恵庭OL殺人事件 第2次再審請求審の事実取り調べ(7)

恵庭OL殺人事件の第2次再審請求審の第1回事実取り調べが2017年11月9日、札幌地方裁判所で行われました。

11月9日の第2回目の事実取り調べは、焼損方法について、いずれも弁護人側の証人である、伊藤昭彦証人(弘前大学教授)と吉田謙一証人(東京医科大学教授)が証言を行いました。
吉田証人は、前回の「頸部圧迫による窒息死ではない」という問題の証言につづき、2回目です。

証人尋問の後の記者会見で、伊藤教授と吉田教授が証言の内容を報告しました。

 

最初はうつ伏せ状態で焼損

伊藤昭彦証人は、「今回新たに開示された死体および現場状況の写真を基に、燃焼学の立場から証言しました。現場の燃焼痕と、遺体の後頭部の焼損状態の2点からわかったのは、仰向けにする以前にうつぶせの状態で、発見された場所ではない燃焼痕がはっきり残っている位置で焼いたことです」と語りはじめました。

第2次再審請求審では、証拠、特に、遺体の写真の開示をしつこく求めたといいます。

「焼損方法に非常に疑問をもっていたので、遺体と現場の写真のネガを全部出すよう、かなり強く要求したところ、裁判所のほうからの指示もあり、開示されました」と伊藤証人。

紙焼きの白黒やカラー写真ではわからなかった、皮膚の細かい状況や、やけどの状態、内臓が炭化している可能性などが、今回、ネガフィルムを画像にして専門家に見てもらうことで、細かい事実がより鮮明に明らかになったといいます。

「死体は仰向けの状態で発見されましたが、遺体の画像では、後頭部が剥げ、皮膚が炭化しており、明らかに燃焼痕があります。目隠しされているタオルも、後頭部が大きく焼けています。燃焼するには酸素が必要で、後頭部が地面に接地した状態では、空気が入らず、絶対に燃えません。この点から、少なくとも後頭部は空気にさらされていた、というのが燃焼学からいえます。つまり、仰向け状態のままで焼かれたということはあり得ません」

2点目は、現場の写真から判明した、もうひとつの焼損場所です。

「遺体が発見された場所の横の農道中央寄りの雪が解けて乾いており、黒く煤けた燃焼痕があります。その燃焼痕を画像解析し、仰向けの状態の遺体を180度回転させたところ、うつ伏せの姿勢と燃焼痕が一致しました。その燃焼痕は、明らかにそこでうつ伏せの状態で焼かれたことを示しています」

しかも、遺体の発見現場は雪が溶けて水がたまっていますが、その横の部分は完全に乾いて黒い煤になっています。そのことから、伊藤証人は、「燃焼痕のあるところで焼かれた時間のほうが長いのではないか」と推定しています。

「油の種類ははっきりしていませんが、かなり大量に油類をまかれて、うつ伏せ状態でまず少なくとも30分以上焼かれて、それが下火になったあたりで、仰向け状態にしたと考えられます」

この伊藤証言に対し、検察側の須川修身証人(諏訪東京理科大学教授)は、「死体に油類をかけた際、そのうちの幾分かの量が傾斜に沿って農道中央側の氷雪の上に流れ出し、死体の燃え上がった炎が、北側から吹く風に煽られて、農道中央側に漏れ出した油類に引火し、その部分の雪を溶かして煤を付着させ、そのような燃焼痕跡になった可能性がある」と反論しています。

しかし、伊藤証人は、「ガソリンは-40℃で引火しますが、灯油は40℃以上にならないと、火が付きません。雪は0℃なので、雪の上に灯油がかかった、あるいはしみ込んでも、灯油は絶対燃えません。ですから、道路に流れ出た灯油が雪の上で燃えて黒くなることはあり得ません」と断言しました。

吉田証人は、「今回、かなり多くの写真が開示され、それらを検証しました。こういう遺体所見が生じるのは、うつ伏せで背中のほうから油を注がれながら、かなり長い時間焼かれたからでしょう」と述べます。

「たとえば、背中側の焼損がかなりひどく、胸腔が貫通して穴があいています。人間の身体は、表皮の下に真皮があり、その下は皮下脂肪で、女性であれば、皮下脂肪がけっこうあり、さらに筋肉があります。胸部ですと、その下は肋骨・肋間筋、いわゆる胸壁というのがあり、その下に薄い胸膜、それから胸腔です。胸腔が貫通しているということは、これらすべての層が焼けたということです」

その焼け方を細かく鑑定することで、身体がどちらを向き、どういう姿勢で、どこから油を注がれているか、ある程度わかるといいます。

「ロジックを組み立て、自分の経験、そして、証拠をいろいろ重ね合わせていくと、あくまでも推測ですが、“うつ伏せ”の状態で油をかけられて、長い時間焼かれ、仰向けにされて、再度焼かれたというのが、導きだされるわけです」

使用されたのは本当に灯油?

伊藤証人と吉田証人は、裁判所に保管されている、現場に残された衣類などの残証物も検証したという。

「臀部の衣類が残っていました。ジーパンと下着が重なっていたので、燃えにくかったのです。衣類には油がしみこんでいました。その残証物を分析すれば、燃料が何か、すぐにわかったはずです。この事件では、油を特定していないで、結論を出しています。『航空機燃料か灯油の可能がある』と片づけていますが、もし仮に航空機燃料であれば、一般の方が航空機燃料など手に入るはずがありません。成分分析をしておけば、もっと早くわかったのではないかと思います」

現存している残証物からの燃料分析は、これだけ年月が経つと、難しいといいます。

「残っている素材での成分分析の可能性は、確定できません。本来は、発見されたときに、すぐにやるべきです」と伊藤証人。

弁護団の伊東秀子弁護士は、「検察側は、『衣類の鑑識をした結果、灯油は検出された』と言っていますが、私たちは、ジェット燃料、つまりガソリンと灯油の混合燃料ということを、最初から主張しています。ところが、ガソリンの有無を調べる成分分析をしたという回答は、いままで一度もありません。ガソリンが検出されなかったというデータもないのです。ジェット燃料か市販の灯油か、これが大きな争点です。市販の灯油10リットルを持っていたことで大越さんを起訴し、彼女は17年間も刑務所にいる状況になっているのです」

伊藤証人は、残証物の燃え方の凄まじさについて、こう語ります。

「実際に残証物を見たところ、化学繊維系は簡単に燃えますが、燃えた後にさらに溶けて固まり、塊になっていました。あれを見る限り、相当な熱量で激しく焼かれたと推定できます。普通、我々が意図的に燃やして、あそこまで激しく焼かれた状態というのは経験がありません。それぐらい焼かれていました。かなり長時間、あるいは、熱量の高い油で焼かれたのではないでしょうか」

焼死体の解剖を数多く経験している吉田証人も、「普通の焼死体とは違うと思います。伊藤教授がおっしゃったように、かなり燃えやすい燃料を使い、時間をかけないと、こういう焼け方はしないでしょう。燃焼は専門ではありませんが、不自然だというのはわかります」

伊藤証人は、前回の第1次再審請求審でも、「灯油10リットルの燃焼で体重が9キロ減少しない」ことを燃焼学の立場から主張していました。今回の裁判官は、その問題についても意見を聞いてくれたといいます。

「再度その主張ができたのはよかったです。体重10㎏のうち、脂肪分は25%ぐらいで、2㎏ちょっとです。それを灯油に換算すると、2リットルぐらいになります。私の実験と計算によれば、体重を9㎏減少させるために必要な燃料、それを灯油に限定すると、10リットル以上必要です。しかも、燃焼時間は2時間なので、10リットルではエネルギー的にはまったく不足しています」
性犯罪がからむ薬物中毒死の可能性も

吉田証人は、「私自身、検察官証人をずっと長いことやってきていて、相手の弁護士の屁理屈が不愉快だと思っていましたが、今日は、検察官から、全く関係ないような揚げ足をさんざんされて、正直、とても嫌な感じでしたね。前回も、あんまりにも腹に据えかねましたが」と述べ、1回目の事実取り調べで証言した「死因」の問題について解説しました。

「遺体の頸部は焼かれて黒くなっているため、外からは首の所見はわかりません。顔面に焼け残っている部分があり、実はほとんど健常に見えるところがあります。首を絞めると、首の内部の頸骨のなかを通っている頸静脈と頸動脈が絞められるので、圧迫した位置から上部がうっ血します。死体にもうっ血が残るのですが、この遺体では、顔面の健常に近い皮膚を見ると、うっ血は少なくとも否定されます」

確定判決が採用した寺沢鑑定書は、溢血点が認められるとして、死因を「頸部圧迫による窒息死」と診断しています。

「溢血点は、昔から、窒息の有力な証拠だといわれてきましたが、実際には、例えば、心筋梗塞など、いろんな急死に一般に非常によく認められる所見です。ですから、溢血点だけでは不十分で、頸部を絞めた痕、外傷でなくても、筋肉の出血といった所見を示さなければなりません」

吉田証人は、特に、性犯罪の可能性を強く示唆しています。

「2000年以降、性犯罪の事件が非常に増え、私も関わったことがあります。薬物などを使って、女性を動けない状態にしてから、性的暴行を加えるというのは、一般的によくあるケースです」

薬物を使った性犯罪は、以前もあったと思われるが、2000年以降、かなり明らかになってきたといいます。

「この事件では、性犯罪による薬物中毒を疑った形跡はなく、十分な検査が行われていませんでした。若い女性が殺されて屋外で焼かれてというのは、とんでもない事件で、解剖後にそんなに簡単に「頸部圧迫による窒息死」と断定できるような事件だとは、私は到底思えません。この事件にかかわりはじめて、いろいろ知るようになり、そのまま見過ごしていいものか、と」

木谷明弁護士は、「今日の証人尋問が重要なのは、ひとりは燃焼学、もうひとりは法医学という、違う専門分野の専門家が、別々の角度から遺体と現場を観察して、まったく別の観点から攻めていって、結論が完全に一致したことです。こうなると、否定するのは非常に難しい。検察官は反対尋問があまりできず、最後はあきらめムードでやめてしまった感じでした」と述べました。

(2020年8月17日)

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