札幌市の看護師・杉本綾さん(当時23歳)が2012年に自殺したのは過重労働が原因として、遺族がKKR札幌医療センターを運営する国家公務員共済組合連合会に損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が、2019年9月17日に札幌地裁で開かれました。
原告が訴状を、被告が答弁書を陳述。被告側は全面的に争う姿勢を示しました。
この日、杉本さんの母親は次のように意見陳述をしました。
裁判官に原告としての主張と思い、裁判に求めるもの、綾さんがいかに過酷な労働を強いられていたのかを知っていただきたい、それを踏まえて判決を出していただきたいという思いは、きちんと伝えられたと思う。
大事に育ててきた子を救う事が出来なかったことに、私は死ぬまで苦しみ続けるのだと思います。私のような人を作らない為にも、医療職を目指す若い方達の為にも、苦しみながら努力を続け、もう努力を続けることができないという気持ちで自ら命を絶ってしまった綾の気持ちを分かってもらおうと、これまでずっと訴えてきました。
KKR札幌医療センターに内定をもらった時にはとても喜び、患者さんの為だけでなく、師長や先輩看護師、同期の方たちに対しても、迷惑をかけずに、早くひとり立ちをして役に立ちたいと頑張っていました。そんな性格だからこそ、休む事も辞める事も出来なかったのです。
入職したばかりの新人なのに、肺がんで、しかも全盲という重篤な患者さんの受け持ちになったり、定時の1時間以上前に出勤し、昼休みも満足に取れず、家に持ち帰らなければならない課題や覚えなければならない業務に追われていました。
毎日の振り返りシートには、先輩看護師による「時間内に周れていない」「関連が理解できていない」「薬はきちんと調べるように」「知識あいまい」「意味を考えて調べておくように」などの指摘があふれていました。
毎日3時間以上の残業と、自宅での持ち帰り残業で2~3時間しか取れない睡眠時間では心や体が病まないはずはありません。綾が強いられていた過酷な業務内容や不本意なサービス残業、新人に対する教育体制の不備は、綾個人の出来事ではなく、たくさんの医療従事者、他業種でも起こっている事実です。
KKR札幌医療センターは、(娘が)労災と認定された事実を認め、自らの責任を自覚して業務改善し、モデルとなる体制を作って、二度と綾のような思いをする職員を出さない様にしてもらいたいと思っています。
裁判所には、「自分が何ができるのか、誰に助けを求めればいいのかわからない」と遺書を残して自ら命を絶った綾の気持ちをわかってもらいたいと思います。どうか今後の医療や働く人の心や体を守ることにつながる判決をお願い致します。
杉本綾さんの労災に関しては、不支給の決定がなされた後、遺族の労災不支給取り消し訴訟の提起を受けて、札幌東労働基準監督署が再調査を行いました。
その結果、休憩時間が規定時間より短かったこと、自宅でのシャドーワークが労働時間であることなどが認められ、長時間労働が原因でうつ病を発症し、自死に至ったとみなされ、極めて希な自庁取消という形で、労災不支給処分は取り消されました。
ところが、被告代理人は、「病院側に安全配慮義務違反はなかった」と主張。「長時間労働はなかった」「シャドーワークは命じておらず労働時間とは認められない」「(綾さんが)うつ病に罹患していたという証拠はない」など、労働基準監督署が労災認定の根拠とした事実をことごとく否定しています。
弁護団の島田度代理人によれば、「労基署の聞き取り調査の中で、病院の従業員が話し、本人が署名した内容まで否認するとは驚かされた。綾さんが毎日の仕事を書いて提出し、先輩看護師のチェックを受けていた『振り返りシート』の記載内容さえ否認した。このシートは病院に保管されていて、遺族の開示請求で出してきたのであり、私たちが加筆・修正できるものではない」と言います。
さらに、「警察の捜査まで持ちだし、労基署のヒアリングを否定するのは、見識を疑いたくなる」と被告人代理人の姿勢を厳しく批判しました。
「労災不支給の取消訴訟での被告は国であり、指定代理人として訟務検事が担当しました。しかし、事実は事実として認め、裁判途中で『自庁取消』を決断し、これは常識的な対応です。今回、被告代理人には、国側の訟務検事のように、真摯で誠実な答弁を強く求めます」
※画像は2018年10月26日の報告会のものです。
(2020年9月20日)