2010年10月30日(土)から11月1日(月・祝)まで、フランス東部のナンシーで、フランスの非営利組織RECIT(市民教育ネットワーク)主催の第4回国際会議&ワークショップ「危機に直面した市民教育:抵抗して未来を築くために」が開催されました。
「教育は世界を変える最も強力な武器」との考えに基づき、グローバリゼーション、新自由主義、貧困や差別といった問題の解決のために、市民力を養い、人が人らしく生活できる社会を作ろう、とフランス国内外の市民が結集し、意見交換を繰り広げるというイベント。
10月23日(土)にスタートし、国内外の参加者が地元市民や自治体と交流を重ね、最後の3日間で大規模な国際会議が行われました。
参加者は、海外から約46団体(ブラジル、アルゼンチン、ハイチ、セネガル、ベナン、コンゴ、ギニア、モロッコ、ケベック、ルクサンブルグ。アジアからは、ネパール、ベトナム、カンボジア、インドネシア、パキスタン、タイなど)、フランス国内の団体200以上、および約19の自治体、それから一般市民。300人近い参加者だったそうです。
教育関係だけでなく、人権、連帯経済、持続可能な開発、環境などさまざまな活動にたずさわっている団体や市民が集まりました。
3日間のイベントは、シンポジウム(ATTAC代表など)の他、26のワークショップ、5つの双方向講演、16の体験教室とみっちり。
26のワークショップは、「市民活動の将来について」「市民を巻き込むには?」「アフリカの現実」「責任ある消費のために」「どのような連帯経済が必要か」「共存のための人権尊重」「危機が弱者に与える影響」など、市民活動、経済、教育、人権をテーマにしたもの。
16の体験教室は、「テレビ報道を読み解く」「フェアトレードのゲーム」などです。
RECITは、第1回世界社会フォーラムの参加者らが中心になり、2002年10月に設立された団体。「責任ある市民」を増やすために、セミナーや出版などの活動をしています。現在の会員は、3,500人、300団体。国際会議は2年おきに開催され、今年は海外からの参加に力を入れたとのこと。
たまたま知り合いからRECITの事務局のひとりを紹介され、今回はじめて参加したのですが、フランスの市民活動の実態やフランス語圏の連帯を少し垣間見ることができ、多くの人と知り合いになり、個人的にとても有意義な時間でした。
それぞれの団体が抱える「活動する難しさ」は共通しています。このイベントでは、お互いの経験を語り、悩みを共有し、連帯の大切さを分かち合いました。
フランスの市民活動は活発だと思っていましたが、「存続の危機感」「賛同者を得る難しさ」「権力からの圧力」など、日本と共通の問題があることを知りました。
どの国の人たちも、困難のなか、権力に立ち向かっているのです。
フランスでは自治体と市民団体による協働がすでにはじまっていますが、その関係は、必ずしも「うまくいっている」とはいえないようです。
2004年の地方分権改革、90年代以降のアソシアシオン(市民団体・NPO/NGO)の急成長は、地方自治体とアソシアシオンの協働が活発化させました。
しかし、サルコジ政権以降、市民活動への圧力は強くなっているそうです。ヨーロッパが右傾化しつつあるなか、各国の状況は類似しているといいます。
サルコジ政権の新自由主義路線政策(1月18日フィヨン通達、サルコジ政権による新たな分権改革など)やこのところの金融危機、EUのサービスの自由化(ボルゲシュタイン指令)などの影響を受け、地方自治体とアソシアシオンの関係が揺らいでいます。
グローバル化と自由競争の激化にあえぐ地方、財政難と弱体化に歯止めがかからないアソシアシオンは、「良好な関係」を模索しているのが現状です。
今回のイベントのプログラムのひとつとして、ロレーヌ地方、ムルト・エ・モゼール県議会で、「地方自治体とアソシアシオンの協働」をテーマに、地元議員や住民との円卓会議が行われました。
この会議で、ミッシェル・ディネ県議会議長(社会党)とディディエ・ミノRECIT理事長は次のような発言をしました。
ミッシェル・ディネ県議会議長(社会党)
アソシアシオンの衰退と地方自治体の弱体化の原因は共通しており、市民活動と公共サービスにおける市場原理の拡大にある。
つまり、自治体が有する豊かな資源や人と人との交流は、非物質的な財産であるにもかかわらず、それを無視し、競争の原理を持ち込んでいるのだ。
アソシアシオンと地元住民が協力してプロジェクトを実現する可能性を否定しようとしている。
国際社会が緊張を増すなか、持続的な危機に立ち向かうには、以前にもまして、自治体と市民との日常的なパートナーシップ、そして、地域と世界をグローバルに結びつけながら住民を支援するネットワークが重要になる。
ディディエ・ミノRECIT理事長
新自由主義のイデオロギー、自由競争の導入に、多くのフランス人は耐え忍んでいる。
レジャー、文化、スポーツといった活動にたずさわる地方のアソシアシオンは、次第に商品化している。利益が期待できる活動かどうか、競争にさらされている。
政府はここ10年ほど、将来性のある多くの活動(研究、社会活動、健康、文化創造、スポーツ、環境保護、職業訓練)への助成を渋る一方で、アソシアシオンに対する入札を増加させている。
民間組織と対等に競争できる事業が要求され、アソシアシオンが40年も地道につづけてきた社会福祉、教育、医療保険の“利益”は全く考慮されない。ここ数年、公益に寄与してきたアソシアシオンの多くが消滅し、多くが破滅寸前である。私利私欲のないアソシアシオン活動は崩壊の危機にある。
経済活動を求めるアソシアシオンも存在するが、アソシアシオンの究極目標は、社会との結びつき、地域との連帯、人材の育成(市民活動と昇給)、連帯、公教育にある。
1月18日フィヨン通達は、『アソシアシオンの活動の大部分は、経済活動とみなすことができる』と、アソシアシオンに競争の権利を与えている。これは全く容認できない。
国家に追随する自治体も存在するが、それに反し、アソシアシオンを支援しつつ、文化や職業教育の改善などの政策を打ち出している自治体もある。社会の本質的な権限を守るために、アソシアシオンは、価値感を共有する自治体とともに最前線に立たされている。
アソシアシオンと自治体が対峙する相手は、矛盾した立場を示している政府である。政府は、活性化を促進・支援しながらも、一方では活動を抑止しようしているのだ。政府は権力に抗うもの全てを弾圧しようとしている。この矛盾を強調しなければならない。
危機のときこそ、行動を起こす大きな機会でもある。より人間的な社会の出現のために、アソシアシオンと自治体がどのように一緒に行動することができるか? アソシアシオンが公共サービスを担っている今、「公益」という言葉を再検討し、アソシアシオンと自治体の関係を再定義する必要がある」
(2013年12月5日)