気候変動問題、二極対立を超えたシステム作りを

『日刊ベリタ』2008年8月10日に掲載された記事です。

<G8サミット、残された課題は何か> NGOリーダーへのインタビュー(2)

「気候変動問題で躍進はなかったが、何も起こらなかった、という観点からは、被害を最小限に抑えるダメージコントロールができたかもしれない」と今回のG8サミットを評価する 大林ミカさん(NGOフォーラム・環境ユニットリーダー、環境エネルギー政策研究所)に、今後の課題と取り組みについてお話をうかがった。大林さんは国連を舞台に、先進国と途上国の溝を埋める作業が必要と指摘する。

気候変動問題はG8サミットの重要課題であり、大きく取り上げられていた。しかし、何も変化がなかった。ブッシュ大統領の任期中は動けない、というのが如実に現れていたといえる。

ブッシュ大統領が主導するMEM(主要経済国会合)に参加するのは大量排出国のみで、視点が偏りがちだ。この会議では、後発開発途上国や島嶼国といった気候変動で大きな影響を受ける国の声が反映されないので、これ以上継続するべきではない。

気候変動の問題は、関与するすべての国で議論するのが望ましい。つまり、国連の場で議論されるべきであり、国連気候変動枠組条約の会議に全力を尽くすべきだ。そういう意味では、今回、国連での交渉プロセスが重視されたことは評価していいだろう。

一方で、国連においても、いわゆる「先進国と途上国の溝」を埋める作業は必要である。途上国のなかには、中国やインド、ブラジルといった温室効果ガスを大量排出する新興国から、すでに気候変動による被害を受けている島嶼国や低開発国などさまざまな立場がある。先進国と途上国の二極対立ではなく、より総括的な視野に立ち、合理的な仕組みを考えていかなければならない。今まさに多大な被害を受けている国をどのように救うのか。そうした対策を優先し、具体的な政策を打ち出していくべきだろう。

そこでまず求められるのは、先進国自らが排出量を減らす態度を示すことだ。新興国には経済発展にも役立つ気候変動緩和のための提案を行い、新しい枠組への参加を促す。資金面だけでなく、政策による援助の姿勢を示す必要がある。大胆な対策に踏み切り、先進国が本来の指導力を発揮すれば、途上国からの信頼も回復するだろう。

中国やインドなどの新興国についていえば、中国はやる気がないどころか、風力や太陽光、太陽熱など自然エネルギーの導入に非常に力を入れている。インドも地球温暖化対策として自然エネルギーを大幅に増やす計画を立て、南アフリカも先進的な気候変動対策を打ち出している。
中国もインドも、むしろ日本よりも野心的に取り組んでいるのが現状であり、日本は、これらの国々を新しい経済のパートナーとして見据えたほうがいい。日本が環境で技術的に優れているのであれば、その技術の提供先を考えるのが、今後の経済発展につながる。

北海道洞爺湖G8サミットでは、国際メディアセンターにNGOのワーキングスペースと記者会見場が設置されたが、NGOの参加といっても、意見を聞く対等 の相手として扱われていたかというと実際にはそうではない。入国拒否やビザ発給の遅れなどでサミット関連活動に参加できなかったNGOも存在する。これからも日本政府に対して、対等のステークホルダーとしての位置づけを要求していくべきだと考えている。

日本は、国際社会から具体的な中期目標の設定を求められていたにもかかわらず、それに応えられなかった。政府は、来年のしかるべき時期に中期目標を決めると言っているが、国内での議論はなされていない。それに対して、できるだけ早く、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の科学的知見に基づいた中期目標が設定されるように働きかけを続けてい く。

メディアを効果的に使い、NGOの提案を主張する方法もあるだろう。また、世界的なキャンペーンを繰り広げ、国際社会の世論を味方につける計画も実施したい。
さらに、日本のビジネス界へも訴えていく必要がある。鉄鋼や電力に代表される産業界は気候変動対策に非常に後ろ向きだが、実は、経団連内の企業を個別に見ていくと、さまざまな意見がある。気候変動に取り組もうとしている企業は、声の大きな産業に押されてしまっているのが現状である。積極的な企業との連携を図ることにより、日本の経済界でも気候変動に挑戦できるという機運を作ることが大切だ。そうしなければ、日本の産業界は国際的に大きく出遅れてしまう。

20年後の日本は、国際社会において今ほどの力を有していないだろう。だとしたら、20年先から逆算して、現在の日本がどうあるべきかを考えるべきである。西欧諸国は、転換点にある米国も含めて、気候変動を国家安全保障の問題と捉え、市場や技術面での大きな転換を図っている。中国やインドなどの新興国は、著しい経済成長のまっただなかにあり、今後温室効果ガスの大幅削減に向けて国際的な議論に乗らざるを得ない。日本だけが例外ではあり得ず、むしろこの機会を好機と捉え、新しい価値観に基づいた新しい国際的な位置づけを得るための足がかりとすべきである。

 

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