恵庭OL殺人事件 第2次再審請求審の進行の経緯(4)

恵庭OL殺人事件の第2次再審請求審の第6回三者協議が2017年8月、札幌地方裁判所で行われました。

8月23日午後の第6回三者協議後に行われた記者会見で、主任弁護人の伊東秀子弁護士はまず、「裁判所のほうから最初に、『来年3月までに再審の可否の決定を出します』と言われました」と報告しました。

この協議で、証人の事実取り調べのスケジュールも決まりました。検察官が正式な証人尋問申請していない段階で、裁判所は、弁護人が申請した検察側の証人を認め、先に日程が組まれました。

弁護団の中山博之弁護士は、「検察側の証人は出頭するでしょう。裁判官が検察官に、『須川修身教授(諏訪東京理科大学)と的場光太郎講師(北海道大学)に出頭を求めるように』と言っていましたから」と述べました。

死因・燃焼方法・独立燃焼の事実取り調べ

証人尋問は3回にわたって行われます。

初回は10月18日か19日で、「死因」に関して吉田謙一証人と的場光太郎証人が、次が11月9日か10日で、「焼損方法」問題について弁護側の伊藤昭彦証人と吉田証人が、最後は11月30か12月1日で、中村祐二証人と須川修身証人が証言する予定だといいます。

弁護人は、第1次再審請求審決定および即時抗告審決定の「灯油10リットルが燃え切った後でも、遺体の脂肪が独立燃焼し、9キロの体重減少もありうる」に異議を唱えるために、燃焼学の専門家である中村祐二教授(豊橋技術科学大学)の意見書も提出し、証人尋問を申請しました。

中山弁護士は、「灯油10リットルで10キロの体重減少が生じるか、これが非常に大きな争点。前回の再審請求審では、検察側の須川修身教授(諏訪東京理科大学)の見解に則って判断されました。中村教授の意見書で、須川教授の誤りを批判していきます」と言います。

新証拠である「死因」「焼損方法」に加えて、「独立燃焼」の検証で、弁護人が問題とするすべての主張がそろうことになります。

釈明は「必要ない」と拒む検察官

6回目の協議では、裁判官が検察官に、釈明に対する回答と証拠の一覧表開示についてかなり強く迫ったそうです。

木谷明弁護士も、「裁判長が大変積極的だったのが印象的でした」と述べています。

弁護人は、4月に検察官の釈明を求めていましたが、10項目を4点に絞り、6月21日付で、裁判所に釈明命令を発するよう申し立てました。

4項目のうちの1つは、殺害現場とされる請求人の車両内で採取された、毛髪、尿、血痕、被害者が抵抗した際に付着するとされる衣類の繊維、唾液、糞尿、指紋などの採証内容とその結果、特に、DNA鑑定の有無です。

請求人の車両内からは毛髪45本が採取されたといわれていますが、被害者のものという証拠はでてきていません。

「DNA鑑定などを実施していないのか、鑑定して結果を隠しているのか、不明のままです。いままで『釈明に答える必要はない』と言い続けていますから、証拠開示命令を申し立てようかと考えています」と伊東弁護士。

2つ目は、被害者の遺体の目隠しに使われたタオルのDNA鑑定の有無、調べたのであれば、その結果です。

それから、目撃された2台の車の捜査報告書の有無、捜査をしたのであれば、その開示を求めています。

2台の車に関して、伊東弁護士は、「第1次再審請求で初めて開示された証拠によれば、『現場のほうから走ってきた車と、もともと現場にいた車が向かい合う形で並んでいた』との目撃供述があったのですが、検察側はそれを隠蔽し、単に『2台の車が止まっていた』としました。『車が向かい合う形で並んでいた』のであれば、確定判決の『同じ方を向いて、ごみを焼くのを見ていた』は間違っていることになります。2台の車については、必ず捜査したはずです」と言います。

最後の4項目は、死体焼損現場における残証物の油類の質量分析結果で、灯油もしくはガソリンが検出されたかどうかについて。ガスクロマトグラフ分析の有無と、実施したのなら、その結果です。

これら4項目について裁判所は、「釈明をするのかしないのか」「証拠があるのかないのか」を検察側に質したそうです。

さらに、裁判所は、「出さないということは、捜査をしていないということか。証拠がないと考えていいのか?」と検察官に問いを投げかけたところ、検察官は、「それに答えると、釈明に答えることになるので、答えません」と拒否したといいます。

木谷弁護士によれば、「釈明について、裁判長は今回、かなりはっきり、『この件はこうか?』と聞いたのですが、検察官は公式見解というのを用意していて、書面を読み上げた」そうです。

検察官が、「確定判決が認定した証拠によって、請求人が犯人であることは揺るがないから、新証拠について、答える必要がない」と述べるのを、裁判長は「ムッとした感じで、聞いていた」と弁護士は伝えました。

木谷弁護士は、「検察官はかなり追い詰められています。これ以上答えると、ますます自縄自縛に陥っていく、という危機感を持っているため、上司から、『もういっさい言うな』とくぎを刺されているのでしょう。証拠について、『どこをどう探したのか』をきちんと報告するよう申し立てようと思っています」と述べました。

大崎事件でも、弁護側が証拠開示を求めましたが、検察官が「ない」と言い張っていました。
しかし、第3次再審請求で、裁判所は、検察側に再度探索するように求め、証拠がない場合は、「不存在である合理的理由を付して文書で回答するように」と強い態度で臨んだところ、検察側は証拠を開示した。そのなかに有力な証拠があり、再審開始につながりました。

「ですから、私たちも、証拠開示命令を申し立てて、検察側が『ない』と回答してきたら、書面を提出するよう、裁判官に勧告してもらうおうと考えています」と中山弁護士。

弁護人は、さらに、元京都府警本部科学捜査研究所科の平岡義博教授(立命館大学)の意見書も提出することになりました。

伊東弁護士は、「平岡教授には、科捜研での経験に照らして、殺人事件の加害者を立件するときに、まず何をしなければいけないのか、何をしているはずか、さらに、殺人現場が特定できずに請求人の車両内と推定されているため、そういう場合は何をしなければならないのか、ということを書いていただきます。本件が見込み捜査ではなかったかを叩くのが、平岡鑑定になります」と説明しました。

請求人の口頭意見陳述は未定

請求人の意見陳述と、被害者と同じ重さのマネキン人形を使った検証については、実施されるか否か、まだ決まっていません。

「意見陳述は、本人が望むのであれば、行わなければならないことになっています。ただ、我々は早期に、と言っていたのですが、裁判所からは『後で』と言われつづけています」と伊東弁護士。

「意見陳述は、間違いなく実施される」と言うのは木谷弁護士。

「先日、Aさんに会って話してきました。『知らない人の前でしゃべるのは苦手で、口が回らなくなる』と言うので、『なんだったら、書いたものを読み上げてもいいから』と助言したら、『書いたものを読んでも、うまく読めないかなぁ』と心配していました。そういうタイプの人だから、滔々と自分が無実であることを訴えるということはできないかもしれないけど、やっぱり直接生の声を聴いてもらうというのは、非常に意義のあることだと思います」

今回は、新証拠の焼損方法がかなり有力で、それによりアリバイが成立するため、弁護士は再審開始にかなり確信を持っているといいます。

「ただ、Aさんは、これまでがっかりさせられてばかりだったから、簡単には喜んでいません。検察がまた、屁理屈言ってくるんじゃないか?と不信を抱いています」と木谷弁護士。

伊東弁護士も、「何度も裏切られて、絶望しているから、『もう期待しないでいよう』という気持ちなのです。だけど、今はインターネットなどで、いろんな経歴がわかってしまう時代。出所してからのほうが大変です。無実なら、『やっていない』と言いつづけなければいけない、と彼女に話しています。29歳で逮捕され、本当に気の毒です」

請求人は今年(2018年)8月、16年の満期を終え、出所します。

(2020年8月12日)

恵庭(OL)殺人事件の記事一覧

タイトルとURLをコピーしました