2012年8月28日に日本プレスセンターで開催された「脱原発への道筋と、政治の責任」(主催:マスコミ九条の会)の後半部分、菅元首相、鎌田慧氏、岡本厚氏の討論会をメモを頼りに一部書き起こしました。
動画はこちらにアップされているようです。
鎌田氏:「菅おろしの嵐が吹き荒れたのはなぜか?」を本人は言いにくいでしょうが、それをお聞きしたい。3月11日以降の菅さんは評価しています。浜岡原発を止め、脱原発を言ったはじめての首相だから。菅さんは「地獄を見た首相」だと思う。ひとつは、福島事故、歴史的事故を見たこと。そして、一生懸命がんばったのに、めちゃくちゃ言われた。この2つがつぶされた理由ではないか。地獄を見てどうでしたか?
菅氏:たたかれたけれど、個人的にはめげなかった。やらなければならないことをやっただけ。2つの理由があると思う。ひとつは東電、というより、それを含む電力業界。もうひとつは自民党。「海水注入を止めたからメルトダウンした」と最初にブログで書いたのは、安倍晋三氏だった。経産省から情報が漏れたのかと思ったが、東電から流れたらしい。その経緯は複雑なのだが。海水注入をやろうとしたのは知っていたが、官邸では、塩水でいいのか、など調査するのに2時間ぐらいかかることになっていた。しかし、東電はすでに注入していたので、「官邸が検討中なので止めろ」と伝えた。吉田所長は注入が必要だとわかっていたので、現場では小声で、「いまから『止めろ!』と言うけど、止めるなよ」と言い、「止めろ!」と大声を出した。この場面はテレビカメラにも映っている。実は止めてなかったが、東電本社では止めたと思っていた。それで、「菅が海水注入を止めたから……」ということになった。
自民党は3.11前から解散に追い込むには総理をつぶすしかない、と考えていたので、この事故がいいテーマになった。とにかく解散すれば、100議席以上で返り咲けると。
浜岡問題は、海江田大臣(当時)が5月5日に浜岡を訪問し、6日に止めたほうがいいと言った。次官はそれをあらかじめ知っていたので、シナリオができあがっていたのだと思う。「浜岡は大臣が視察したほうがいい、そして止めてもいい。浜岡はだめだが、玄海は大丈夫だから」と次々と再稼動させるシナリオだ。これについては、海江田大臣からも次官からも報告がなかった。玄海は古川知事もやらせをやるぐらいで、一番OKが出やすいところ。海江田大臣に安全性について聞いたら、「いまの法律では、原子力安全委員に聞かなくても、保安院に聞くだけでいい」との答えが返ってきた。それは3.11前の話で、原子力安全委員会もストレステストも必要じゃないか、と。
岡本氏:この事故では、保安院も安全委員会の無能さを露呈した。どうしていいのかわからなかった。専門家もそれぞれ意見が違う。メディアは東電からのゆがめられた情報を流す。こうした一連の流れから、原子力ムラの強さはいったいどこにあるのか?
鎌田氏:「闇の深さ」を感じる。一国の首相でさえわからないことがある。マスコミは遅れていた。いま、ようやく国民の目線で原発批判になってきたが、そこにいくまで1年半かかった。この時差は大きい。原子力ムラ、私は“帝国”と呼んでいるのですが、自民党が法体系を作り上げた。すべてにお金がかかるというシステムを作った。電気料金の値上げから、他のエネルギーの開発をできなくするとか。それをマスコミは報道せず、反撃できなかった。電気料金を値上げする権利を許してしまった。国家ない国家を作らせてしまった。
それをやられたという悔しさはないですか?
菅氏:うまいやり方をしてきたと思う。梅原猛さんはこれを、“文明災”と表現し、「自分も脱原発をしてこなかった。文化事業に電力会社は気前よく支援してきたからか」と言っていた。Jビレッジなど、スポーツから文化事業まで、ありとあるところで電力会社は支援している。独占企業で電気はそこで買うしかないのに、マスコミに広告料を支払って宣伝する。ソフトに、真綿で首を絞めるようにやってきた。すさまじくソフトに。政治家は臆病で、黙って応援してくれるなら黙っていよう、となる。
オール電化について、夜間電力が安くなるのはいいことだと思った。原発は夜の電気があまるから安くしているだけ。どんどん電気を使うような社会に変えていった。
電力は地域独占で、そこでしか買えない。車は、トヨタがだめなら日産を買えばいいが、電気はそうではない。
日立や東芝は出入り業者なんです。今回の事故で、メガバンクが東電に頭を下げてお金を借りてください、と言った。事故はお金をかせぐチャンス。東電は一時的に債務超過になったのですが、貸し込んだ銀行の頭取は危機感を持った。つぶれかかった企業にお金を貸すなど、本当ならありえない。金融業界も、東電がつぶれると、自分の首が危うくなる。圧倒的な帝国だ。
岡本氏:この問題は、国家体制のコアにかかわっているのではないか。とても中央集権的で、これが先進国である力、みたいな。そこから考えないと、脱原発の歩みがみえてこない。
鎌田氏:中央集権的、大量消費社会は、21世紀になって変えようという動きになった。マスコミによって、それは浸透しつつある。大衆運動が向かっていく方向。菅さんは政治的本能で変えたが、野田さんはなぜか脱原発にいかない。最近、菅さんの示した方向にいきはじめたが。1年間空転した。
菅氏:野田さんは、ある段階まで、原発について発言しなかったし、関与していなかった。社会保障や増税の問題にエネルギーを集中していたのだと思う。再稼動については、関係大臣や役所から言われたのだろう。たとえば、枝野経産大臣が足りると思っても、経産省が足りないというデータを持ってきたら、「足りる」とは言えない。
再稼動に関して、「安全が確認されてから」ではなく、「国民が必要としているから」と言っていた。これは官僚のシナリオだ。
しかし、発言にメリハリが出てきたと思う。8月6日の発言では、「原発をゼロにした場合、どういういう問題が起きるのか、役所は資料を出せ」だった。これまでは、「エネルギーはどうあるべきか?」と言うから、「原発ゼロだと高くかかる」となった。「ゼロにした場合、どういう問題があるか?」と言われ、官僚はパニックになり、まだ資料を出してこない。「検討の仕方がよくわからない」と言っている。「原発が必要」という資料なら、分厚いのをすぐに出してくるのだが。関係閣僚、与党の民主党、いま官邸前で行っているデモやパブリックコメントなどの国民の声が、閣僚、与党、総理にも影響する。
鎌田氏:脱原発基本法は、9月4日までに提案までこぎつける予定だ。こうした法案はまどろっこしいという意見もあるが、大衆運動だけでやっていくのは難しい。大衆運動と院内の両方でやっていくことが大切だ。政治家の責任があるだろう。
菅氏:「料金が上がる、電気が足りない」といったことはわかりやすいが、「核廃棄物を逆手にとって、原発をつづける」というのはわかりにくい。青森知事が5閣僚に会い、「核廃棄物は再処理可能だからあずかっているが、それでないのであれば、持って返ってくれ」と言った。これは困るから、原発を止めると言えない。「もんじゅは、使うだけで核廃棄物の危険性を低くする」と説明する。プルトニウムを取り出せば、ガラス固形化する廃棄物の半減期は少なくなり、それほど危険ではない、と言い出す。
青森でいま預かっているものを返されても困る。だから、原発をつづける、という考え。
使用済み燃料プールは、8割うまっている。返されたら、プールがいっぱいになるので、原発をつづけるのは不可能なのに。
鎌田氏:再処理工場を受け入れたのは、雇用が増えるとか、固定資産税が入るから。再処理できなければ、持ち帰るというのは、青森知事と経産省で約束済みだ。
これまでいろいろ原発を取材し、「このプールの廃棄物はどうするんですか?」と聞くと、「大丈夫ですよ、全部六ヶ所に持って行きますから」と答えが返ってきた。