福島でのイラク人医師講演会の報告

2012年9月7日に福島市で行われたイラク人医師の講演会の記録から、会場との質疑応答です。

参加者:がんや白血病のほかに、病気の発症はありますか? あるとしたら、それはどういった病気ですか?

フサーム医師:子どもに関しては、流産や死産が増えています。大人では、肺がんや乳がんが見られます。免疫力の低下で、これまで以上に抗生物質が必要になっています。

参加者:健康に問題がある子どもの割合はどのくらいですか?

フサーム医師:イラクでは、劣化ウランだけではなく、1991年と2003年の2度の戦争、その間の経済制裁で、インフラも壊滅し、電気や水が不足するなど、複合的な要因で病気が発生しています。経済制裁の期間中、ワクチンは悪用の可能性があるということで、輸入ができませんでした。そのため、感染症も増えました。
たとえば、下痢は飲み水が原因だったりしますが、イラクでは他にもさまざまな要因が関係していると思います。
健康に問題のある子どもの割合を言うのは難しいです。

参加者:イラク戦争後、イラクがどうなっているのか、とても心配でした。今日はいろいろなお話を聞き、どういうことが問題かがわかり、私なりにお手伝いができたらな、と思います。
劣化ウラン弾を使ったアメリカに対して損害賠償請求するべきではないかと思いますが。

フサーム医師:ありがとうございます。みなさんがご心配してくださっていることに感謝します。そして私たちも福島のみなさんにお見舞い申し上げます。原発事故でみなさんが大変な思いをされていることに心を痛めています。
アメリカに損害賠償請求しても、拒否するでしょう。汚染を調査するのも、許されないと思います。イラク政府でさえ、それは認めないでしょう。
イラク政府はアメリカの傀儡で、損害賠償請求などするつもりもなく、それどころか、この問題を話題にしたがりません。
アメリカは民主主義をもたらすために戦争をしかけました。しかし、その代償を支払わなければならないのは我々イラク人なのです。

フサーム医師:今、福島は放射線で汚染されている状況ですが、それについて、政府は正確な情報を発表していますか? 子どもの安全を守る対策をとっていますか?
イラクのテレビなどはほとんど報道されないので、実際の状況を教えてください。

参加者:日本政府が発表しているのが事実かどうかは、疑っています。というのは、事故直後に、本当の情報が国民には伝わらず、隠蔽されていました。後から発表された情報を信じろといわれても、できません。信用を失っています。
政府は福島の子どもたちはここに住んでも大丈夫だと言っています。でも、私たちは安全だとは思わないので、ずっと政府に交渉しています。
自分で危険だと悟った人は、福島の地を離れています。でも、多くの人は福島にとどまっています。ですから、その子どもたちをどうしたらいいのか、日々考えています。
子どもたちの内部被ばくを防ぐために、食べ物をなるべく安全なところから取り寄せたり、長期の保養にできるだけだしたりしています。

フサーム医師:イラクではそういうこともできない状況です。

参加者:福島では、安全だと吹聴する医師もいます。逆に、危険だという専門家もいます。私は本当のことを知りたい。
過ぎてしまった時間は戻りません。自分の子ども、未来の子どもを守りたい。何代か先の子どもたちに何が起こるかわからない、と言われても、時は戻らないのですから。自分の子ども、将来の子どもを安全に守りたいというお母さんたちは、心配しすぎかもしれないけれど、一番重いほう(危険性の高いほう)をとって(信じて)いるでしょう。時間は取り返せないから、子どもを守りたいのなら、一番重いほうをとって、それで何もなければ、そのほうがいいじゃないですか。

参加者:イラクは砂埃が多いというイメージがありますが、マスクをするとか、食べ物に気をつけるとか、具体的に身を守る方法があるのですか?

フサーム医師:イラクでの問題は、劣化ウランの放射線の危険性に関する知識がないことです。市街地には、劣化ウラン弾が撃ち込まれた戦車などがおきっぱなしになっており、そこに多くの人が集まってきたり、落ちている武器で子どもたちは遊んだりしています。放射線についての啓蒙はまだまだ先のことです。
放射線汚染されているゾーンは近づかないようにすべきですが、政府はまだそうしたことができない状況です。

フサーム医師:福島のみなさんはガイガーカウンターを持ち、いつも測定していますよね? どうしてですか? 政府の測定結果を信じないのですか?

参加者:政府は「大丈夫」と言いながらも、測定しませんでした。そこで、ガイガーカウンターをあちこちから集めて、寄付してもらったりして、測定をはじめました。政府のものより簡易型ですが、正確な数字はでなくても、相対的に線量が高い地域はわかります。
最初にそれを実行したのは、子どもたちを守るためです。通学路が発表されている数値より高いのではないか、という疑いを持ち、測定をはじめました。そうしたら、政府が発表しているより高い値を示していました。その状態は今もつづいています。
その後、政府はモニターリングポストという公式の計測の場を設けました。文科省のHPで結果を閲覧できます。それらの数値は、2割ぐらい低めになのが事実です。場所によってはかなり差がでます。モニターリングポストによると、福島市内には1マイクロシーベルトを超えるところがありません。逆にそうした場所に設定し、発表しているのです。
今、イラクと比べれば、福島のほうが線量が高いのではないかと推察しています。確認するのは難しいですけれど。日本からガイガーカウンターを持っていって、確認していただいたらいいのでは。

フサーム医師:チェックしてお送りします(笑)。

最後に佐藤幸子さん(放射能から子どもを守る福島ネットワーク)より
劣化ウラン弾も原発も、大人が欲のために作ったもの。その被害を一番受けているのは子どもたちです。心が痛む思いでお話を聞きました。たまたまそこに生まれた、この時代に生まれた子どもたちが、どうしてこんな人間の欲のために被害を受けなければならないのか。この時代でなければ、こんな被害は受けなくてもよかった子どもたち。それを私たちは重く受け止め、これから先、こういうことが二度と起こらないように、原発も劣化ウラン弾も、とにかく人間が手におえないものは使ってはいけない。人間はそこをしっかり受け止めなければいけないのではないか、とあらためて感じました。
お忙しいなか、福島まで足を運んでいただき、ありがとうございました。

 

劣化ウラン弾の放射能の影響で増加するイラクの小児ガン
イラク南部バスラの小児白血病専門医フサーム医師の報告会の記録(2011年8月7日、広島)。イラクの医療が抱える問題は、まず医薬品の不足。治療を断念する親も少なくない。小児ガンの患者のひとりが描いた絵には「戦争はいやだ、平和がいい」とある。

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