恵庭OL殺人事件 第2次再審請求審の進行の経緯(2)

弁護団は2017年1月、恵庭OL殺人事件の第2次再審請求を札幌地裁に申し立てました。

恵庭OL殺人事件の第2次再審請求 死因などの新証拠
複数の間接事実を積み重ねて犯人と認定し、当初から冤罪が疑われている恵庭OL殺人事件。弁護団は2017年1月10日、死因や殺害方法など新証拠4点を用意し、2回目の再審請求を提出した。死因は薬物中毒で、姿勢を変えて2回以上燃やしたという。
恵庭OL殺人事件 第2次再審請求審の進行の経緯(1)
20年前に北海道で起きた恵庭OL事件の第2次再審請求は、2017年1月に札幌地裁に申し立てられた。弁護団が提出した新証拠は、薬物中毒とする「死因」と姿勢を変え2回以上損傷したとする「焼損方法」に異議を唱える意見書および鑑定書など4点。

第1回三者協議 2017年3月1日

2017年3月1日午後、三者協議が札幌地方裁判所で初めて行われました。

終了後の記者会見で、主任弁護士の伊東秀子弁護士はまず、「裁判官には、『科学的事実として裁判してもらいたい』と申し上げました。科学を抜きに判断させない、そこは、しつこく、しつこくやっていきたい」と三者協議への意気込みを語りました。

第1回目の協議で弁護人は、「死因」および「死体の損傷方法」に関する証人尋問に加え、請求人(以下、Aさん)本人の意見陳述を求めたといいます。

再審請求審議でも、裁判所は、請求人本人の意見を聴くことが義務づけられているため、弁護側が請求したら、意見陳述を行わなければなりません。

鹿児島の大崎事件の弁護団のひとりである木谷明弁護士は、「大崎事件では、第2次再審請求における福岡高裁宮崎支部の即時抗告審で、原口アヤ子さんは意見陳述の機会を得ています」と言います。

今回の口頭陳述には、裁判所に、本人の姿かたち、体格を見てもらうという意味もある、と弁護人は説明します。

「彼女は非常に小柄なんですよ。短指症で、握力もない、ひ弱な感じの女性なんです。死体をやすやすと痕跡も残さずに車から現場まで運びだすことができるか、裁判所に見ていただきたい」

第1次再審請求審および即時抗告審では、請求人本人の意見陳述は行いませんでした。

「Aさんは最初、『行きたくない。当時のことを思い出すと、いまでも身体が震えてしまう』と言っていましたが、来年(2018年)8月に満期で出所するので、『その後の人生を考えたときに、できるだけのことをいまやっておかないと』と説得しました。『うまくしゃべれないし…』と答えましたが、『うまくしゃべれなくても、あなたの今抱えている思いをひとこと告げ、自分の姿を見てもらいなさい。あなたは大事な検証物なんだよ』と言ったら、『あ、そうか。私は貴重ね』と笑っていました」

木谷弁護士も、「この再審を決めるときも、Aさんは、『“期待してはダメ、期待してはダメ、どうしてこうなるんだろう”とこれまでのことがトラウマになって』と盛んに言っていました。でも、今回は吹っ切れたようで、前向きになって」と言います。

「心身共にこれまで傷つけられているから、『法廷で闘うんだぞ』という気持ちになるのは、ものすごく苦しいみたいなんですよね。それでもようやく、決心をしたようです。本人の口頭陳述の機会を作ってくれれば、本当にいい裁判官だと思います」と中山弁護士は述べました。

「本人から『やる』と了承をとっているので、具体的日程を入れてもらいたい、と裁判所に申し入れました。裁判所は、前向きに検討すると返答しましたから、大越さんが意見を述べる方向性は見えてきたのではないかと思います」と伊東弁護士。

科学裁判の実現を

第2次再審請求の重要な新証拠は、「死因」と「焼損方法」の2点。弁護人は、死因に関する吉田意見書と、焼損方法に関する伊藤鑑定意見を提出しています。

裁判所も、この事件の重要な審理事項は、「死因」および「死体の焼損方法」と認識し、検察官に、「どのような専門家の証言を出すのか」と今後の方針を求めたといいます。

ところが、検察官は反論の意見書について、「検討中であり、まだ何とも言えない」と明言を避けたそうです。

この返答に対し、裁判官は、「次回の第2回の期日までに、意見書を提出できる日程のめどを立ててほしい」と検察官に求めたといいます。

中山博之弁護士は、「第1次再審請求では期待を裏切られたから、裁判官がどんな人で、どんな態度で取り組むのか、というのが気になった」と言います。

「裁判所は最低限、この三者協議でちゃんと意見の交換ができるよう検察官に求める姿勢は示してくれました。(前回の再審棄却後の特別抗告では、札幌高裁は『三者協議』を一度しか設けず、棄却決定を出したため、)そうなっては困りますから。裁判所は、自分のペースは守りながらも、弁護団の意見は前向きに聞こうという姿勢ではないか、と今日の段階ではそう見ています」

木谷明弁護士も、「裁判所がこの事件に対してどういう姿勢で臨むかが、今日の最大の関心事項でした。裁判所は、弁護団の意見には基本的には応えていこう、という姿勢が見受けられ、そういう意味では良かった」と感想を述べました。

「我々は、『この事件は科学裁判、科学的に何が正しいのかが争点』と主張しています。裁判所も、『検察官の意見ではなく、専門家の意見を聴いたうえで、意見書をまとめるべきではないか。それにはどのぐらいの時間がどのぐらいかかるか』という問い方をしていました。我々が望む、科学裁判という形にもっていくことができるのではないかと思います」

「前回の再審請求は、科学の知識のない裁判官が、『9キロの体重減はありうる』と科学的根拠もなく認めて、棄却になりました。科学をおきざりにした裁判はありえるだろうか。冤罪の多くは、裁判官が科学を無視した判断で生じています。この事件はその典型。人の一生を台無しにする裁判所は絶対、国民として絶対許してはならないと、私自身強く思っております」と伊東弁護士は強調しました。

第2回三者協議 2017年4月28日

第1次再審請求審では、検察側の提出が遅れ、裁判所に催促されても、なかなか出してきませんでした。意見書が提出されたのは、弁護人が再審請求を申し立てから9か月後のことでした。

前回同様、第2次再審請求審の当初、検察側は意見書の提出や情報開示に消極的な姿勢をみせました。

弁護人は、2017年2月21日、検察官に対し、真相解明に絶対必要とされる全10項目の釈明を求めています。それは、次の10項目です。

  1. 被害者の交友関係に関する捜査報告書の有無、捜査を行わなかったのであればその理由
  2. 請求人車両の採証検査を行った年月日とその採証結果の全ての内容
  3. 被害者の目隠しに使われたタオルの入手先等に関する捜査報告者の有無、捜査を行わなかったのであればその理由
  4. 死体発見現場で採取された、所有者不明の車の3つのタイヤ痕に関する捜査報告書の有無、捜査を行わなかったのであればその理由
  5. 犯行時刻頃現場近くで目撃された「2台の車」に関する捜査報告書の有無、捜査を行わなかったのであればその理由
  6. 上記2台の車のタイヤ痕に関する捜査報告書の有無、捜査を行わなかったのであればその理由
  7. 2000年年3月17日に被害者車両から採取された38個、4月14日に請求人車両から採取された18個の指紋・掌紋に関する捜査報告書が7月31日まで作成されなかった理由
  8. 2000年3月17日に採取された犯行現場の足跡・タイヤ痕に関する捜査報告書の作成が3ヶ月後の6月まで作成されなかった理由
  9. 死体焼損に使用された油類の成分の特定に必要不可欠な質量分析(マスクロマトグラフィー)を実施しなかった理由
  10. 現場から採取された残焼物の油類の成分鑑定が2000年3月18日に終了しているのに、鑑定結果回答書が7ヶ月後の平成12年10月16日まで作成されなかった理由

これに対し検察側は、3月21日付書面で、「釈明の必要はない」と回答してきたのです。

弁護人は、「この回答は、弁護人だけでなく裁判所も愚弄するもの」と厳しく批判し、裁判所が検察官に釈明を勧告するよう、4月11日付で釈明命令申立書を提出しました。

弁護団はまた、捜査機関が作成収集した証拠書類や証拠物を一覧にした「証拠の一覧表」の開示も求めています。第1次再審請求審においても、一覧表の開示を求めましたが、実現しないまま、再審棄却になりました。

証拠の一覧表については、2016年6月の刑事訴訟法改定で、「弁護人が請求したときは,「検察官が保管する証拠の一覧表の交付をしなければならない」(同法316条の14)という証拠の一覧表の交付制度が新設されたため、今回の再審請求審では、検察官も対応せざるを得ないはずです。

4月28日の第2回三者協議では、裁判官が検察官に、真摯な対応を求めたといいます。

(2020年8月8日)

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