フランスのエイズ撲滅「ロックフェス」の主催者に聞く

パリでは毎年、夏に「ソリディーズ(Solidays)」というエイズ撲滅のロックフェスティバルが行われています。
主催しているのは、「ソリダリティ・シダ(Association Solidarité Sida エイズ連帯)」という団体。1999年にイベントはスタートし、団体も設立20周年を迎えました。

Solidarité Sida | Des jeunes contre le sida
À la fois acteur de prévention, organisateur d'événements et partenaire d'associations communautaires à travers le monde, Solidarité Sida est une entité à multi...

2007年夏に、「ソリダリティ・シダ」のリュック・バリュエさんにお話をお聞きしました。

今年は、11万5千人が来場しました。昨年より少し減少しています。昨年は13万人ほどが入場しました。

人数が減少した理由はいろいろありますが、ひとつは、フランス社会で全般的に興行分野が停滞しているからです。競争が非常に激しく、フランスは景気が停滞している時期です。たとえば、消費が落ち込むといった不幸な状況がこの数ヶ月つづいています。
こうした雰囲気が全体に影響し、消費が冷え込んでいるのとともに、フェスティバルなどすべてのイベントが昨年に比べてうまくいっていません。エイズに関するイベントにも同じことがいえます。

スタッフは、週末だけで約4000人です。3000人のボランティアと、専門職の人が400人ほど無償で参加しました。その他、多くの人が無償で協力してくれました。若者が多く、ほとんどがボランティアです。

この団体は、22人が正式な社員として働いています。それほど大きな組織ではありません。
小さな団体ですが、大きなイベントを企画運営します。
それはソリダリテ・シダの歴史でもあります。
ソリダリテ・シダは、つねに定期的にイベントを開催してきました。
事業を実施し、資金を管理し、お金を計画的に使ってきました。
ソリダリテ・シダが設立されて今年で15年になりますが、その当時から、定期的にイベントを開催してきたのです。
イベントを主催するというのは、私たちの仕事の一部ともいえます。

この団体を設立したとき、私は学生でした。15年前のことです。
私は7年間ここで働いていましたが、それはボランティアでした。とても特殊ですが。
私は仕事をしていませんでした。お金もなく、とても厳しかったのですが、ボランティアのままでいたかったのです。
団体は正社員を雇っていて、私は毎月社員に給料を渡していたのですが、私自身はボランティアのままでした。
32歳までボランティアでした。
でも、32歳でボランティアというのはとても厳しいので、私は代表から退く決意をして、ソリダリテ・シダの社員になりました。それから8年になります。
私は以前に就職したことがありません。働いたのはソリダリテ・シダだけです。
大学を卒業してソリダリテ・シダを設立し、つねにこの団体の活動をしています。
大規模なプロジェクトを企画するので、団体としては経済的には問題ありませんでした。

私たちの団体は、お金を稼ぐ人たちの能力にかなり頼っている部分があります。
定期的に行う事業は大規模です。
常にダイナミックで、ダイナミックで、ダイナミックなプロジェクトを企画し、作り出す義務があるのです。
やる度に事業を発展させるのが義務でもあります。

多くの企業と一緒に活動しています。企業は、われわれと活動するのが好きなのです。
なぜなら、いろいろな理由がありますが、ひとつはエイズという問題、それから、特に、運動のダイナミックさ。市民活動のやり方です。
それと、無私無欲という団体の哲学。
企業と一緒に、ソリダリテ・シダと同じ言葉で話します。
問題が持ちあがったときは、私たちがそれをコントロールし、彼らに回答を出します。
社員、管理経営、コミュニケーションなど、私たちは同じ言葉を使用しています。

企業からは何も押しつけられません。
もちろん、何かを求められますが、私たちのイベント「ソリディーズ」なのであり、たとえば、ソニーの「ソリディーズ」にはなりえません。企業名を冠するなどということはしません。
それぞれがそれぞれの場をわきまえて参加しているのです。
そこにはバランスが保たれているのです。
われわれはつねに独立した団体です。
必要であれば企業と一緒に働くように導きますが、団体としてはつねに独立性を保っています。
企業と面と向かってつきあい、地方自治体ともかかわりながらも、われわれは独立しているのです。
協力してくれる企業の数はよくわかりませんが、50以上でしょうか。
人々はダイナミックさを期待して協力してくれます。
「ソリディーズ」の開催に際し、人々はそれに参加したいという欲求が強まるからです。
同じ言葉で話すとき、人々は問題に答えます。企業であっても地方自治体であっても。
こうしたことがうまく機能します。
彼らの気持ちとわれわれの気持ちは、明らかに一致するのです。
人々はそれを望んでいます。
でも、つねにダイナミックでいなければならず、野心的でなければならず、問題を解決していかなければなりません。

この事務所で働いている若者の平均年齢は28歳です。
ソリダリテ・シダが設立したころの平均年齢は24歳で、今より若かったです。
ここで働いている社員は、みな以前は違うところで仕事をし、もっともっと稼いでいました。ここに来たら給料は減っているはずです。
社員の能力レベルは非常に高いです。学歴が高い人ばかりです。平均学歴がとても高い。
社員は資格を備えた人で、別のところで働いていました。
たぶんいまより仕事量は少なく、それでいてたくさんお金を稼いでいたでしょう。
そうした若者が、他の価値を求めて、ここに就職したのです。

人々を動かすにはどうしたらいいか?
私は、エンターテイナー(司会者)の魂を持っているのだと思います。
林間学校とか、プログラム(ショー)を披露するとき、人々に受けるようなものにしようとしますよね。
ものごとをうまくやるために一番大切なことは、プログラム。
つまりグループ活動は、それぞれの人が遊べるものでなければならない、ということです。
これが一番大切です。

良いアイデアは、実現可能であり、魅惑的。そのすべてがそろっているべきです。
「エイズのために、エイズと闘うためにやらなければならない」とは絶対言いません。
事業はつねにとても真剣な課題であることが大切で、それがベースにあります。
でも、みじめさだとか、カンパとか、劇的とか、感受性に訴えるやり方はしません。
われわれは、つねにダイナミックで、ポジティブに訴えています。
「死んでいくエイズの人たちを見てください」といったことは絶対やりません。
それがわれわれのやり方です。
罪の意識を感じるような、悲観的な感情に訴えることはしません。
つねに前向きな感情になるようにしています。
希望は人々に大切で、社会的利益に必要だからです。
私は、人々を事業に参加させるよう提案し、機会を提供しているのです。
人々はそれを求めているのであり、必要としているのであり、やりたいと思っているのです。
人々のベースにあるのは、「やりたい」という欲求です。
誰もが、仕事や家族以外に、「やりたい」と思っているのです。
私たちは、その思いを分かち合い、助言しているのです。
私たちは何かを造り、何かを実現していきます。参加する機会を提供しているのです。
私の仕事は、人々に「欲求」を与えること。私は人々に「やる気」を与えることです。

私が思うに、若者が何かをやるのは簡単ですが、現在は、それほど若くない人も、何かをやりたがっています。
20代、30代、40代、50代、すべての世代が、今はこれをやりたがっています。
私は世代間のギャップを感じていません。
メカニズムは同じではないけれど、結果は同じです。
人々はそうした時間を求めているのです。

政治家(大臣)も「ソリディーズ」に参加しました。大臣もポケットマネーでチケットを買い、参加したのです。
ドミニク・ドヴィルバン元首相も、ひとりでプライベートとして来ました。
個人的な楽しみからです。政治家としてではなく、感情的な側面からです。
イベントにはアーティストなど、さまざまな人が参加します。ダイナミックな集団です。
アーティストの多くがボランティアで参加してくれます。
出演料を支払う場合も、ギャラを安くしてくれました。
アーティストたちは、ここでライブをしたがっているのです。
運営がよく、状況がよく、参加者もいい。すべての理由で、参加に協力的です。

フランスは、連帯することに対する教育が行き届いています。
社会問題への関心が高いです。
革命の伝統があるからでしょうか。
よくわかりませんが、何かをやる精神を持たなければならないと信じています。
可能性がある、とつねに思うところがあります。

私たちの団体はデモもやります。
昨年は、5月にG8に抗議するデモを行いました。
問題は何ひとつ起きませんでした。問題はゼロです。
人々は笑顔でデモ行進しました。すばらしいことです。
来年は北海道でG8が開催されるのですか?
招待されたら行きますよ。日本は一度も行ったことがないので。
分かち合うことには賛成ですから。
さまざまな国に政治や軍事的な問題があり、さまざまなところで「ソリディーズ」をやってみたいのですが、時間がありません。
「ソリディーズ」は、単なる大規模なコンサートと違います。大規模なコンサートなら、何の意味もありません。
連帯とは、分かち合うことです。

(2013年11月2日)

 

フランスの「新しい公共」市民運動NPOの現状
フランスの自治体と市民団体による協働は、90年代以降のアソシアシオン(市民団体)の急成長、2004年の地方分権改革で活発化した。しかし、サルコジ政権以降、市民活動への圧力は強くなっている。ヨーロッパが右傾化するなか、各国の状況は類似している。

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