フランスでも高まる健康的な沖縄料理への関心

『日刊ベリタ』2006年8月2日に掲載された記事です。

フランスでの沖縄料理の「火つけ役」に聞く

肥満や成人病が急増し、健康への関心が高まっているフランス。中でも、食生活の乱れが社会問題視され、食生活の改善が叫ばれている。そんなフランスで、健康的な沖縄式食事法が注目され始めている。沖縄に関する講演会、記事、出版物も続々と登場している。その火つけ役となったのが、昨年秋に発行された「沖縄ダイエット(Le Régime OKINAWA)」だ。著者である健康ジャーナリスト、アンヌ・デュフールさんに沖縄料理の魅力を聞いた。

「沖縄ダイエット」は、ガンや心臓病が少ないといわれる沖縄の食事をフランスでも取り入れやすい形にし、若々しく長生きする秘訣を解説している。デュフールさんは沖縄に行った経験はないが、長寿の食生活に強くひかれたという。

「1年半か2年ほど前にフランスで沖縄に関する研究が発表され、医師や関係者のインタビューを新聞に書いたのが、沖縄との出会いです」

鈴木信・沖縄長寿科学研究センター長の30年以上にわたる研究は、「ザ・沖縄プログラム」という題名で2001年に米国で出版され、その後、英国でも沖縄の長寿について語られる機会が増えた。やや遅れてフランスに上陸したわけだが、食にこだわる国だけに、大きな話題となっている。

「フランス人はもともと “奇跡の料理法”が好きなので、病気を予防できる沖縄料理にも関心が高まっています。フランスでも成人病が大きな社会問題になっていますから」とデュフールさん。

デュフールさんによると、フランス人の死因の第1位は心臓病で、32%を占めている。2位のガンはここ20年間で60%増加し、200万人がガンにかかっていると推定されている。また年間5万人が脳溢血で死亡し、糖尿病患者は30万人をくだらず、女性の半分が骨粗しょう症だともいわれる。

一方、沖縄での病気の発症率は低く、心臓病、ホルモン系のがん(乳がん、子宮がん、卵巣がん、前立腺がん)は西欧の5分の1。沖縄人は骨密度が高く、骨折する人も西欧人の5分の3ほどだという。介助が必要になってから死亡するまでの平均期間は、フランスが7年に対し、沖縄は2.6年。100万人当たりの100歳以上の高齢者数は、フランス12人に対し、沖縄は33人である。

長年の研究により、健康の秘密は沖縄人の遺伝子にあるのではなく、バランスのとれた食生活だということが明らかになった。沖縄式食生活は12の点で優れているという。①心筋梗塞や心臓病が少ない②悪玉コレステロールが少ない③脳梗塞が少ない④がんが少ない⑤肥満が少ない⑥糖尿病が少ない⑦メタボリック症候群が少ない⑧更年期障害が軽い⑨骨密度が高い⑩脳の働きが活発⑪いつまでも若々しい⑫ストレスが少ない-だ。

「ほとんどの成人病は食生活と関係があり、食事を改善して防ぐことができる。食べ物に気をつければ、心臓病を患う確率が低くなる。薬で病気を治すより、食生活を改善して予防する方法に勝るものはありません」とデュフールさんは断言する。

自国の料理に誇りを持つフランス人に沖縄式の食生活が受け入れられるのだろうか。

「フランス料理といえば、一流のシェフが腕をふるい、時間をかけて食べるといったイメージが一般的です。でも、それは幻想にすぎず、現代のフランス人はピザやファーストフードですませている人が多い。スーパーマーケットに行けば一目瞭然でしょう。野菜を買う人より加工食品を選ぶ姿をよく見かけるはず。今のフランスの食生活は決して良いとはいえません。フランス料理は素晴らしくても、実際にはそれを食べていないのが現実です」

食生活の米国化は、美食の国をも脅かしている。著書の中でもそれを危惧した文面が目立つ。冒頭では、「近い将来、米国人の寿命が縮むと予測されている。肥満がもたらす病気が増加するからだ。米国式の食生活を続けていれば、フランスも同じ道をたどるだろう。それよりも沖縄式の食事を見習うべきだ」と記されている。

2003年に世論調査会社が行った調査によると、フランスの成人肥満者は530万人で、1440万人が太りすぎだという。ここ数年、毎年5%の割合で増加し、6年後には人口の40%前後が肥満ぎみになると見込まれている。

「テレビを見る時間が増え、運動をする時間が減っています。6年後にはアメリカのようになりかねません。子供たちは炭酸飲料をたくさん飲み、大人も調理が面倒な魚類を食べようとしない。電子レンジで温めるだけの食品は簡単ですから。ピザが悪いわけではないが、そればかりとなると問題です。先進国は加工食品を多く消費し、カロリー過多になりがち」

沖縄人が1日に摂取するのは1800カロリーほど。低カロリーであっても、ビタミンやミネラルが豊富な高栄養の食品を食べ、空腹感に苦しむことなく健康を維持している。

「沖縄人はフランス人より多彩な食品を摂取し、料理の味付けも一様ではありません。フランスは塩味に偏りがちですが、沖縄料理は苦味や酸味などバラエティーに富んでいます。味を変えると食べる量を抑えることができるので、とても理にかなった食べ方だと思う」

料理のレシピは別の執筆者が担当したが、デュフールさん自身も沖縄料理を習ったそうだ。

「とても楽しかった。好きな料理はゴーヤチャンプル。たくさんの具が入っているうえ、カラフルで美しい。フランスではゴーヤは手に入りにくいため、キュウリで代用することもある。フランスではまだ沖縄料理レストランが少ないのですが、エスニック料理ブームでもあり、沖縄料理に注目する人が増えている」

出版にあたり、沖縄県出身者を始め多くの人に会ったというデュフールさん。食生活だけでなく、沖縄の人の生き方そのものにも魅せられた。

「友達や家族とのつきあい、集団での暮らしといった人間関係に興味を持った。個人主義者のフランス人はそれぞれが自分のことばかり考えていますが、沖縄の人は違う。人と人との結びつきを大切にしています。それに、悲劇的な歴史を体験しているにもかかわらず、人々は笑顔を絶やさない。そうした沖縄人の精神に魅力を感じる」

「小さなことにこだわらない点も好き。日本人は時間に正確といわれていますが、沖縄の人はそうでもありませんし、遅れたとしてもイライラしません。ストレスをためない賢明な生活をしていると思います。これこそ人間らしい生き方でしょう」

9月に出版予定の最新本では、フランスで沖縄人のように暮らすヒントを紹介する。体にいいものを食べ、くつろいで過ごすという沖縄人の精神を伝えたいという。

「読者から『沖縄に行きたくなった』との手紙をずいぶん受け取った。この本がきっかけとなり、フランスで沖縄人気が高まったらうれしい」

沖縄人でなくても、同じ日本人として、それは喜ぶべきことである。しかしデュフールさんとのインタビューを終えて、沖縄の素晴らしさをあらためて見直したと同時に、それをフランス語で聞いていることへの矛盾も感じた。日本の健康的な食文化を率先して伝えるのは、我々日本人の役目ではないか、と。

 

料理ができないフランス人に“家庭の味”教室が盛況
手軽な家庭料理を楽しみながら学ぶ教室がフランスで人気を博しているという。女性の社会進出で母親から料理を習わなかった世代が増加し、こうした新ビジネスが生まれた。また、ひとり暮らしが増えている現代社会の需要にもマッチした新ビジネスといえるようだ。

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