子どもたちに笑顔を パレスチナでの取り組み 1/3

紛争がつづくパレスチナでは、子どもたちが希望をなくし、学校にもいけず、遊び場もない状態で暮らしています。
子どもたちの心の傷をどう癒すか。
昨年(2006年)来日したマジダさんが所属するCFTAの取り組みは、大変興味深いものでした。

パレスチナ問題は人権侵害で国際社会が担う責任です
パレスチナで子どもと女性を支援するマジダ・エルサッカさんは、「敗戦そして広島・長崎の原爆を乗り越えた日本のように、パレスチナは必ず復興する」と信じ、未来の平和を担う子どもたちに、アートを通して世論に訴え、社会を変える力を養う活動をつづけている。

マジダさんの住むハンユニスはガザの南部に位置し、人口は15万ほど。ガザに比べて発展に遅れた地区です。
教育システムの整備が不十分で、義務教育を終えた子どもたちは進学先がありません。
行き場のない子どもたちは、幅1メートルほどの狭い道で遊んでいます。
子どもの数は増加しており、人口の過半数が15歳以下です。
一世帯の子どもの数は平均5~7人で、ほとんどが2間ほどの住居に暮らしているそうです。

子どもたちは自由に走り回る場所がありません。
そこで、子どもたちに安全に遊ぶ空間を提供する施設ナワールセンターが作られました。
ガザでも貧しい地域にある唯一の子どものための施設で、6~12歳の子どもを受け入れています。
スタッフは、マジダさんを含めて4人で、残りはボランティア。資金も備品も十分とはいえません。
当初の計画では定員80~120人だったのですが、600人の子どもを受け入れています。

以下は、マジダさんのお話。


こうした施設の運営は、簡単そうで実は非常に難しい。
というのも、ここに来る子どもたちは、家の崩壊、暴力や殺害、親の逮捕を、実生活やテレビで目撃しているからです。
心に深い傷を負い、トラウマを抱えているため、子どもたちは落ち着きがなく、攻撃的で、もしくはうつ気味だったりします。
ここに来る9割の子どもたちが、ストレスで頭痛を訴えています。
パレスチナの子どもたちは、楽しく遊んでいても、ふと気持ちが飛んでしまうことがあります。孤独を恐れ、大人と一緒にいたいという思いが強いのです。
こうした子どもたちと一緒に活動するには、さまざまな工夫が必要で、一歩一歩着実に前進していかなければなりません。
センターの子どもたちの症状は、目に見えるほど明らかに改善します。
子どもたちが楽しそうに笑うのを見ると、何かを達成した気持ちになります。

ここは堅苦しい施設ではなく、子どもたちに喜びを与える空間です。
借り物の場ではなく、“子どもたちの居場所”であってほしいと願っています。
ですから、帰属意識と保存維持の精神を育てることが大切です。
その方法として、植樹活動を行っています。ひとりひとりに苗木を1本ずつ与え、子どもたち全員で庭のデザインを考え、どこに誰の木を植えるかを決めていきます。
ただ植えるだけでなく、世話もします。木に水をやって育てるために、子どもたちはセンターに頻繁に来ることになります。

ここでは自主性を重視しています。
子どもたちは、自分のやりたい活動ごとにグループに分かれ、全員で話し合って決定していきます。
自分にふりかかった出来事や社会問題についても、子どもたち自身で認識していくという方法をとっています。
その手段として、アニメーションと呼んでいる活動があります。
子どもたちはグループを作り、イスラエル軍による父親の逮捕とか、近所の家の崩壊といった悲劇を語り合います。話し合いのなかから、指導員が重要な課題を拾い上げ、それを題材に子どもたちは物語を作り上げていきます。
お話が完成したら、紙人形を作り、他の子どもたちに観てもらいます。
そして、演じる側と観る側が意見交換をします。

紙人形だけでなく、演劇も取り入れています。
子どもが自ら主張することは大変重要です。
演劇は、その役になりきり、自分の意見を発言することができます。
このセンターの芝居には台本がなく、自分の身の回りで起きたことを演じます。
観ている子供たちが「こうしたほうがいい」といった意見を述べることができるよう、発言の機会を与えています。

このセンターでは、政治的であろうと、自分の意見を発言していいのです。
その場合、寛容であること、他者を尊敬することが前提条件です。
パレスチナの子どもたちは、みな政治的意見を持っています。
イスラエル軍が撤去した現在、ハンユニス市内で子どもたちが政治的な発言をしても弾圧されることはありません。
でも、2005年まではイスラエル兵が駐留していて、表現の自由はありませんでした。
兵士に身分証明書の提示を命じられ、パレスチナ名というだけで暴行されることもありました。

昨年7月のレバノン侵攻のときには、その様子を毎日テレビで見た子どもたちが大そう心を痛めていました。
多くの子どもや市民が殺害され、爆弾が雨のように降り、道路も家も崩壊しているのを目撃し、子どもたちが無力感に襲われていました。
子どもたちが傷ついているのは明らかで、非常に心配になりました。
孤立感や絶望感、無力感が、子どもたちにどのような結果をもたらすか不安だったのです。
「世界は何もしてくれない」という無力感や絶望感を解消するには、自ら参加し、自分の考えを実現することが大切です。
そこで、子どもたちを全員集め、レバノンの子どもたちのために何ができるか語り合いました。
いろいろな案が出ましたが、そのなかから、「デモ行進」「“レバノンに平和を”のメッセージと絵を壁に書く」「人間チェーン」「“レバノンに平和を”と風船に書いて飛ばす」という4つ選んで実現させました。

子どもから子どもへ知識を伝える活動も行っています。
選出されたリーダーが、あるテーマについて調べたり伝えたりする役割を担います。
リーダーは、インターネットや図書館で情報を収集し、ときには、薬局や病院といった現場を取材します。そして、学んだ知識を他の子供たちに伝えます。
それぞれの子どもが、少なくとも一人に、自分の得た情報を伝えなければなりません。

さらに、図工や粘土細工は、手を使い、頭を働かせて、実際に作ることで、創造力を養うのに役立ちます。
民族舞踊を覚えたり、伝統的な遊びの復活も試みています。

(2007.04.23.15:13)

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