『週刊金曜日』2011年2月11日に掲載された記事です。
フランスではここ数年、経営も編集方針も従来型とは違う、新しいオピニオン雑誌が相次いで登場し、読者を増やしている。
「情報全般を扱う媒体は苦戦しているが、専門を絞った雑誌は好調。関心のある分野の正確な情報を求めている人が増えているからだ」と説明するのは、『アルテルモンド』のダヴィッド・エロワ編集長だ。二〇〇五年三月創刊の『アルテルモンド』は国際連帯をテーマにした季刊誌で、アソシアシオン(NPOを含む非営利団体の総称)が発行している。発行部数は四〇〇〇部だが、昨年九月に『リベラシオン』とのコラボで「ミレニアム開発目標」特集号を一二万部出した。
フランス最大手ネットマガジン『リュ89』は、〇九年夏、「記事をじっくり読み直したい」読者に向けて、月刊誌(三.五〇ユーロ)の発行に踏み切った。
ピエール・アスキ発行人は、元『リベラシオン』のジャーナリスト。〇七年に同僚三人と出資し、『リュ89』を創設した。「ジャーナリストは権力の一員、と疎外感を持つ読者が多い。ジャーナリストと読者の関係が、ネットでは水平になり、信頼関係を取り戻すことができる」と確信する。「雑誌は補完的存在」と位置づけ、記事の大部分はサイトからの転載だが、毎号約三万部発行し、売れ行きは順調だ。
「『リュ89』の六割は広告収入で、映画や書籍などが主流。残りは、ネットジャーナリスト養成やサイト制作といった事業収入」と言い、今年から黒字に転ずる予定だ。
「スタッフのうち二人は、ジャーナリズム学校卒業後、既存メディアを経ずに直接ここに就職した。興味深い現象がはじまった」とアスキ氏は新世代ジャーナリストに期待を示す。
漫画を取り入れた斬新さと読みごたえのある長文記事構成で挑むのが、〇八年一月創刊の『XXI』だ。編集長のパトリック・ド・サン=テグジュペリ氏は、『フィガロ』などの下海外特派員。
「既存メディアは短文のニュースを流すだけになってしまった。ストーリーテリング・ジャーナリズムの要求に応えたかった」と創刊の動機を語る。国際問題に焦点を当てた一五〇ページの季刊誌で、広告は一切なく、価格は一五ユーロ。業界の冷笑をよそに、創刊号の四万部は完売。その後、四万五〇〇〇部平均で発行している。
「ネット時代にいまさら、との意見も多かったが、紙で表現したかった。ネットに興味を持つ人ばかりではない」とサン=テグジュペリ氏は自信を見せる。執筆者は、ジャーナリスト、作家、イラストレーターと幅が広い。読者層は限定せずに、「うんざりさせないよう、複雑な問題をシンプルに伝える工夫」で多くのファンをとらえた。
ネット出現で混乱するジャーナリストたちは、本質に立ち戻り、新タイプのオピニオン雑誌の創設に活路を見出しはじめている。フランスの新雑誌の動向に今後も目が離せない。