食品の放射線汚染が広がっています。罪もない農業事業者が矢面にたたされ、気の毒でなりません。
牛のエサからセシウムが検出されたそうですが、農産物の汚染を防げなかったそもそもの原因は、国や東京電力が情報を十分に伝えず、適確な対策をとらなかったからです。
「エサを外に置いておいた理由」とか「エサを食べさせた経緯」などを突き詰めたところで、根本的な解決策は見出せないでしょう。
消費者の不安は増すばかりです。
被ばくに関する安全な閾値は、国際的にも専門家の間でも意見が分かれ、一致した基準は存在しません。福島第一原発の放射能の拡散状況は判然とせず、国や行政の対応はいつも的はずれです。
こうした状況では、私たち自身で被ばくから身を守らなければならないのかもしれません。
福島第一原発事故後に設立された市民放射能測定所は、放射線防護の知識を学び、自らの手で測定を行い、自分で判断するための「道具」を提供する施設です。
立ち上げたのは一般市民ですが、フランスの団体をはじめ、放射線防護や監視の国内外の専門家と連携しながら、測定や分析、データの公開などを行います。
7月17日に本格始動しますが、すでに福島市内で測定などの活動が行われています。開所前の6月27日に事務所におじゃまし、岩田渉(測定器47 台プロジェクト代表)さんにお話をうかがいました。
この日、市内在住の主婦が、家庭菜園で採れたキャベツとジャガイモ、タマネギの測定に来てました。キャベツからはセシウムが検出されましたが、汚染量はウクライナ基準と同じ。
「食べてはいけない数値ではない、かな」「水素爆発の後、どのくらい外で過ごしました? 外部被ばくも考慮しなければ」「加工食品や外食産業は率先して被災地の野菜を使うだろうから、気をつけなければ」などと、事務所にいる数人であれこれ意見が飛び交います。
女性は、「福島は野菜がおいしいのよ。葉物もキュウリも。リンゴやブドウなどの果物も。ナシは果肉が細やかで、シャリシャリというより、ギュッと引き締まっているの」と、福島の農産物について愛しそうに言います。
準備中の今は、「子どもを放射能から守る福島ネットワーク」など関係者が持ち込んだ食品の測定・分析が中心で、データを収集しながら本番に備えているそうです。
「誤差が出ないことが重要です。検出された数値が高くなりすぎると、食べるものがなくなってしまいます。現在、ここと京都大学の小出裕章助教授、そしてフランスの団体CRIIRADと3者で数値を比較しています。小出助教授の結果と比べても、誤差は10%を超えていません。消費者の目安として十分使うことができると考えています」と岩田さん。
ただ、生産者に対応するには、より高度な機械が求められます。ゲルマニウム半導体検出器は1台ありますが、さらに、1ベクレルまで測れるヨウ化ナトリウムシンチレーター2台を発注しました。機器の購入は、「未来の福島子ども基金」らが支援しています。
夏から秋にかけて、農産物の汚染状況をリスト化する予定とのこと。
「フランスで測定スタッフを養成する準備も進めています。原発を危険視してきた研究者たちの多くは、自身が不遇だったこともあり、後継者を育てることを率先して行ってこなかったのかもしれません。今後、物理や放射線を学ぶ若い研究者や学生につなげていけるものにしたいと望んでいます」と岩田さんは抱負を語りました。