トマ・ピケティ氏の講演で富の再分配について学ぶ

2015年1月30日に日仏会館で開催されたトマ・ピケティ氏の講演に行ってきました。予約したにもかかわらず、超満員のため、ロビーのモニターで聴くことに。そのおかげで、会場入りするピケティ氏が間近を通りました。

経済オンチ、しかも『21世紀の資本論』を読んでいないのですが、ピケティ氏の話から学んだこと、考えたことをつらねます。

日本の経済ニュースを読んでも聞いても、身近に感じられないし、よくわからないのですが、ピケティ氏の話す経済は生活に密着していて、興味をかきたてられました。

日本で経済をわかりにくいのは、経済の仕組みを庶民に知らせたくないから? 経済を難しい学問にしておけば、高給取りにとって都合がいい。難しい学問にしておけば、女・子どもは口出しできない、と思っているのかもしれません。

今の日本で家計を切り盛りしてるのは女性で、教育を受けるのは子どもたち。こういう女・子どもにこそ、経済のしくみをわかりやすく説明すべきでしょう。

「情報がないままの議論は難しい」とピケティ氏。透明性と情報は、日本が最も隠したがるものです。

ピケティ氏は、自分たちが動くことで、格差社会を変えられる、とおっしゃっていましたが…。

では、ピケティ氏のお話しを。


現在、富裕層は10%、中流層は40%、貧困層は50%の割合。
中流層が減少している。

50年代~60年代にグズネッツの波が受け入れられた背景には、ハッピーエンドでいたい、忍耐強く待てば景気はよくなる、といった楽観的な考え方があった。
共産化しないためにそうすべきだと。

教育制度、労働制度、税制度、コーポレイトガバナンスなどが組み合わされ、格差を生み出す。
アメリカでは教育のアクセスに大きな格差がみられる。
富裕層がいい教育を受けて、いい大学へ進学する。大学は富裕層からお金を得ている。
逆に、底辺の人々は教育へのアクセスが悪い。

教育だけでなく、トップマネージャーが自分の収入を高く設置できるようなコーポレイトガバナンスにも問題がある。

戦争は、資産の破壊や賃金の圧縮といったイレギュラーな条件を生み出す。

税制は社会を表している。所得税は歴史を物語る。
世代間の相続権は近代的な制度で、統計がとられるようになったのはフランス革命後である。
所得税は19世紀のフランスにはなく、1914年に導入された。
日本の所得税の統計は1896年からとられており、フランスより早い。
北欧は1880~1890年に所得税が導入され、1922年にインドは1920年代、アルゼンチンは1930年代で、この年代までに多くの国で所得税が導入された。

日本の所得税の歴史は、国税庁のサイトにありました。
所得税導入の検討は明治時代の初期にはじまり、1884(明治17)年には、イギリスの税制をもとに草案が作成された(所得税は1798年にイギリスで創設)。その後、すでに所得税を施行している各国のを参考にし、1887年(明治20)に所得税を導入した。プロシヤの影響が強い税法であったと言われている。

現在の富裕層10%が占める富のシェアは、1920年代より大きい。
1980年代から格差は大きく変化した。
富裕層10%の所得独占率はこれまでの30~35%から50%以上に増えた。
経済成長の2/3を富裕層10%が吸収している状況。
中流層の所得が停滞し、経済システムが脆弱している証拠である。

ヨーロッパの富裕層10%の所得独占率は、アメリカほど大きくはない。
日本は、ヨーロッパとアメリカの中間に位置しており、富裕層10%の所得独占率は35%~45%。

富の独占の状況は、それぞれの国によって特徴がある。
アメリカの格差は、グローバル化によって生み出された。競争の激化、新興国の拡大が要因になっている。
グローバル化はヨーロッパや日本も同様だが、政策や制度が異なり、同じような状況に陥ってはいない。

資産においては、富の集中度高く、資産の格差のほうが所得の格差より大きい。
富裕層10%が資産の50~100%を独占している。
ここ数十年で割合が高くなりはじめた。
全体の40%にあたる中間層の資産のシェアは20~35%。
そして、50%にあたる貧困層のシェアは5%ほどで、ほとんど何も所有していない。

世襲社会が復活している。
アメリカより、ヨーロッパや日本のほうがその傾向が顕著である。
人口の伸びが遅く、生産性が低いため、過去に蓄積した資産が重要になるからだ。

民間資産が多くなると、公的資産が少なくなる。
ヨーロッパも日本も共産国でないので、民間資産のほうが公的資産より多い。
しかし、混合経済においても、現在は、公的資産(病院や学校など)が国民総生産の1/4、1/3、もしくはゼロになっている。
公的資産がゼロやマイナスというのは、政府の力が弱いことを示している。

富の再分配の方法はいろいろあるが、文明的なやり方としては、累進課税があげられる。
税制によって、どのように格差が生まれるかもわかる。
トップ10%の富が6~7%で成長するのであれば、どのような税率が必要か考えなければならない。
逆に、1%~2%の伸びであれば、それほどの累進課税でなくてもいい。
課税率は情報に基づくべきであり、それゆえに透明性が求められる。
情報がないままの議論は難しい。


日本も、一億総中流といわれていた時代はとっくに終わっています。
なのに、日本人の多くが、自分は中流層だと思い(込み)、貧困など他人事かのように無関心。
日本は50%の層が可視化されていないですね。

悪いほうに考えたくない、がまんすればよくなる、というのは日本も同じです。
でも、ちっとも景気は良くならない。耐えてる人はもう限界にきています。
笑ってる人はさらに腹を抱えて笑う。それが今の経済システム。

90%の人たちは、どんなに働いても、報われない…。これは、日々の生活で実感します。
どの業界も、契約や非正規社員、下請けが増加。安い賃金で、仕事量だけは多い。

また、経済システムを混乱させないためにも、戦争はすべきではないですね。

(2015年2月1日)

フランス「黄色いベスト」運動についてピケティの寄稿
フランス「ルモンド」紙電子版(2018年12月)に掲載されたトマ・ピケティの寄稿の抄訳。政権を救いたければ、マクロンは即座に富裕税(ISF)を復活させて、その税収は、燃料税の上昇で一番苦しんでいる者の損失補完に当てられなければならない。
タイトルとURLをコピーしました