観光ビジネスに取り組むニセコ地区と世界金融危機2/2

『専門店』2009年4月号に掲載された記事です。

観光ビジネスに取り組むニセコ地区と世界金融危機1/2
世界有数のスキー場として人気のニセコ。外国資本によるスキー場周辺の家屋取得数は、2006年の102から2008年には3倍の34軒に増加した。乱開発を憂慮する地元では、リーマンショックによる「投資バブル崩壊」を肯定的にとらえる見方も強かった。

いまひとつ成果が見えない地元への経済効果

オーストラリア人先導のスキーブームは、この地域にどのような経済効果をもたらしているのだろうか。この周辺を歩いて気になったのが、山田地区の活気とは対照的に、倶知安の市街地が閑散としている点だ。

市街地とスキー場はバスでむすばれており、夜間も夜十一時過ぎまでナイト号が行き来している。ナイト号は、百円のカードを購入すれば、ひと冬乗り放題とお得だ。
市街地を訪れるスキー客が多いにもかかわらず、立ち寄る店は限られていて、まだチャンスをものにできないでいると感じた。

また、雇用の改善に一役買っているともいいきれないようだ。倶知安町のハローワークで提示された統計をみると、このエリアの求人は十一月に急増し、有効求人倍率は二倍近くなる。職種はホテルや飲食店といったサービス業が中心で、ほとんどがパートだ。そのため、地元の人の希望に一致しないらしく、需要と供給のバランスがとれていないのが現状だ。

もちろん、地元への還元がまったくないわけではない。スキー場に最も近いスーパーマーケット・マックスバリュー倶知安店は、約二割が外国人客で、連日三〇〇人ほどの外国人買物客でにぎわう。午後五時から七時のレジは、外国人の行列ができる。一月から三月の売り上げは、八月や十二月と変わらないという。シーズン時には、輸入チーズコーナーを設けるなど、オーストラリア人客向けの企画もうちだしている。
また、倶知安駅前のコープでも、買い物をする外国人に出会う。スキー場入口にあるコンビニは、夜になると店内はみっちり混み合う。

新規ビジネスを支えるオープンで自由な風土

倶知安の市街地には新しいカフェやレストランも開店し、新規ビジネスも生まれている。その経営者の多くは、外国人や地元以外の日本人だ。

MSKは、長期滞在者向けにマンスリーマンション形式で部屋を貸している。市街地にはこれまで長期滞在用のアパートはなく、新しい試みだ。
長年使用されていなかったJRアパートを買い取り、リフォーム。昨年9月から事業をはじめた。一ユニット四~五人使用可能で、一ヶ月五~六万円ほど。管理・運営している四四ユニットは、今シーズンほぼ満室だった。
割烹料理屋だった物件も改造し、今年は実験的にニュージーランドからの団体客に貸し出した。今後は、様子をみながら、事業を展開していくという。夏に長期滞在する日本人へのアピールも計画だ。

また、ニセコグルメは、若いオーストラリア人カップルがはじめたケータリングサービス。フランスに住んだ経験から、シャモニーなどのリゾートで一般的なケータリングサービスをニセコ地区でもはじめることにしたそうだ。
外国人観光客向けに、日本料理教室も行っている。オーストラリア人は一週間以上滞在するため、こうしたコースは人気だという。夏には、日本人向けにフランス料理教室とゴルフ、温泉をパックにしたツアーを企画している。

さらに、オーストラリア人が出版する情報誌「Powder life」(隔週)も登場。ニセコ周辺の飲食店、日本文化、人物などを紹介している。

この地区は、昔から人の出入りが自由で、移住者にやさしいことで知られている。外国人の受け入れにも寛大だ。スキー場は大手リゾート会社による一括経営ではなく、本州のスキー場のような行政との癒着や干渉が少ない。つまり、新規ビジネスを興しやすい環境なのだ。こうした優位性を地元が生かせば、より大きな経済効果が期待できるだろう。

課題をクリアし、日本一の国際リゾートに

今年、オーストラリアからのスキー客の減少を、シンガポール、香港からの客が補った形となった。昨年のアジアへの売込みが功を奏したともいえる。中国人のスキー人口も伸びており、ニセコ地区への集客が期待できる。
また、今年は日本人客も増加した。これからは、団塊世代をターゲットに、コンドミニアムを利用したスキーホリデーの売り込みを本格化させるという。
地元にとって最大の悩みは、夏と冬の差が大きすぎることにある。
最近、観光プロモーションに本腰を入れはじめた。倶知安市街地に案内施設「ぷらっと」がオープンしたのは、2007年7月。商店連合会、観光協会、小売酒販協同組合が中心に運営している。

ニセコ地区のスキー場の問題のひとつとして、倶知安町とニセコ町の二つの自治体にまたがり、統一した施策が実現しにくかった点があげられる。そこで、二〇〇七年九月に、有限責任中間法人ニセコ倶知安リゾート協議会(NPB)を設立し、官民が連携をとりながら、観光の促進にのりだした。
NPBは、「年間を通じて観光を定着させたい」と意欲をみせる。全日空とのタイアップ、地域交通(バス)の活性化、中高年者へのコンドミニアムの売り込みなど、今年の夏に向けてすでに準備は進んでいるという。

今回の経済的な試練は、冬だけのリゾートから夏も人が集まる通年型の観光地への転換に拍車をかけることになったといえる。

倶知安町は建造業などに乏しく、官頼みの傾向が強かった。こうした民間主導型の活性化は新しい動きであり、地元の人に刺激を与えているようだ。
それはまた、北海道全体にも共通している課題でもある。一月の老舗デパート破綻で、北海道経済はさらなる混迷をきわめている。長年の経済不況の出口が見出せないでいるなか、“観光”は唯一ともいえる生き残り策になるはずだ。観光を“ビジネス”としてどう位置づけるか。まさに、それが試される時期に入ったといえる。
自然自発的に成長していったとはいえ、安定した“地位”を維持するためには、斬新な発想が求められるだろう。
多国籍の顧客を対象にした観光ビジネスの確立、長期滞在型休暇の定着など、日本のツーリズムに変革をもたらすことができるか。ニセコ地区がその先駆的存在になることを期待したい。

 

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