フランス科学者4人の「原発を擁護する理由」

2011年7月22日のメディアパルトの記事です。

善悪二元論で反対派をたたくのではなく、脱原発派と原発推進派の本質的な議論を展開するのを目的に、今回はフランスの原発推進派4人をインタビューしています。

インタビューした相手は有名な研究者ですが、原子力産業の経営陣といった原子力勢力ではなく、フランス電力公社やアレバの代弁者でもありません。ただ、職歴からもわかるように、原子力業界となんらかの関係を持っています。

カトリーヌ・セザルスキー:世界的に著名な天文物理学者、フランス科学アカデミーのメンバー。2009年よりエネルギー長官。原子力エネルギー庁(CEA)で天文物理と物質科学管理の責任者。現在のポストでは決定権は持たないが、政府のアドバイザーとしての機能を果している。

セバスチャン・バリバール:パリ高級師範学校の統計物理研究所に所属するフランス国立科学研究センターの研究所所長。科学アカデミーのメンバー。温暖化ガス排出減少に向けた原子力開発を推進する「Sauvons le climat」加入。

エドゥアール・ブレザン:物理学者、技術者。1963~1989年は原子力エネルギー庁勤務。1986~1991年は高等師範学校の物理部門の責任者。フランス国立化学研究センター理事長の後、科学アカデミー理事長。科学アカデミーでは、フクシマ第一原発事故担当責任者。

クリスチャン・シモン:化学者。ピエール&マリー・キュリー大学学部助教授。次世代原子炉に使用する「溶解塩」に関する研究をしている。この「溶解塩」は太陽熱集熱器やバッテリーの電解液のようにも使用できる。

1.なぜ原子力エネルギーはいまでも必要か

セバスチャン・バリバール:世界的な地球温暖化の現状では、二酸化炭素を排出しないエネルギーを見出さなければならない。地理的地域によって状況は異なるが、先進国では、太陽や風力エネルギーが原子力に取って代わる可能性はない思う。電力は大量に貯蓄できない。脱原発のドイツの選択は、ガスと石炭の消費を増やすことになるだろう。ドイツ政府はつい最近それを告白した。すべての原発を無炭素エネルギーに代えるのは、恐るべき挑戦ともいえ、10年の間に実現するとは思わない。ドイツはフランスより1人当りの二酸化炭素排出量が1.5~2倍多く(2007年でフランスの6トン/㎥に対し、ドイツは9.6トン/㎥)、さらに悪化するだろう。

エドゥアール・ブレザン:経済学者は、エネルギーの需要が2050年には2倍になると言っている。同時に、2050年までに、地球の温度を2℃以上上昇させないという目標を達成するには、世界で温暖化ガスの排出量を半分にしなければならない。排出量を半分にして消費が2倍になるというのは、恐ろしい方程式だ! 目標達成のためにはあらゆるエネルギーが必要になる。再生可能エネルギーはもちろんだが、原子力も必要だ。

カトリーヌ・セザルスキー:天文物理学と同じく、私は地球を全体として見ており、世界規模で未来を非常に重要視している。各地の気候変動の正確な影響を予測することはできなくとも、二酸化炭素排出を減らすことが最も重要だと考える。石油の時代はもうすぐ終わる。いつか? それは代替エネルギーの発展の仕方による。現在の速度でいけば、「低価格の」石油は25~30年後に終了する。石炭の埋蔵量は莫大だが、それを使用すると二酸化炭素の大量の排出を伴う。石油とガスの地政学的緊張と、気候温暖化の事実から、化石燃料以外の資源を探す必要性が問題になってくる。太陽熱、風力、バイオマス、海洋エネルギーなど、いろいろ期待できるが、どんな場合でも、原発を止めることはできないと思う。そうするのは適当ではない。ノルウェーとオーストリアは、水力発電で多く生産する可能性があり、隣国との送電も活発だ。これらの国では原子力がなくてもよい(しかし、オーストリアは原発を有する隣国から電力の一部を購入している)。フランスの状況は同じではない。フランスは長い間、最も望ましい方法で、水力発電を運営してきた。原発はその後、火力とバランスを保ちながら、成果を上げてきた。

2.原発施設はどこにでも建設していいのか

エドゥアール・ブレザン:どこでもいいのではなく、政治的に安定している国に建設すべきである。2010年にフランス政府がやろうとしていたが、カダフィの統治するリビアに原発施設を売ってはいけない。それから、エンジニアや技術者の教育が行き届いた企業の存在する国でもあるべきだ。これらの条件が満たされたときに、原発の稼動が優位になる。ドイツとイタリアはこの選択権を手放すという失敗を犯したと思う。

セバスチャン・バリバール:原発は先進国と、中国やインド、ブラジルのような新興国に向いている。それらの国は、必要な技術レベルを有し、安全性の問題に協力できる。こうした条件により、化石燃料は発展途上の国々が活用するよう保存できる。

カトリーヌ・セザルスキー:原発は世界規模の二酸化炭素の問題を解決しない。それぞれの国が、自身の資源と工業発展に応じてエネルギーの選択をする。山岳地帯の国(スイス、ノルウェー、チリ、オーストリア)は水力発電が重要な位置を占める。太陽光線が強い(「サンベルト」)の国々は、太陽熱集熱器などを最大限に活用できるかもしれない。中国の電力需要は非常に多く、あらゆる方面で重大な発達をしている。アメリカは、エネルギーの独立を確実にするために最も安価な方法を選ぶだろう。それが天然ガスである危険性がある。アメリカでは、無炭素エネルギーでなくてはならないという意識があまり強くない。

 

英仏の左派新聞が報じた「原発擁護」記事をめぐって
先日、日本の某新聞に掲載された「保守派が脱原発に転向している」といった特集を、違和感を抱きながら読んだ。 フランスは社会党政権だったときも、原発は推進されたし、来年の大統領選挙を前にした今も、率先して脱原発とは表明していない。 イギリス...
フランス左派系新聞の「原発擁護」記事
2011年7月28日にフランスのリベラシオン紙電子版に掲載された、ダヴィッド・スペクトール(パリ経済大学准教授)の記事です。 なお、これに反論するフランスのメディアパルトの記事に関してはこちら *意訳しています。誤訳があると思います。ご...

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