イギリスのキューガーデン(王立植物園)は植物百科事典

『THE CARD』1998年10月号に掲載された記事です。

ロンドン南西、テムズ川沿いに広がる緑豊かな植物園は、1720年代、ジョージ二世の住むリッチモンドから息子フレデリックが借用していた土地だった。

フレデリックの死後、1751念に未亡人オーガスタが、約3.5ヘクタールの土地に植物園を創立し、一流の庭師たちのアドバイスにより完成させた。その後、ロイヤルファミリーの土地譲与で拡大し、1840年には国家のものとなる。世界の珍しい植物を見られると評判になり、1846年頃から見物者が増え、当時、年間300万人が訪れたそうだ。1848年に温室パーム・ハウスが完成、1897年にはヴィクトリア女王即位60年祭を祝って、クィーンズ・シャルロットのコテージが贈呈された。

世界の庭(ヨーロッパ編9):イギリス王立キューガーデン
国立キューガーデンは、1840年に本格的に一般公開された。オープン当時、年間300万人が訪れたそうだ。約3.5ヘクタールの植物園は、世界最大の植物コレクションを誇り、「鑑賞」「教育」「科学研究」という3つの目的は創立当初から変わっていない。

200年以上の歳月を通し、“見る楽しみ”“教育”“科学研究”という三つの目的は変わらない。現在でも、世界最大の植物コレクションを誇り、有名な科学的植物園の地位を保っている。

庭園内を歩けば、そこは生きた植物百科事典の世界だ。創立当時の樹木園には、1759年に植えられたイチョウ、プラタナス、アカシアなどを見ることができ、パーム・ハウスには、樹齢100年以上のヤシの木や熱帯地方の植物が育っている。もちろん、歴史の古さばかりが自慢ではない。ここの植物コレクションは、常に進化している。

20年勤務しているという、園芸オペレーションおよびサポートセクション課長のアンソニー・S・カーカムさんは語る。

「年に1回は外国へ行き、植物を採集してくるんです。最近は、中国、日本、ヒマラヤ、チリ、南アフリカが多いですね。1992年には台湾で三種類の新しい植物を発見したんですよ。この秋は北海道、来年は四川を訪ねる予定です」

世界で絶滅の危機にある植物の保存に力を入れているため、採取するのは種であり、植物を根こそぎ持ってくることはしない。花が咲いて初めて何の種類かわからないこともあるそうだ。こうした貴重な植物はここで栽培されて、場合によっては再び自然へ戻される。現在、3500以上の植物の種を保存しているという。

人間に恩恵を与えてくれる植物王国の理解を深める――。この一貫したテーマのもと、キュー王立植物園には、新しいテーマパークが次々と誕生している。

1987年にオープンした温室プリンセス・オブ・ウェールズは、12種類の気候をコンピュータで調整し、それぞれに適した植物が植えられている。地球誕生と植物の進化を見て学べるのは、エボリューションハウス。この夏は、人間の衣食住と植物の関係を知るための博物館が完成した。植物を身近に感じ、誰でも楽しく理解できる工夫がなされている。

新しい企画に携わっている、技術課長のジョン・ロンズデールさんは、2年前に完成したジャパニーズ・ゲートウエイを手がけた。

「1910年の英国博覧会に日本から贈られた京都西本願寺の勅使門の模型を修復して、まわりに日本庭園を造りました。英国人好みの日本庭園になるのを避けるため、デザインと造園は日本人に頼んだんですよ」

さらに、自慢のコンピュータシステムについて説明する。

「ここでは、巨大なデータベースを所有しており、プラントインフォメーションとマップを組み合わせて、どこにどの植物がどのような状態で育っているか、一目でわかるようになっているんです」

園内の植物には、それぞれナンバーとデータを記入した札がつけられ、コンピュータにより管理している。このシステムは1980年頃から導入されたという。

行き届いた管理のもと、大切に育てられている植物たち。古い樹木、新しい植物に触れ、自然に親しむことは、イギリス人にとって、もっとも大きな喜びのようだ。

「一般的にイギリス人は庭いじりが好きですよね。皆、アマチュアガードナーと言ってもいいくらい。この植物園に来る人も、どのように木が育つか、どんな植物を自宅の庭に植えようか、そういうことを考えながら見学していますね。プロの人も、栽培テクニックのアイデアを学ぶために訪れているようですよ」と、カーカムさん。

科学的な役割を果たす植物園は、同時に、庶民の憩いの場としても愛されている。

 

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