見直し迫られる障害者自立支援法(2006年)

『日刊ベリタ』2006年12月07日に掲載された記事です。

障害者にサービス利用料の1割負担を求めている障害者自立支援法の施行に伴う負担の軽減に、政府・与党が12月1日に同意した。

その翌日の2日、札幌市で同法の問題点を探るシンポジウムが開催された。

焦点のひとつになったのが、支給額やサービス内容を決定する障害程度区分認定のあり方だ。
それぞれ異なる障害を106の項目で判定できるのか。

また区分認定が福祉予算削減の口実になりかねないとの不安もある。

国の財政難を理由に障害者が切り捨てられる現実に、関係者は憤りを隠せない。

DPI(障害者インターナショナル)北海道ブロック会議が開催したシンポジウムでは、北海道選出の衆議院議員4人(自民・石崎岳、公明・風間昶、民主・逢坂誠二、共産・紙智子の各氏)をパネリストに迎え、「障害者自立支援法の施行とその課題」について意見交換した。

障害者自立支援法は、障害者が地域で自立して暮らせる社会を実現するために、10月から本格的に施行された。しかし、サービス利用料が原則1割負担に変わったことなどから、サービスを受ける機会を減らす障害者が増えたり、障害程度が軽度と判断されて施設に退所を迫られる事例が続出している。

そのため、自民、公明両党が負担軽減のための予算措置(3年間で1200億円)を政府に求めることで同意。同法の“ほころび”を認めた形だ。

シンポジウムでは、10月30日に札幌市白石区役所敷地内で、精神障害を持つ40代の女性が自殺した事実も報告された。女性が死の数週間前に「突然の(障害者程度区分)調査で体調を壊した」とする内容のメールを出していたことに触れ、支給額やサービス内容を決定する障害程度区分認定の有効性も議論された。

障害程度区分認定調査は、これまであいまいだった基準を明確にするために、サービスの必要性を客観的に判定する尺度として導入された。自立支援給付の申請をした障害者は、市町村による認定調査を必ず受けなければならない。調査は心身の状態などに関する全国共通の106項目からなり、調査員が面談した結果に基づいてコンピュータで一時判定を行う。その後、市町村審査会の二次判定を経て、障害程度区分を認定する。調査するのは、市町村職員、市町村が委嘱した認定調査員、または委託相談支援事業者で、必ずしも福祉の専門家とは限らない。

「調査員の対応はまちまちで、『支給してやる』と威圧的な態度をとる人もいる」と不満を漏らす障害者も少なくない。あるNPO法人の事業者は、「調査員によっては、障害者の性格をうかがって判断しているように見受けられる。おとなしい障害者は実際より軽度の認定を受けやすい」と指摘した。

障害者自立支援法は、身体・知的・精神の3障害の制度格差を解消するために一元化した法律だが、精神障害者への配慮はきめが細いとはいえない。精神障害者の障害程度を的確に区分するのは難しく、実際より軽い程度に認定されがちだという。訪問調査の途中で混乱状態に陥る障害者も珍しくない。その場合は調査を中断するが、調査員が項目を埋めて区分認定が発行されることもあるという。

ある重度障害の男性は、「福祉関係者ではない調査員が多く、研修も短期間で十分とはいえない。障害は人それぞれで、その微妙な違いによって介護の内容も異なるのに、細かい部分に目が届かず、事務的になりがちだ。精神障害者は見た目だけではわかりにくく、どのような特性があるか、どう対応すべきか、素人では判断できないはずだ」と怒りをあらわにした。

シンポジウムの出席者からは、なるべく程度区分を低く判定して、福祉予算の削減を狙っているのではないか、と不安の声も上がった。障害程度区分認定の導入は、障害者本位というより、厳しい国や地方自治体の財政事情を反映しているとの見方が強い。

同法が施行される際、障害程度区分にかかわらず必要なサービスを提供すると厚生労働省は公約していた。札幌市でも、同法の施行に関する要望・意見書の回答で、「新体系に移行しても、サービスの利用が必要な方には利用していただく」としている。しかし、「新規申請者は障害程度区分に応じて必要なサービスを提供する」とあり、障害者の必要性ではなく、区分認定を優先してサービスを決定する意向を明らかにしている。

財政難とはいえ、障害者がまず切り捨てられる現実に、当事者および関係者は憤りを隠せない。シンポジウムに参加した重度心身障害者支援会の男性は、「そもそも障害者に程度区分が必要なのか。区分認定は支給額やサービスの上限を設定するための手段にすぎない可能性もある。効率という“物差し”で、障害者を輪切りにしてはならない」と訴えた。

 

精神障がい者を地域で支えるための訪問看護ステーション
精神疾患患者が増えている一方、住み慣れた地域で医療支援を受ける体制は整っていない。看護師とともに作業療法士が訪問し、地域に帰った患者に治療とリハビリを提供する訪問看護ステーションを設立した団体に話を聞いた。『月刊自治研』2014年8月号に掲載。
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