アレバの最高責任者解任を巡る陰謀

フランスのメディアパルトが2011年6月17日、アレバのアンヌ・ロヴェルジョン最高責任者解任に関する記事を掲載しました。
アンヌ・ロヴェルジョン最高責任者の解任は、「サルコジ大統領とフランス電力公社のアンリ・プログリオ社長、大統領官邸のあらゆるネットワークによる執拗な襲撃」「巨大グループのトップに女性が就任して成功することを一度たりとも認めない男たちの絶え間ない陰謀」「政治ゲームのスケープゴート」と表現しています。

記事は次のような内容(全訳ではありません)。

彼女の更迭は、木曜日の夜、大統領官邸で決定した。その少し前には逆襲があった。次期社長として出席していたリュック・ウルセルとアンヌ・ロヴェルジョン本人以外の執行委員会の全委員は、「将来のアレバを率いる能力と資質を有した社内唯一の人物」であるアンヌ・ロヴェルジョン候補を支持した。ヨーロッパ・グループ委員会は、この「ヴィジョンを持った女性」の継続を求めた。左派だけでなく右派の議員20人ほどが、「原子力社会で世界第一位のグループを永続し維持する」こと信じ、彼女の更新を要求する署名をはじめた。

解任決定後、彼女の支持者がいなくなったわけではない。社会党の大統領選第一候補フランソワ・オランドは、「アレバ・グループを分裂させるために、何ヶ月もの間仕組まれた不穏な動き」と密告。セゴレーヌ・ロワイヤルは、「素晴らしい女性」の辞任を残念がり、「解任は彼女の独立精神に起因していない」ことを望んだ。ストロスカーン派のジャン=マリー・ルガンは、「ニコラ・サルコジは、自分にはすべてが許される」と思いはじめている、とドミニク・ストロスカーンの事件に結びつけて批判した。パリ市市議は、アンヌ・ロヴェルジョンとニコラ・サルコジの対立関係を強調し、「アレバでの建設大手企業ブイグの影響力を強まることと、民営企業の乗っ取りを拒否した」ため、その抵抗に対する制裁としてこの更迭されたとみている。

確かに、アレバの一件を政治から解釈する必要がある。ニコラ・サルコジは就任当初から、核拡散禁止条約すべてを無視し、原子力外交を確立し、アレバを牛耳りたいと考えていた。福島第一原発事故は、彼のヴィジョンを何ひとつ変えなかった。同じく、フランス電力公社のアンリ・プログリオ社長は、アレバの創設以来のフランス電力公社とアレバとの間の対立にかかわり、フランスの全企業に自社グループの絶対的権威を確立したいと考え、説得のためにあらゆるネットワークを操った。

彼女が社長就任を続行すると思われていたが、予定されていた手続きをすべて無視し、次期社長が舞台裏で示された。それまで関心をもたれていなかったリュック・ウルセルが選択されたのだ。

これは数年前からの対立を一時的に結論づけるようにみえた。アレバの事件は、政治闘争以上に、ビジネス界の習性、一般的利益より私利私欲に走る経営陣を戯画化している。

1960年代の加圧水型原子炉をめぐる対立から、1980年代のクルーゾ・ロワール社の危機とフラマトン社の結末、そこにはパリバの操作があり、1970年代末にフランスの手に原子力企業を取り戻そうとするアンパン男爵の買収もあった。フランス原子力の歴史は、こうした公然の敵対闘争、組織網戦争によって成長していった。アレバの最高責任者に就任したアンヌ・ロヴェルジョンは、このシステムをうまく刺激した。

10年もの間、アレバ社長は「戦い」の社長だった。全員対ひとり。フランス原子力庁の技術者の一部は、原子力発展のヴィジョンに鈍く、敵意に満ちているとみなされ、対立する。原子力機器のライバル企業アルストム、それからアレバに目をつけたブイグ、それからアレバの第一顧客のフランス電力公社との戦いがあった。大手銀行グループBNPパリバとその会長のミッシェル・ペブローとの対立は言うまでもない。欧州加圧型原子炉建設に反対する原子力安全局と対立し、欧州加圧型原子炉の工事の3年以上の遅れに抗議するフィンランドの電力会社TVOとも対立。これら対立のすべては、大統領官邸や経済省との延々と続く不仲が根本原因にあった。

政治的に抜け目のないアンヌ・ロヴェルジョンは、対立のたびに被害者ぶってきた。よく知られた才能で、彼女は身を守るために、非常に多くの支援者を結集させた。小賢しい方法で救いの手を求め、出身でもある探鉱業界団体をはじめ、あらゆるネットワークを活用してきた。国際的な最高決定機関を前でも、原子力の将来と、フランスの原子力企業の素晴らしさを終始一貫して守ってきた唯一の人物ではなかったか?

彼女は守りを固めるために、ビジネス界、政治界の反感をうまくさばいた。GDFスエズの最高責任者でフランス電力公社の永遠の競争相手であるジェラール・ムストラレが、彼女の最も忠実な擁護者のひとりになった。左派は支援を惜しまなかった。

あらゆる対立や闘争のおかげで、経営の実態を包み隠すことができた。欧州加圧型原子炉は、産業および商業の失敗といえる。契約成立から8年経つにもかかわらず、フィンランドの原子炉はいまだに完成していない。工事費は30億ユーロを越し、進行すればさらに増加するだろう。中国の2つの原子炉の建設の遅れが長引びいており、フランス電力公社のフラマンヴィルの工事も最低で3年の遅れを示唆しはじめた。

鉱山はどうか? ニジェールのウラン鉱山の運営は、つねに最悪の環境におかれている。この分野の開発は、割の合わない価格で行われている。ウラミン買収は、ウラン株が歴史的に高騰した週に実現された。ニッケルの子会社エラメットはどうなっているか? さほど関心を持ったことがないようだ。

困難に直面するたびに、アンヌ・ロヴェルジョンは政治を批判したり、新しい論争をはじめたりして、責任をかわしてきた。こうした経営の実態は、公権力の共犯もあり、厳重に押し隠されてきた。

2010年12月、アレバは業績悪化を回避するために9億ユーロの増資を急遽しなければならなかった。国はアレバではなく、クウェートの投資ファンド側に3億ユーロを渡した。経済的に締めつけのなか、アレバがどのように道を見出したのか? そして、年末の緊急増資をどうしてできたのか? ミステリーである。

クウェートの投資ファンドは、アレバの上場を望む条件を明示した。アレバは6月末に株式上場の手はずを整えるはずである。

退任はするが、アンヌ・ロヴェルジョンはアレバに数多くの闇を残していく。福島第一原発の事故以来、原子力産業の未来は非常に危うくなり、欧州加圧型原子炉もそこに含まれている。アンヌ・ロヴェルジョンが欧州加圧型原子炉についてどんなに確信していても、この第3世代原子炉は、あのような事故が起こらなくても、すでに痛手を負っている。4つの工事が進行途中で、アレバは新しい買い手を見出すことができないかもしれない。このようなリスクには誰もお金を払いたくないのだ。

同時にアレバは、原子力施設の解体や核廃棄物の管理に対する解決策をほとんど進めていない。アレバによる唯一の解決策は、永遠に400~500m地下に埋めることだけである。

今現在、政府は、戦略的なラインを何も固めていない。すべてが以前と同じようにつづくと思わせてフェイントをかけている。

欧州加圧型原子炉工事の損失、言い値どおりの買入、経営不振。アンヌ・ロヴェルジョンは50億ユーロと見積もられるツケを残すことになる。

 

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