ガーディアン紙の電子版は2011年6月30日、イギリス政府関係者と原子力企業とのメールのやりとりを暴露した。
ガーディアン紙が入手した内部メールはネットで公開されている。
日本をおそった地震と津波の2日後に、イギリス政府は原子力企業に「原発の安全性」をアピールするPR作戦の協力を迫るメールを送っていた。
イギリスの経済省とエネルギー省が、フランス電力公社(EDF)、アレバ、ウエスチングハウスといった多国籍原子力企業と秘密裏に連絡をとっていたのがわかる。政府のこうした働きかけは、福島第一原発によってイギリスでの新世代原子炉建設計画が延期されるのを危惧したため。
記事は次のような内容(全訳ではありません)。
「この事故は原子力産業を世界規模で後退させる可能性がある」とビジネス・イノベーション・職業技能省の役人が書いている。「反原発を唱える奴らが優勢にならないようにしなければならない。原発の安全性を示す必要がある」
政府関係者は、この事故で原発推進支援の世論が衰えるのを防ぐことが重要だと強調した。
下院の環境監査委員会員で保守党のザック・ゴールドスミス議員は、メールで暴露された政府と原子力企業との協力関係を非難した。
「政府は企業のPR活動をすべきではなく、省庁が福島原発事故の影響を軽視していたとしたら、ひどい話だ」と言った。
NGOグリーンピースのルイーズ・ハッチンス代表は、「スキャンダラスな共犯」とみなし、「これは政府の原発に盲目的な執着を強調しており、政府も企業も信用されないだろう」と述べた。
世論調査によると、イギリスや世界中で、原発推進の声は弱まっている。ドイツ、イタリア、スイス、タイ、マレーシアは、原発事故後に原発建設計画をキャンセルした。
ビジネス省は、福島原発事故の2日後に、原子力企業と原子力産業協会にメールし、事故の結果がまだ明らかにされず、2度の水素爆発もまだ起きていない時期に、テレビの映像ほど悪い状態ではないと書いている。
「放射能漏れは制御できている。原子炉は守られている」
役人は、「企業がコメントを送れば、それらを大臣や政府の発言に組み込むことができる」と提案。「メディアや国民へ伝えるメッセージに、我々は同一の素材を活用する必要がある」
「ヨーロッパ中の反原発賛成者は、この事故をチェルノブイリにすりかえてすぐに動きだすだろう。チェルノブイリとこの事故を比較するあらゆる話を、つぶさなければならない」
エネルギー・気候変動省は、福島の事故から1週間で80以上のメールを発信している。
4月7日、原子力開発局は原子力企業を招いた。その狙いは、「原発施設の安全性への自信を持ちつづけていることを、イギリス国民に確信させるための広報戦略を議論する」ため。
政府の安全監視機関である原子力施設検査局が発信したメールもあり、それによって、原発の新計画への福島原発事故の影響に関する4月5日の発表は、この1週間前に開かれた会議で原子力企業の代表者に個人的に明らかにされていたことが暴露された。前査察官のひとりによると、馴れ合いの度合いは「まったく衝撃的」だという。
政府の前環境アドバイザーで、ロンドンのインペリアル・カレッジの非常勤教師のトム・バークは、イギリス政府は日本の過ちを繰り返すだろうと警告した。「政府は企業に近寄りすぎている。問題を明らかにして取り組むというよりむしろ、問題を隠蔽している」
イギリス政府は先週、8つの新規原発施設建設計画を決めた。
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フランスのネットマガジンRue 89も、「アレバとフランス電力公社(EDF)が日本の原発事故の危険性を過小評価し、PRキャンペーンに加担した」と、この件に関する記事を掲載。
以下、記事の内容(全訳ではありません)。
日本で地震と津波が発生して48時間しかたっていない3月13日の日付のあるメールに、唖然とさせられる。ビジネス省の役人は、多国籍原子力企業に、作戦計画を提示している。
「我々は行動をともに、メッセージを発信しなければならない」
福島第一原発事故の原子炉の中で何が起こっているのか全く闇に包まれ、2つの水素爆発も起きていないときに、熱心な役人の確信はまったく揺らいでいない。
「原子炉の中で起こっていることは、原子炉外部にはおよんでいない。放射線漏れは制御されている。原子炉は守られている」
「人生には危険がつきものである」
イギリス政府の中心にいる卓越した原子力の専門家の意図は、このうえなく無責任で、最悪な犯罪のようにみえる。福島第一原発事故で明らかになった欠陥を心配するより、儲かる産業の利益を守りたいようだ。
作戦として執着しているのは、核の敵の口封じである。
イギリスの19の原子炉のうち9つを運営しているフランス電力公社の代表は、新規に建設する使用済み核燃料貯蔵施設への認可を大臣たちが延期しないよう、政府に伝えている。
ガーディアン紙の記事は、8つの原発の新規建設に政府がゴーサインを出した数日後に掲載された。
現在、多くの議員が、エネルギー・気候変動省のクリス・ヒューン大臣の退任を求めている。
福島第一原発事故後、国際的な世論は、原発に関して次第に大きくなっている。Ipsos-Moriが24カ国に行った調査では、62%の人が原子力エネルギーに反対する。25%の人が、日本での惨事が理由で意見を変えたと言っている。
ドイツ、スイス、イタリア、タイが脱原発を開始した。これに逆行し、イギリスは原子力売買のパラダイスになっている。アレバは、自社のEPR(欧州型加圧水型炉)を売りつけたがっている。
イギリスでは20%が原子力エネルギーだ。2006年にトニー・ブレア前首相が原発の道を開き、保守党と自由党の連立政権は、2倍にする野心を抱いている。
(2011年7月20日)