子どもの権利をめぐり討論「相談すらできない」と訴える

『日刊ベリタ』2006年12月18日に掲載された記事です。

中学生の意見表明に対する嫌がらせや児童虐待といった「子どもの権利侵害」が絶えない札幌市で、子どもの意見を聞くパネルディスカッションが、12月9日に開催された。6人の中高生らの発言から、「相談すらできない」との声も上がり、孤独な子どもの姿と、「子どもの権利」の理念が大人に浸透していない現実が浮かび上がった。札幌市では「札幌市子どもの権利条例(仮)」の制定を目指しているが、今年度は市議会への提出が見送られ、成立も危ぶまれている。

パネルディスカッションは、「札幌市子どもの権利条例(仮)」の制定を目指す市民団体「子供の権利条例制定市民会議」(共同代表・姉崎洋一、坪井由実両北大大学院教授)が企画した。

札幌市では、「札幌市子どもの権利条例(仮)」の制定を目指して、2003年から準備を進めている。その背景には、国連「子どもの権利条約」が一般に普及しているとは言い難く、子どもに対する不当な扱いがあいかわらず横行している現状がある。

「子どもの権利条約」は1989年に国連総会で採択され、日本は1994年に批准した。しかし、この条約の中には日本の政策と矛盾する箇所も少なくなく、政府の対応は消極的だ。

条項には啓発および広報活動の促進が含まれているが、日本での認知度は決して高くない。3年前に札幌市が行った市政世論調査では、「知っている」と答えた人がたったの14・3%で、その後浸透が進んだとは言い切れない。

そうした状況下、「子どもの権利条例」の制定に動き出す自治体が増えている。ただ、札幌市の場合、今年度の制定が予定されていたにもかかわらず、いまだ市議会に上がっていない。賛否が分かれている上に、選挙を控えて与野党の駆け引きに利用されているきらいもある。

今回のパネルディスカッションは、子供たちの声を議会に反映しようと、市民だけでなく、民主・市民連合、共産、市民ネットの市議会議員も参加した。

中学生1人、高校生4人、専門学生1人のパネリストは、それぞれの経験談を織り交ぜながら、いじめ問題、意見表明権、自己決定権などのテーマで活発に話し合った。

中でも、「言いたいことを言えない」という孤独な現代っ子の姿が表面化したのが印象的だ。

いじめ対策にからみ、「相談できる大人はいるか」との問いに対して、「成績のことやいじめについて、相談してもどうにもならないと思ってしまう。結局は本人次第で、相談してもムダなのでは」(男子高生)「どのレベルから相談していいのかわからない。“こんなことは言えない...言ってもしょうがない些細なこと”と思ってしまう」(女子高生)との発言があった。

こうした冷めた意見の一方で、「相談することが習慣化されていない。小さいときから、大人が子どもの話を聞いてくれたら・・・」(女子高生)「いつでも待っているからおいで、といった雰囲気が大人に感じられない。余裕のない大人が多い」(専門学生)と本音をもらした。

いじめの体験を持つ中学生は、「自分を一番わかっている親が、私にとって一番の相談相手だった。両親と話すことで、辛い時期を乗り越えることができた」と語った。

悩みを打ち明けることを躊躇してしまう理由のひとつには、「子どもの意見を聴かない」大人の姿勢にあるといえる。

わが国の風潮として、大人は子どもを「まだ分別のない」存在と見下し、子どもの発言に圧力を加えがちだ。幼いときから発言の機会に恵まれなかった子どもは、ひとりで悩みを抱え、追い込まれていくのではとの指摘もある。

日本の大人が「子どもの意見に耳を貸さない」点については、伝統的慣習として、国連の「子どもの権利委員会」から勧告(2004年、第2回総括所見)を受けている。

「子どもの権利条約」は、子どもを保護の対象としてではなく、権利行使の主体とみなし、「子どもの意見表明」(第12条)を重視している。それと同時に、「親や保護者が適切な指導および助言を行う責任、権利および義務の尊重」(第5条)を規定し、子どもに勝手放題言わせるのではなく、大人が子どもの問いかけに適切な応答をする責任も求めている。

「子どもの権利」を認めることは、大人の役割や義務を明らかにし、子どもとの人間的なつながりを強めるのにつながるといえる。

近年、学校生活や地域社会だけでなく、家庭においても人間関係の希薄化が進んでいる。札幌市に限っていえば、他地域に比べて個人主義の傾向が強いだけに、それが無関心といった歪んだ形で発展していないかを問い直す必要もあるかもしれない。

いじめ対策ひとつとっても、当事者である子どもの意見を無視して、「子どもの最善の利益」を考慮した解決法はありえない。子どもたちが直面している問題を考える上で、子どもおよび大人が「子どもの権利」の理解を深め、議論を重ねていくことが大切だとみられている。

 

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