放射能の危険にさらされている高校球児や体育会系部員

高校野球のシーズン、複雑な気持ちで試合を見ている。
6月24日、宿泊していた福島市のホテルで配布していた新聞に、「3.8マイクロシーベルトで試合中止 高校野球福島大会 球場で測定」という記事を読んだ。
3.8マイクロシーベルトで試合中止なので、3.79マイクロシーベルトでは中止にならない。
3.79マイクロシーベルトの球場で1時間半の試合をおこなった場合、約5.68マイクロシーベルトになる。
ベンチにいる時間もあるので、多少数値は下がるだろうが、それにしても、と思った。

この日、午後から福島市に住む母親たちとお会いすることになっていた。
当然、高校生の部活についても話題に上った。

「野球部の子どもを持つ母親が、『もう20ミリぐらい被ばくしていると思うよ』と言って心配してました」とひとりが教えてくれた。練習前にグランドに水を撒くらしいが、スライディングをすれば砂塵も吸う可能性は高い。高校野球選手権福島大会に向けて、練習時間も通常(夜7時ぐらいまで)より少し延ばしているとの話も聞いた。
原発事故後、最初に部活を再開したのは野球部だったそうだ。「野球部がはじめたのなら…」と他の運動部もつづいたという。野球部のなかには、「放射線を吸えば強くなる」と言って鼓舞する大人もいるらしい。
「プロ野球(巨人vsヤクルト戦)の試合前には表土を削って除染したのですが、子どもの練習ではやっていません。子どもはないがしろにされているのです」

日本では18歳以下は“子ども”だ。しかし、放射線の影響の話になると、小さい子どもに集中しがちで、「高校生は大人」扱いされているようだという。「『子どもは感受性が強い』と言っているが、最初の頃、何歳までが子どもなのかわからなくて…」「高校生の情報があまりにも少ない。高校生のお母さんたちはみんなどうしているのか」と母親たちは言う。
なかでも、体育会系の部活に励む子どもを見守る親は深刻だ。
野球、サッカー、陸上、テニスなど、スポ根の部活の場合、放射能に対する親の温度差は大きいという。
高校の体育会系の部活、特にスポーツエリート高校であればなおさら、勝つのが目標だ。部活をやりたくて高校を選ぶのも珍しくない。
「4月の新学期と同時に部活もはじまったので、『部活をみあわせることはないんですか?』と聞いたら、『ないですね』と言われました。最初の頃、練習時間はさすがに1時間ほど短めだったのですが、どんどんなし崩しになりました」とある母親は話す。
5月末に開催された陸上競技の県大会は、2日間雨だったが、予定通り実施された。「誰も何も言わなかったですね。主催者たちは、スケジュールを効率よく消化することしか頭になく、延期などは考えてなかったみたいです」と別の母親は言う。一部の親が雨の心配をしても、「雨が降っているから何なの?」と逆に疑問をもたれかねない雰囲気なのだそうだ。
子どもたちは努力して努力して、大会に臨む。「勝つために大会を目指している」という暗黙の了解があり、大会をやらないってわけにはいかない。「今は特別な状況。その時期に当たってしまった子どもたちは、かわいそうです」
大会での勝利は、学校のカンバンにもなる。「高校生をそういうことに使ってほしくない。これにつけこんで子どもの命を縮めていいのか、と頭にくるけれど、声が上がらない」

「子どもの夢もつぶしたくない、でも助けたい」 高校生を持つ親の苦しみは大きい。ある母親は語る。「子どもを尊重するのが何か美徳のようなところがありますが、そうではないと思います。将来のことをやってあげるのが、親の責任。何を言われても、反抗されても、首に縄をつけても…」

子どもの健やかな育成を願うのか、大人のエゴと金儲けか。
この国のスポーツの位置づけは、どこかおかしい。

高校野球に関する新聞記事の全文引用は以下の通り。朝日新聞(福島市で入手)2011年6月24日。

3.8マイクロシーベルトで試合中止 高校野球福島大会 球場で測定
第93回全国高校野球選手権福島大会(県高校野球連盟、朝日新聞社主催)の運営委員会が23日、郡山市内で開かれた。7月13日に開幕する大会期間中、各球場で試合当日朝に放射線量を測定し、毎時3.8マイクロシーベルト以上の数字が出た球場では、その日の試合を中止とすることを決めた。
学校の校舎や校庭を利用できるかどうかを判断する目安として、文部科学省が4月に示した暫定基準に沿った。放射線量の測定は各球場とも毎朝、本塁、外野、ベンチ、バックネット裏、応援席の5ヵ所で行う。1ヵ所でも基準値を超えた球場はその日の全試合を中止し、翌日以降に順延する。
雨で中断した試合を再開する際も本塁、外野の2ヵ所で再測定し、基準値を超えたら、そのまま中止、もしくはコールドゲームを適用する。再開にあたってグランドの水とり作業などに高校生があたる場合は、ゴム手袋を着用させることも決めた。

 

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