マジダさんのセンターでは、多様な活動を行い、失敗したケースもいろいろあったそうです。
そのなかで、「子ども議会」は成功している良い例だといいます。
子ども議会は1993年にはじまりました。
そのきっかけとなったのは、子供たちのケンカだったそうです。
ケンカした子どもたちが自分たちで解決法を見出すにはどうしたらいいか?
マジダさんはじめ大人たちもどうすべきかわからず、手探りで「子ども議会」を作ったといいます。
子どもたち自身が、「子ども議会」を生み出し、維持しているのです。
センターの「子ども議会」はとても民主的です。
この話しを聞いていて感じたのは、「子ども議会」は民主主義の西側諸国から見習った制度なのかどうか、ということです。
西欧諸国は「イスラムの民主化」を謳っていますが、イスラム社会には民主主義的な側面が全くないのでしょうか?
西欧文化の民主主義を押し付けても成功しないのではないか?
そんな疑問をマジダさんにぶつけてみました。
すると、次のような答えが返ってきました。
子ども議会は、イスラムの伝統や文化に基づいています。
議会に最も近いイスラムの伝統的なやり方に、シューラという仕組みがあります。
シューラとは、みんなが一致したリーダーを選び、リーダーがものごとを決めていく方法で、子ども議会も全員でリーダーを決めます。
ただ、シューラはコーランに基づいており、女性の参加を限定していますが、センターでは自分たちの決めたルールにより決定し、女の子も積極的に参加できます。
西欧諸国はイスラムの民主化を目指していますが、私たちにしてみれば、西欧がシューラのアイデアを参考にしたのではないかと思っています。
英国議会の歴史は長いのですが、英国議員には階級があり、ある議員が演説している間、下級の議員も立たなければなりません。
でも、子ども議会は平等で、ひとりが立って話し、座ってから次の人が立って発言します。
西欧がシューラのアイデアを参考にしたのではないか。
その例として、マジダさんは、米国からのある申し出について教えてくれました。
2003年に米国の支援団体から、子ども議会の向上のために16万ドル(約2000万円)援助すると提案されたといいます。
子ども議会にかかる費用は年間500~700ドル(10万円以下)ほどなので、資金の一部をセンターの増築、備品や教材の購入といった別の目的に使いたいと伝えたところ、“援助資金は子ども議会だけに限る”と言われたそうです。
子ども議会に携わっているボランティアの月給を600ドルにし、交通費や携帯電話などの経費を支払えばいい、と米国側は交渉してきたのです。
センターでは、指導員でさえ月給は450ドルほど。あまりにも法外な金額なので、申し出を断ったといいます。
「子ども議会」はパレスチナ人が考えてはじめたのですが、米国がそれに便乗し、お金の力を借りて、「イスラムの民主化」を推進しているともいえます。
何だかいやらしいです。
さて、子ども議会について、マジダさんの話を紹介します。
子ども議会は、問題にどう対応するのかを教えていく場として大きな意味を持っています。
あらゆる問題を議会で解決していきます。
議会では、「誰が何を言ったか」「それがどういう影響をもたらしたか」といった具体的な問題がテーブルを囲んで話し合われます。
規則や活動の目的、時間割といったセンターの運営に関する全てを、子どもたち自身が議会で決めています。
決議には、センターに通う子どもたちの1/3以上の出席が必要です。
子ども議会は代議制で、毎年行われる選挙は、子どもたちにとって特別の日になっています。
子ども議会の原則は、ひとりに律してはいけない、みな平等であること、贔屓やズルはいけない、人の話を聞くこと、お互い尊重すること、といった基本的な事柄です。
イスラム社会は女性の立場が弱く、社会で主張しづらい傾向にありますが、ここでは代表者の1/3以上を女の子になるようにしています。
強制的に女の子を参加させて男の子に受け入れさせるのですが、一緒に活動していくうちに、女の子の能力を知ることになります。
そうするうちに、ただ受け入れるだけでなく、女の子を尊重するようになります。
また、裁判制度もあり、大きな問題が生じたときには、子どもたち自身による裁判官や弁護士が解決していきます。
誰かが誰かをなぐったときには、その場で誰が悪いと決めるのではなく、「本当にそうなのか」「どうしてそうなったのか」を調査するところからはじめます。
こうした訓練を重ねることで、「お互いを尊重する」「他者に寛容であるべき」というセンターの基本的な考え方を学んでいきます。
子ども議会で決定したルールは壁に貼ってあります。
もし規則を破ったら、指導者がその子どもを壁に貼った紙の前に連れていき、声に出して全部読ませ、何を違反したのか自覚させます。トラブルが起こしたときは、その当人が中心になって話し合いをし、どうしてそんなことをしたのか、どうしたら問題を解決できるか、周りの子どもたちの助けを借りながら、自分で解決していきます。
(2007.04.23. 15:15)
日本もパレスチナ問題の解決に国際的責任を『日刊ベリタ』12月1日