『VoCE』1998年9月号に掲載されたロンドンのトレンド特集記事の抜粋です。
②FoodとFashionのレベルは比例する!?
”ロンドン=不味い”の定式が崩れた。’90年代初めのロンドンのレストランは、雰囲気、質、サービスと三拍子そろって最悪だった。しかし、ここ数年の景気のよさを反映し、続々と新しいレストランが誕生している。フランスほど料理にプライドがないため、味にも冒険的な新感覚のレストランは、20~30代のロンドン・ヤッピーたちでにぎわっている。それにともなってモード度も上昇。モデルのトリシア曰く、「外食の日はワンピース。着飾って行くレストランが増えてうれしいわ」
モダンブリティッシュにエスニック 最先端の個性派レストラン
コンラン・プロデュースの最新レストラン
Zinc Bar & Grill ジンク・バー・グリル
ロンドンのレストランブームをリードする、コンランショップのオーナーの店。フレンチやイタリアンに新鮮なイギリスの素材をプラスしたモダンブリティッシュが楽しめる。
目の前に並んだ新鮮な魚介類を使ったメニューが豊富。オリジナルのワインも。
高級車で乗りつける、異国情緒あふれるスポット
Momo モモ
パリの有名なモロッコ料理レストラン404のオーナーが、ロンドンに進出。エキゾチックな内装は、アラビアンナイトの世界そのもの。クスクスやタジンなど、本格的伝統料理を堪能。
モロッコ人シェフによる本場料理は、ロンドンの新しい味として定着。
スタッフは白衣着用、病院の薬局がコンセプト
Pharmacy ファーマシー
グロテスクなアートで知られるデミアン・ハーストが、おいしい食事とは縁がなさそうな病院をあえてテーマにデザイン。(実際は本場仕込みのフランス料理が自慢なのだが)
化学記号のオブジェ、階段からトイレまで、徹底して病院っぽい。
③アフタヌーンティーの習慣、すでにない!?
お茶をする喫茶店らしきものがなかったロンドンに、大陸からカフェが上陸。パリ風カフェのチェーン店をはじめ、ものすごい勢いで増加している。「土曜日はカフェでランチするのが最近の日課」とデザイナーのイヤ・イヤラさんも語るように、カフェのテラスで過ごす楽しみが、やっと定着したようだ。かなり前から、本格的なアフタヌーンティーは一部の階級だけの習慣となっていたが、”紅茶好きのイギリス人”はもやは過去のものになりつつある。コーヒーの味も向上、エスプレッソやカフェオレの人気は伝統的ミルクティより優勢。
Press Café プレス・カフェハロッズの真正面に、今年1月オープン。入り口では、世界の新聞を売っている。ファクトリーっぽい内装で、天井はガラス張り。地下にはバーコーナーもある。
④クラブファッション、もうコワくない!?
ロンドン文化を語るのに、忘れてはならないのがクラブ。テクノ、ハウス、インディなど、好きな音楽にマッチする、奇抜なファッションできめた若者が集まるのが主流だったが、最近では、飲みながらおしゃべりを楽しみ、ついでに踊りも、というバー&クラブが増加。会員制バーK Barsもそのひとつ。落ち着いたムードで、装いもシック。
⑤カムデンマーケットからパンクが消えた!?
古着ファッションはあいかわらずロンドンっ子たちのトレードマークだが、その着こなしはずっとソフィスティケイトされたようだ。土日に開かれる古着マーケットで有名なカムデンマーケットには、その昔、黒い革ジャンに鼻ピアスなど、過激なストリートファッション娘たちが多かった。今では、拡大されたオープンスペースに、カフェやパブ、ニューショップが並び、とてもクリーンで陽気な雰囲気。マーケットに並ぶ洋服も、カラフルな下着ワンピースや元気なスポーツアイテムなどが多くなり、これまでの暗いパンクな印象とかなり違う。景気のよさは、マーケット社会にも大きく影響している。
おいしいレストランが増えたので、外食がとても楽しみに。
飲んで騒いでストレスも解消。
吉田都さん(バレリーナ)
ロイヤルバレエ学校留学のため、17歳でロンドンへ来たのは14年前。言葉や習慣のギャップを肌で感じ、とても心細かったですね。”活気がない”というのが、当時のロンドンの印象です。天気の悪さにもうんざりしましたが、そればかりではなかったんです。あの頃のロンドンの食事は、ホントに口に合うものがなく、慣れるまで体調を維持するのが大変でしたね。
バーミンガムのバレエ団で過ごし、3年ほど前にロンドンへ戻ってきたのですが、ここ数年のロンドンの食生活の変化は、目覚ましいものがありますね。とにかくおいしいレストランが増えたおかげで、外食するのがとても楽しみになりました。モダンブリティッシュとかも、食べるようになりましたし……。食事は、住んでいる界隈か、オペラハウスのあるコベントガーデンですることが多いですね。
自宅のあるイスリントンは、数年前からアーティストたちに人気のエリアとして注目されているところ。トレンディなレストランやカフェが点在し、食べ歩きが楽しいところなんです。休日は、少し足をのばしてハムステッドの街や公演を散歩します。この辺りも、素敵な店が多いんですよ。日曜日は休みなので、ゆっくりローストビーフのブランチ、サンデーローストを楽しむんです。
毎日のレッスンは、10時半から12時半が基礎レッスン、ステージがない時は、18時半頃まで作品のリハーサル。夜に舞台がある時は、13時半に終わり、後はお昼寝タイム。舞台はとても疲れるので、その前にハードな練習はしません。
オペラハウスで踊っている時がいちばん幸せだから、辛いと思ったことはないですね。ただ、がむしゃらにやってきた20代前半に比べて、30代となった今はロイヤルバレエのプリマ、主役でいることのプレッシャーを強く感じています。体調を整えるのも仕事の一部で自己管理が重要なんです。筋力トレーニングだけでなく、頭のトレーニング、メンタルな部分も鍛えています。ロイヤルバレエは、競争も激しいですからね。10年前には東洋人は一人もいませんでしたが、現在は日本人ダンサーは6人。私を見にきてくださる日本人のお客さんをがっかりさせてはいけない、と思いながらいつもお度っています。
プレッシャーに打ち勝つストレス解消ですか? お風呂に入ることですね。マッサージをしてもらったり、エステに行くこともあります。そして、友だちと騒いで飲む! パブより、スペイン風タパスバーなどへよく飲みに行きますね。やはり、コベントガーデン近辺が多いかな。
自宅でパーティをするのも好きですよ。お料理を作り、友人を招いて、食べて飲んでというディナーパーティ。イギリス人がただパーティという時は、食事は出ないのが普通で、ビールを片手に話をするだけ。でも、ディナーパーティというのは、食べることが主体なんです。私の自慢料理は、日本食とパスタ。4~5人で集まることが多いですね。
⑥パーティでは「食べない・すわらない」!?
「パーティは1か月に1回ぐらい」と言うショーン。来た人からビールを開けて、飲みながらおしゃべりというパターンが多く、パブ同様、食べずにひたすら飲んで話すのが、イギリス人のパーティだ。食べ物は、一口パイやスティックサラダ、スナック菓子といった、ビールのつまみになるものだけ、というお気軽さ。近頃は若者にも経済的ゆとりが出てきてパーティの回数も増えたよう。スーパーのパーティ・レトルト食品が、料理嫌いの彼らの強い味方となっている。
パーティで盛り上がる旬のロンドン情報
「夏はテムズ川沿いとか、オープンエアのパブで飲むことが多いね。週末のガーデンパーティも、おきまりのパターンかな」とニック。ファッションや音楽が、パーティのトピックNo1だ。ローラは、「女の子は、だんぜんファッションの話題。今、ロンドンファッションは面白いから」と言う。「パーティの後、流行りのクラブへ行くこともあると」とショーン。リチャード曰く、「もちらおん政治の話しもね。娯楽ばかりではなく、若者は政治にも興味を持っているよ」
パーティを盛り上げるのは人気テクノ系クラブの音楽
Turnmills ターンミルズ
金曜の夜に行われるクラブが、”ザ・ギャラリー”。センスのいいDJが、テクノス好きの若者に大人気。マスコミ業界人が集まるポッシュな場所でもある。3周年を記念し、5月に発売されたCDも売れゆき上々。
⑦「公園デート」がカップルのトレンド!?
日曜日は公園で過ごすのが、一般的なイギリス人。その伝統は今でも変わらないが、ピクニックランチのメニューはぐっとリッチになった。食文化の向上で、お惣菜屋も充実。さらに、サンドイッチなどテイクアウトものもバラエティ豊かに。カップルでおいしいランチを食べるのに最も注目されている公園が、プリムローズヒル。ロンドンが一望できる丘、公園近くの洒落た通り……。都会の雑踏を忘れ、ロマンチックなムードを満喫できる。
オープン劇場で夏の世の夢。イギリス古典劇は人気不動
Shakespeare’s Globe グローブ座
テムズ川沿いに昨年完成した、シェイクスピア時代の劇場を再現した屋根のないオープンシアター。5~9月の夏のみ、前衛的なシェークスピア劇も上演される。
映像の芸術性にこだわるホットなエリアの映画館
Lux Centre リュックス・センター
以前は倉庫街のような何もないところだったが、最近アーティストに注目されているホクストン・スクエア。ここにオープンした映画館では、意義利をはじめ各国の若手監督の作品など、アート性の高いアバンギャルドなフィルムも応永。すぐ隣には、現代アートのギャラリーも。
写真の歴史と進歩を語る美術館にあるギャラリー
Canon Photograhy Gallery キャノン・フォトグラフィー・ギャラリー
5月にオープンした写真専門のギャラリー。V&A美術館が所蔵する30万枚の写真コレクションの中から随時展示している。初期のものから現代まで、幅広い。


