集団的自衛権が命を守れない理由 パワハラで悲鳴の現場

『週刊女性』2014年9月2日号に掲載された記事です。

戦う前にパワハラで悲鳴の現場
「自衛官の反応はゼロですよ」

集団的自衛権が閣議決定して1か月半。自衛官の相談機関「米兵・自衛官人権ホットライン」事務局長で軍事評論家の小西誠氏のところには、これといった問い合わせはないという。

「大半の自衛官は新聞やテレビの報道に無関心で、政治的教育もされません。危機感を抱くのは、実際に訓練が始まってからでしょう」

イラク戦争のときも同様で、派兵が現実味を帯びるまで、家族や隊員からの相談はほとんどなかった。

「それよりも……」と、小西氏は語気を強める。

「毎日寄せられるのは、辞めたい、死にたいというメールです。自衛隊は深刻な状態に陥っているのです」

ホットラインを立ち上げて10年たつが、パワハラや自殺の相談は年々増加しているという。多いときに1日2回、少なくても週3~4回は、新しい自衛官からの悲痛な声が届く。

最近の特徴は、幹部自衛官からの相談が目立つこと。一般隊員より待遇がよく、命令する立場の幹部自衛官が、さらに上級の幹部から嫌がらせや暴行を受ける。

「過剰任務に、海外派兵や災害派遣などが加わり、パンク状態なのです。私もびっくりしましたが、幹部隊員は、平日は夜中の1時2時まで働き、土日も出勤しているんです」

こうしたストレスフルな環境のなか、いじめが陰湿化していく。一般企業でみられる現象が、自衛隊内でも起きているのだ。

自衛官のストレスの激化は、「トランスフォーメーションがきっかけ」と小西氏は分析する。ソ連の崩壊で仮想敵国が中国に移り、00年ごろに自衛隊は北方重視から南西重視に再編した。部隊の配置や任務が大きく変わり、訓練も、装甲車で敵を狙う作戦から、近距離のゲリラ戦へと転換。それまで戦車に乗っていた隊員が、小銃を持たされ、相手の目を見て撃ち、「トドメを刺す」射撃まで要求されるようになった。

この訓練は大きなストレスとなり、異常な戦場心理状態を生みやすくする。

ほぼ同時期に海外派兵もはじまり、とたんに自殺者が急増した。極限まで精神的に追い詰められた結果、暴力や恫喝という形で、自分より弱者へと向かう。

「集団的自衛権はさらなる追い打ちになりますよ。パワハラや自殺はエスカレートするでしょう」と小西氏。

集団的自衛権で安部首相は「国民の命」を守るというが、実際は「日本と密接な関係にある他国」を守るために行使される。だが、人権が奪われ、自分の命さえ危うい自衛官に任務の遂行は土台無理な話だろう。

自衛隊の上層部や政府は、自衛隊の実態をある程度知りながらも、怖くて見ようとしないのだという。

「自殺者は統計上約100人ですが、未遂を合わせたらものすごい数です。自殺理由の半分は”不明”となっていますが、パワハラですよ。遺書があるので、わかっているはずです。刑事責任が問われるのが嫌で、ごまかしているんですよ」

こうなると徴兵制導入も心配だが、「国家総動員型の世界戦争はまだ想定外。地域紛争ぐらいなら志願で十分です。高報酬を提示すれば、志願者は集まるでしょう。残念ながら」

ここまで強引に「壊れた軍隊で戦争をさせようとしている」のは、ひとえに、軍事大国家復活の夢をかなるため。安倍首相が打ち出している一連の政策で着々と、そして巧妙に”戦争ができる国”に仕上がりつつある。

女性活用もしかり。

「女性自衛官を3倍、5倍に増強する手段も考えられます。現在は約1万3000人しかいませんから」

「女性が輝く社会」と謳う陰に、女性を積極的に戦争で活躍させたいという目論みが透けて見える。

「最終的には、石破茂幹事長の言うように、軍事法廷で懲役300年や死刑にして、派兵を強制するしかない。母親たちに反対されては困るので、特定秘密保護法などで周りを固め、社会全体に軍国主義の雰囲気を盛り上げているわけです」

 

南スーダンPKO派遣差止訴訟が2017年札幌ではじまる
自衛隊の南スーダンPKO派遣の違憲性を問う、全国で初めてのケースとなる裁判の第1回口頭弁論が札幌地方裁判所で2017年2月に行われた。自衛官の息子を持ち、自衛隊基地の街・北海道千歳市に住む原告の女性は、「派遣による平和生存権の侵害」を訴える。
南スーダンPKO自衛隊派遣差止め訴訟と黒塗りの日報
日本政府は南スーダンPKOを撤退させたが、この問題を終わらせないと、女性は国を相手取り、札幌地方裁判所に提訴した。弁護団は日報の黒塗り部分には違法活動が記されていると疑う。『The Japan Times』2017年8月6日に掲載された記事。
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