008年1月創刊の異色雑誌。フィガロなどの海外特派員だったという編集長のパトリック・ド・サン=テグジュペリ氏に2010年11月話しを聞いた。
フランスの独立系メディア:ネットメディア『Rue89』
リュ89は、仏リベラシオン紙のジャーナリスト4人が2007年5月開設のネットマガジン。プロのジャーナリストが調査や検証を行い、一般の人たちが異なった視点で意見を追加していく、ジャーナリストと市民の参加型のメディアで、。政治問題の比重が大きい。
フランスのイスラム文化メディア『Salamnews』
フランスに住むイスラム教徒の移民を主なターゲットにしたフリーペーパー。2008年9月創刊の月刊誌で、15万部発行。食料品店や劇場などで配布している。人口の10%を占めているイスラム教徒の現状やひとりひとりの声を伝える初めてのメディア。
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