病院側は過重労働を否定 新卒看護師過労自殺訴訟(5)

札幌市の看護師・杉本綾さん(当時23歳)が2012年に自殺したのは過重労働が原因として、遺族がKKR札幌医療センターを運営する国家公務員共済組合連合会に損害賠償を求めた訴訟の第2回口頭弁論が、2019年11月13日に札幌地裁で開かれました。

札幌の新卒看護師過労自殺の損害賠償訴訟はじまる(4)
過労自死した札幌市の新人看護師の遺族がKKR札幌医療センターを運営する国家公務員共済組合連合会に損害賠償を求めた訴訟の初弁論が、2019年9月17日に札幌地裁で開かれました。労災が認定されたものの、被告側は「安全配慮義務違反はなかった」と主張。

弁論後の報告会で、島田度弁護士は、「被告側から4通の準備書面が提出されましたが、こちらが指摘した事実関係について、認否を一切していません」と説明。

そればかりか、杉本さんの業務と自殺との因果関係を否認するのに、労災の審査請求や再審査請求時の裁決書の記述を持ち出していることに、弁護団は驚かされたと言います。

病院側は事実関係についての認否をほとんどせず

この事件は、労災申請、審査請求、再審査請求が棄却され、労災不支給取消を求める行政訴訟が進むなかで、札幌東労働基準監督署が自らの誤りを認め、自庁取消という形で労災が認められました。

「行政庁が取り消したものを自分たちの主張の根拠にするのは非常に不可解」と島田弁護士。

さらに、「被告側は、事実関係についての認否をほとんどしていないので、杉本さんの働き方について、病院側がどのような認識を持っているのか、まったく伝わってきません」と続けました。

弁護団は11月7日に、認否を求める準備書面を提出しましたが、それに対して被告側は期日前日の11月12日に、「認否は不要」と回答してきたといいます。

「裁判長は、『事実関係は証拠を見ればわかる』と法廷で言っていましたが、原告の準備書面に対して認否を行うのは裁判の常識です。労災認定されているのに、『病院側に安全配慮義務違反はない』と争うのであれば、被告代理人は、KKR札幌医療センターの労務管理や新人看護師育成について、堂々と主張するべきです」

認否を明らかにできない理由として、「労基署が是正勧告をしたという事実があるからかもしれない」と島田弁護士はこぼしました。

KKR札幌医療センターは、病院に勤務した700人以上の残業代や深夜手当など約7億5000万円を払っておらず、2015年9月4日、札幌東労働基準監督署からの是正勧告を受けています。

病院の残業代不払いは、杉本綾さんの遺族の労災申請をきっかけに発覚した事実でした。

この集会では、国家公務員共済組合連合会が2019年5月23日付で提案した「給与制度見直し案」に関して、国共病組札幌医療センター支部からの報告もされました。

同連合会は「黒字化」「責任ある職務遂行へのインセンティブの確保」などを理由に、俸給表(いずれも医師を除く)を変更する「見直し案」を策定。それによれば、初任給で6,000円以上、40代は30,000円、50代は40,000円以上の賃下げになり、生涯賃金は退職金を含め1,000万から1,800万円の減額になるといいます。一時金も赤字病院は0.2月、経営改善対象病院では最大0.3月減額するなどとしていました。

新しい給与制度は2020年4月から実施の予定でしたが、国共病組(国家公務員共済組合連合会病院労働組合)は賃下げ反対の職員署名に取り組み、2019年11月18日の連合会交渉で見送られることが決まったそうです。

ただ、連合会は給与制度見直しを諦めたわけではないとみており、国共病組KKR札幌医療センター支部は、「完全に撤回をさせるためにも労働組合の強化が必要」と訴えました。

杉本さんの母親は、傍聴席に前院長や前看護部長、事務方のトップらの姿があったことに触れ、「是正勧告を受け、労災も認められたという事実がある中で、どのようなお気持ちでしょうか。職員の方々が幸せでなければ、患者さんも良い医療は受けられないと思います。職員の方々に向けても、業務改善をしていただくことを願っています」と述べました。

労基署が認めた長時間労働と自殺の因果関係も否定

前述した通り、杉本彩さんの労災は、いったん不支給が決定し、再度調査した結果、長時間労働と自殺の因果関係が認められています。

時間外労働には、休憩時間を削って働いた時間が加算されました。規定上の休憩時間は、日勤(昼休み)1時間、夜勤2時間でしたが、杉本さんは日勤30分、夜勤1時間しか休みをとっていませんでした。そのため、残りは時間外労働として認められたのです。

また、自宅などでのシャドーワークについても、自庁取消の事実認定で、1レポートにつき5時間を計上しています。

ところが、被告側は、「規定通り休憩時間を確保していた」「復習や自学学習といったシャドーワークを業務命令として命じた事実はない」と主張しています。

杉本綾さんのケースに限らず、看護師は休憩時間を規定通り取ることができず、シャドーワークに追われている事実は、日本医療労働組合連合会の2017年「看護職員の労働実態調査」からも明らかです。

この調査によれば、休憩時間が「きちんと取れている」のは、日勤で24.7%、準夜勤は14.8%、深夜夜勤が19.9%でしかありません。準夜勤に限れば、「あまり取れていない」が36.5%、「全く取れていない」が7.4%で、43.9%もの看護師が、極めて少ない時間しか休めないでいることがわかります。

シャドーワークに関しても、看護師の7割が不払い労働(サービス残業)を行っており、その業務内容として、「情報収集」が51.0%で、「記録」の59.9%に次ぐ多さです。

この結果は2013年とさほど変わっておらず、看護師の過酷な労働環境を浮き彫りにしています。KKR札幌医療センターが例外、もしくは、杉本彩さんが特別だったと考えるののは、現実的ではないでしょう。

(2020年9月21日)

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