恵庭OL殺人事件 第2次再審請求審の進行の経緯(1)

20年前に北海道で起きた殺害・遺体損壊事件「恵庭OL殺人事件」は、2012年10月に第1次再審請求を札幌地裁に申し立てましたが、2014年4月に棄却。即時抗告も退けられ、2016年5月26日に特別抗告の棄却が決定しました。

恵庭OL殺人事件の第1次再審請求は2014年4月に棄却
有罪確定から6年後、恵庭OL殺人事件の第1次再審請求を申し立てたが、2014年4月に棄却。検察が初めて開示した目撃証言や燃焼実験などによるアリバイ立証を、裁判所はことごとく否定し、確定判決の状況証拠をなぞる形で、請求人を犯人だと結論づけた。

2017年1月に申し立てた第2次再審請求は、2018年3月20日に棄却、即時抗告は2019年8月27日に、特別抗告審も2021年4月に棄却されました。

第2次再審請求において注目された新証拠は、確定判決の想定とは全く異なる「死因」と「死体の焼損方法」です。

弁護人は、被害者の死因に関する吉田謙一教授(東京医科大学・法医学)の意見書(以下、吉田意見書)、死体の焼損方法に関する伊藤昭彦教授(弘前大学大学院・燃焼学)の鑑定意見書(以下、伊藤鑑定意見書)、第1次再審請求審および即時抗告審の「皮下脂肪の独立燃焼による体重減」が科学的に不合理だと説明する中村祐二教授(豊橋科学技術大学)の意見書などを提出しました。

裁判官、検察官、弁護人の三者協議は2017年3月1日にはじまり、ほぼ毎月のペースで行われました。そして、同年10月末からの3回の証人尋問を経て、同年12月に結審します。

しかし、翌年2018年3月に札幌地方裁判所の下した決定は、「確定判決等が判断の根拠とした間接事実等の認定や評価に影響を及ぼすようなものではない」と、新証拠を否定した内容でした。

第2次再審請求審はどのように進行したのか。

2018年3月20日の再審請求棄却までの記者会見をまとめました。

第2次再審請求の申し立て

2017年1月10日、14時30分、弁護人は、第2次再審請求を札幌地裁に申し立てました。

記者会見で、主任弁護士の伊東秀子弁護士は、「第1次再審請求は、科学的実験に基づく結果を無視しました」と振り返り、「科学的真実に則って、裁判をしてもらいたい。裁判官が、国家権力を濫用するのは許されません。請求人が自由を奪われてこの3月で17年になります。請求人の刑期はあと2年ほど。彼女が無実で釈放されるのを目指します」と意気込みを語りました。

第2次再審請求の申し立てで提出した新証拠は、「死因」と「焼損方法」に異議を唱える意見書および鑑定書など4点です。

新証拠のひとつには、伊東弁護士の事務所宛に届いた紙も加えられました。2016年2月15日に配達されたこの匿名の封書には、「3月17日になったら真実を発表します。それまでまって下さい。もうにげません」と書かれていました。予告に反し、3月17日に真実の発表はありませんでしたが、この手紙は、真犯人がいることを推定させるとみられます。
死因は窒息死ではなく薬物中毒死?

「頸部圧迫による窒息死」に否定的な見解を示すのが、吉田意見書です。吉田教授は、確定判決が肯定した、寺沢浩一教授(北海道大学医学部法医学教室・当時)の鑑定書(以下、寺沢鑑定書)が杜撰なものであると批判的に評価し、「頸部圧迫による窒息死」と診断するのに必要な要件を満たしていないと指摘しています。

そのうえで、被害者の死因として、性犯罪に関連した「薬物中毒」が考えられると主張します。

吉田教授は、検察側証人として多くの事件の鑑定を引き受けてきた経験から、屋外で目隠しされた若い女性の焼損遺体が発見された状況から、性犯罪が疑われ、証拠隠滅のために油類をかけて焼損された可能性があるというのです。性犯罪の加害者がクロロフォルムなどの薬物を使用するのは珍しくなく、薬物の量や使用法によって急死させてしまうケースもあると述べています。

吉田意見書によれば、寺沢鑑定書に記載のある、眼瞼結膜・頭皮下・口腔粘膜の溢血点、心臓血流動性、肺鬱血などの窒息の所見だけでは、窒息の根拠にはならないといいます。

一般に「血液の暗赤色流動性、臓器の鬱血、眼瞼結膜等の溢血点」は「窒息の3徴候」(古典的窒息所見)と呼ばれていますが、これらは窒息以外の急死にもみられる「一般急死所見」にすぎないからです。

「頸部圧迫による窒息死」と診断するには、この3徴候に加え、頸部の索状痕や圧痕、圧迫部より上方の顔面・頸部の皮膚・頸部器官、頸部リンパ節鬱血、筋肉内出血、舌骨・甲状軟骨骨折などの頸部圧迫の具体的な所見を一つでも示し、さらに、窒息死以外の可能性を除外することが不可欠です。

寺沢鑑定書には、そうした頸部圧迫を示す所見がなく、根拠となる写真も提示されていません。それどころか、頸部圧迫を否定する所見が複数示されています。他の死因を示唆する有力な所見のひとつが肺水腫です。窒息死で肺水腫が認められるのは稀ですが、中毒死では多数認められるといいます。

さらに、寺沢鑑定書では、窒息死以外の死因の可能性を除外するための検査も不十分です。特に、今回の事件では当然考慮すべき、性犯罪の可能性を疑って検査に尽くした形跡はみられません。DNA検査は行っておらず、薬物についても全く言及していないといいます。

また、請求人と被害者の体格差や、車内に被害者の遺留物(血痕、皮膚片、毛髪、尿痕等)が残っていないという状況からすると、後部座席から頸部を圧迫して窒息死させるという犯行の可能性は極めて低いとも指摘しています。

20年前のDNA鑑定技術であっても、車内の清掃などでその痕跡を完全に消去することはできないとみています。

焼損方法は姿勢を変えて2回以上焼損?

被害者の遺体は仰向けの姿勢で発見されましたが、伊藤鑑定意見書では、「最初はうつ伏せの状態で燃料をかけて燃焼させ、その後火勢が衰えてほぼ鎮火してから、仰向けにしてさらに燃料をかけて燃焼した」と推定しています。

新たに開示された写真を見ると、後頭部の焼損状態は、髪は焼け、頭皮が炭化しており、後頭部で結ばれていた目隠しのタオルも、結び目が焼けていました。その様子から、後頭部は火にさらされていたのが明らかになったといいます。そうであれば、燃焼には空気の存在が必要なため、仰向けの状態では後頭部が雪面ないし地面に接したままで、たとえ灯油がかけられても燃焼し得ないことになります。つまり、遺体は、「人為的な力が作用して」うつ伏せ状態から仰向けに姿勢を替えられ、2回以上にわたって焼損されたと推定されるのです。

また、遺体は、農道中央部と農道端の少なくとも2カ所において焼損されたともいいます。遺体の発見現場およびその周辺の状況をみると、遺体の農道側の雪が溶けて地面が乾いており、そこに黒くすすけた燃焼痕跡が見られます。仰向け状態の遺体を画像処理し、180度反転させてうつ伏せ状態にすると、農道中央側の黒くすすけた燃焼痕跡と一致することがわかりました。
このことから、遺体は当初、農道中央に近い位置において、うつ伏せ状態で燃料をかけて焼かれ、火勢が弱まって鎮火に近い状態になってから、農道の端の方に反転移動させられ、仰向け状態にされたとの見方が導きだされたのです。

また、遺体の姿勢を変えて、少なくとも2回にわたって燃料がまかれたという伊藤鑑定意見書の推定は、第1次再審請求で開示されたY氏の初期供述に符合します。Y氏が最初に炎を目撃したのは午後11時15分で、午後11時42分に炎を見たときは最初と同じくらいの大きさだったと供述しています。

伊藤鑑定意見書によれば、燃料をまいて燃焼させた場合、5分ぐらいまで炎は高く、その後は減少して鎮火し、新たな燃料を供給しない限り、再び最盛期に近い炎の高さになることはないとあります。

そうであれば、少なくとも2回は燃料を遺体にかけて燃焼し、その間、犯人はその場にとどまっていたことになります。

さらに、伊藤鑑定意見書は、第1次再審請求審および即時抗告審が、「10リットルの灯油を一気に遺体にかけて燃焼させた場合に、体重9㎏の減少が可能」とした決定が、科学的に不合理であることも指摘しています。

鑑定書の説明によれば、体内の脂肪は、供給された入熱量に見合った分のみ溶け出し、その溶け出た脂肪が燃焼するためには、さらにその燃焼に必要な新たな熱エネルギーが遺体に供給されなければなりません。灯油が燃焼し終わった後、体内の脂肪の入熱速度では、この新たな熱エネルギーを継続的には供給することは不可能だというのです。

このことから、「灯油10リットルが燃焼し終わった後に独立燃焼で体内の脂肪が溶け出す」という論理は、エネルギー保存則を全く無視しており、認められないという見解を示しました。

被害者の携帯電話と異なる移動経路

確定判決では、殺害後の被害者の携帯電話の動きが、請求人の移動経路と一致していることが、犯人性を認める重要な状況証拠になっています。そこで、伊東弁護士は自ら、被害者の携帯電話と請求人の移動経路が一致しないとする報告書を作成し、新証拠として提出しました。

事件発生当時は携帯電話にGPS機能がなかったため、使用基地局のアンテナから割り出せるのは方角のみでした。

報告書は、2000年3月17日の被害者の携帯電話の発着信時刻と使用基地局セクター(アンテナ)の位置、同日の請求人の帰宅経路、そして、発着信時刻における請求人の所在地およびその位置で携帯電話を発着信した場合の電波の補足範囲などを図面に示しています。

それによると、たとえば、確定判決では、3月17日前0時5分31秒の被害者の携帯電話からの発信が、千歳BSセクター3で捕捉されていますが、報告書によれば、その時刻には請求人は自宅に到着しており、そこから発信した場合、千歳BSセクター3で捕捉することはありえないといいます。
また、同日午前9時29分以降の被害者の携帯電話への着信は、長都BSセクター2で捕捉されていますが、事業所内にいた請求人が所持していたとすれば、長都BSセクター1で捕捉されるはずです。
このように、犯人の動きと請求人の動きが一致していないことが判明したのです。
確定判決の「罪となるべき事実」は誤り?

第2次再審請求で提出された「死因」と「焼損方法」などの新証拠は、請求人の無実の主張を裏づけることになります。

吉田意見書では、性犯罪が関連する薬物中毒が疑われていますが、請求人は事件当日、クロロフォルムなどの薬物を所持していたとの証拠はありません。

また、伊藤鑑定意見書が示すように、「うつ伏せから仰向けに姿勢を替え、2カ所で2回以上焼損した」のであれば、請求人による単独犯行に大きな疑問を投げかけることになります。火のついた遺体をひっくり返すのは、被害者より体格および体力が劣る請求人には、極めて困難な作業といえるからです。

さらに、確定判決は、「午後11時5分ごろに遺体に着火し、死体焼損現場からガソリンスタンドまでは20分で行けるので、アリバイとして成立しない」と認定していますが、2回以上にわたって燃料をまいて焼損するには、現場にしばらくいなければならず、そうであれば、請求人は午後11時10分までの間に作業を終えることは不可能です。

つまり、午後11時30分43秒にガソリンスタンドにいた請求人のアリバイが成立します。

(2020年8月4日)

恵庭(OL)殺人事件の記事一覧

タイトルとURLをコピーしました