恵庭OL殺人事件の第2次再審請求審の第7~9回三者協議が2017年9~10月、札幌地方裁判所で行われました。
第6回の三者協議はこちらをご覧ください。
第7回三者協議 9月13日
前回の第6回三者協議において、裁判所から2017年度内に決定を出す方針を伝えられたため、9月13日の第7回三者協議では、事実取り調べおよび、今後の日程について再確認されました。
弁護人側が申請した証人、吉田謙一教授(東京医科大学)、伊藤昭彦教授(弘前大学)は採用され、吉田証人は、死因関係と燃焼関係で2回の証人尋問を行うことになりました
検察官からは、いまだ証人尋問の請求は出ていなのですが、裁判所は職権で、的場光太郎講師(北海道大学)と須川修身教授(諏訪東京理科大学)を採用することになりそうです。
また、弁護人は、灯油10リットル問題の新証拠として、中村祐二教授(豊橋技術科学大学准教授)に意見書の執筆依頼中だといいます。
中村証人の尋問も予定されており、検察側の須川教授の証人尋問を求めるそうです。
さらに、第2次再審請求審で、検察官は、遺体焼損現場や解剖の様子を記録した写真のネガフィルムを開示されたことも報告されました。これらの写真を解析して検討した結果、伊藤鑑定意見書にあるように、「遺体はまずうつ伏せで焼損された後、仰向けにされて、再度焼かれた」可能性が明らかになったと、弁護人は確信を強めたといいます。
第8回三者協議 9月28日
9月28日、第8回三者協議が行われました。
弁護人は、4人の事実取り調べ証人に加えて、燃焼学・火炎物理化学を専門とする中村祐二教授(豊橋技術科学大学大学院)の証人尋問を請求しました。
中村教授は意見書を執筆中で、「灯油10リットルが燃え切った後に皮下脂肪が溶け出して体重9㎏が減少する」「体内の脂肪が地面に滴下する前に燃焼する」のは、科学的にあり得ないことを立証します。
事実取り調べは、検察側の須川修身教授(諏訪東京理科大学)と同日に行うことを求めています。
また、検察が開示した写真ネガフィルムには欠番があったため、弁護人はそれら未開示の写真の提出を要求しました。
さらに、請求人の口頭意見陳述と、被害者と同じ重さのマネキンを持ちあげる検証実験を求める上申書を裁判所に提出しました。
裁判所はいまだに、口頭意見陳述と検証実験の実施の意向を示していません。弁護人はあらためて、この2点の必要性を訴え、裁判所に決断を迫りました。
請求人の意見陳述は、「再審の請求について決定する場合には、請求した者及びその相手方の意見を聴かなければならない」(刑事訴訟法286条)と義務づけられています。
ただ、刑事訴訟法では、どのような形で意見陳述するのかを規定していないため、請求人が裁判所へ出頭するのではなく、書面を提出するだけでも、規則を履行したことになります。
今回、弁護人が口頭による意見聴取を求めているのは、請求人が被害者より体格が劣り、左手に障がいあって握力がかなり弱いことを、裁判官に直接見てもらいたいからです。
また、弁護人は、マネキンを使用した検証実験の実施も求めています。
被害者と同じ重さ(52㎏)のマネキンを実際に持ち上げ、裁判官にその重さを実感してもらい、死体を女性ひとりで持ちあげることができるか否かを判断してもらうのが目的です。
弁護人は、検証実験をしないまま、持ち上げるのは“可能である”と裁判所が結論を出した場合、審理が十分に尽くされたとはいえず、上訴理由でもある「審理不尽」の裁判になると指摘しました。
このマネキンの検証実験について、検察官は「必要性がない」と拒否しています。弁護人にその理由を質問された検察官は、裁判官の前で、「必要性がないとしか言いようがない」とだけ答弁しました。
第9回三者協議 10月19日
10月19日の第9回三者協議の前日、日本弁護士連合会の再審支援が決まりました。
また、10月16日付で中村祐二教授(豊橋技術科学大学大学院)の意見書が提出され、11月30日の午前中に事実取り調べが行われることになりました。
第1次再審請求審決定および即時抗告審決定では、検察側の須川修身教授(諏訪東京理科大学)の証言に依拠し、「灯油10リットルが燃え切っても、皮下脂肪が溶けて独立燃焼する可能性がある」と認定しました。
第2次再審請求審においても、須川教授は、外国の論文の実験例を適用して、「灯油10リットルを死体にかけて着火すると、2分後には体内の脂肪が燃え、それが延焼して長時間脂肪の独立燃焼が継続する」と主張しています。
これに対して、中村意見書は、燃焼学の科学的根拠に基づき、「独立燃焼の不可能性」を立証しています。
中村教授は、伊藤教授ならびに須川教授のアプローチとは違う、非定常一次元熱伝導方程式に基づく伝熱計算結果を元に、意見書を作成しました。
ひとつは、「灯油10リットルを遺体にまいて着火した場合、遺体の皮下脂肪が独立燃焼して体重が9㎏減少するか」という問題です。
中村意見書では、灯油10リットルを燃焼した際の死体の内部に伝わる熱量、および皮下脂肪の燃焼に至る状況について、グラフを利用して解説しています。
遺体の衣服全体に灯油が染み込んで燃焼が起こる場合、遺体の表面温度200℃で200秒間(約3分)燃焼が続いたとしても、表皮から6㎜下にあるとされる皮下脂肪の温度は100℃未満でしかなく、皮下脂肪が溶け出す引火点300℃には達しません。
灯油が遺体の一部分のみにまかれた場合は、最大の燃焼を維持する時間は長くなりますが、灯油の燃焼が最大状態で5分間持続したとしても、遺体の表面温度が300℃になるにすぎません。さらに5分燃焼を継続(計10分燃焼)したとしても、300℃に達するのは表面から4㎜未満のみです。
伊藤鑑定意見書によれば、火の勢いが最大の状態で継続するのは2~3分(200秒以内)とされ、つまり、灯油10リットルを燃焼させても、皮下脂肪が燃えだすことはあり得ず、水分蒸発を過剰に見積もっても、体重が9㎏減少することはないという結論が導きだされました。
また、「皮下脂肪が地面に落下する前に体内で燃焼することで、9㎏の体重減少もあり得るという即時抗告審決定についても、中村意見書は否定しています。
「体内の脂肪が地面に落下する前に燃焼する」現象は、加熱することで、「体内の脂肪が溶けてあふれ出す」前に、「脂肪が消費される」ことを意味します。しかし、脂肪の溶融速度(軟化速度)のほうが、燃焼速度(熱分解速度)よりも極めて速いため、体内の脂肪が地面に落下する前に燃焼することは、科学的に見てあり得ないというのです。
さらに、弁護人は、元京都府警本部科学捜査研究所科の平岡義博教授(立命館大学)を事実取り調べの証人に申請しました。
平岡教授の証人尋問には、検察官がかなり反対していますが、裁判所は、「反対の理由を書いて提出するように」と言い渡したそうです。裁判所は、平岡教授の意見書を見てから、証人尋問の判断をするそうです。
平岡教授は、科捜研技官としての長年の知識と経験に基づき、恵庭事件の鑑識活動および科学鑑定の内容を検討したそうです。犯行現場を特定するために通常行われるはずの、最低限必要な鑑識活動および科学鑑定の方法を明らかにした上で、車内での犯行で発見されるはずの微物が、この事件では発見されていない点を指摘しました。「車内に痕跡が残っていないのは、鑑定までに1ヶ月ほどの日数があり、請求人がその間に車内を清掃したから」と検察官は言いますが、平岡意見書では、「被害者が抵抗する際に付着する繊維片等は、時間が経過しても残存する可能性が否定できない」などと説明しています。
また、請求人の口頭意見陳述およびマネキンの検証実験は実施されないことになりました。
(2020年8月14日)