フランスの原発見学レポート

2011年9月4日のメディアパールに掲載された、グラブリンヌ原発見学レポート「グラヴリンヌ:原発からの放射能を受けた地区で過ごした10時間」です。

グラヴリンヌ原発、タクシーの運転手は長所について話した。役に立つ、安全、しかも、施設から出た廃棄水を供給した養魚場でスズキやタイが育ち、粋の極みといえば環境保護によい。私は、広告フィルムの端役と体面しているような気分になった。私に案内をしてくれたフランス電力の広報担当者は、椅子の上で縮こまる。「我々は貪り食っているわけではないと、約束します」

「パリュエル原発事故」と「フランス電力による従業員の被ばくの一般化」に関する記事をメディアパールで掲載したためか、電力会社の情報サービス部から原発見学への招待があった。「原発を見学したくありませんか?」 答えは、迷いもなくもちろん。私はグラヴリンヌ原発を提案した。6基の原子炉を備えた西ヨーロッパ最大の原発で、福島第一のように海に面しており、国内でも古い原発のひとつで、施設内最古の原子炉は2011年に30年目に入る。この原子炉は、プルトニウムとウランを混合したMOX燃料で稼動している。5月に、ニコラ・サルコジが、「脱原発は“中世時代の選択”をすることになる」と宣言した場所でもある。

見学は数日後にすぐに実現した。偶然にも、フランソワ・フィヨンがビュジェ原発を見学し、「フランスには原発が必要だ」とフランスの混合エネルギー政策の指針を確認して宣言した翌日だった。

原子力のこの方針に関連して怖気づくこともなく、8月30日、朝7時30分に見学ははじまった。原発管理事務室の室長(女性)は、「2010年7月のメディアパール」を脇に抱えて、我々を待っていた。では、原発からの放射能をつねに受けつづけている地区での10時間の旅をはじめよう。ダンケルクから数キロの距離にあり、危険性が指摘されている14基の原子炉が建ち並ぶ一帯に存在している施設。そのすぐ近くを巡る本当の企画ツアーだ。

「あなたは放射能漏れを見ましたか?」

施設内の4基の原子炉の共有機械を備えた巨大な部屋で、安全品質責任者が、眼下に設置されている発電機やローター、固定子、配管の迷路について詳述する。突然、彼が振り向いた。「あなたは放射能漏れを見ましたか? あー、いいえ、フランス電力は、放射能漏れについて配慮して仕事をしています」 えーと……。左の下の配管から蒸気らしいものが漏れていますが。「あー、そうですね、これはいつものことです」

3号機の司令室では、南仏なまりのにこやかな若い男性が司令官だった。金髪の二人の化学者が、図面を参照していた。「グラヴリンヌでは、9%が女性で、そのうち90%が技術職です」と原子力発電所のジャン=ミッシェル・キリシニ所長は自慢した。見学は続く。派遣会社と請負人の住居や託児所探しの援助や、買い物の配達もする管理人室を通る。マッサージコーナーのあるサロンやフィットネスルームもある。Wiiのゲームのための部屋もある。この施設の正社員が労働条件をどう思っているのか、すぐにはわからない。労働組合セクションの責任者との翌日のアポイントメントは、直前でキャンセルされた。全く同じ時間に、管理部とのアポイントが前触れもなく入ったからだという。

グラヴリンヌ原発は、環境ISO14001の認定を受けた。情報センターの入口に、使い済み電池のゴミ箱がある。食堂では、昼食の後、事務室長(女性)が、ベルトコンベアの上のすでに通り過ぎた料理ののった皿を再びとらえた。ベルトコンベアは、ミネラルウォーターのプラスティックボトルを回収し、リサイクル廃棄物容器のなかにそれらを捨てるために、キッチンへ向って動いている。

原子力発電所の副所長(女性)は、原発への情熱を語った。ここでは退屈することがなく、やることがたくさんあり、機械に接することができる。普通とは違う仕事であり、靴を売るといったものではない。原発部門は、フランス電力の女王的存在だ。管理室の室長(女性)は、人に緊張感も与える。拘束されている気持ち。厳しさ。複雑さ。私たちはつねに多くを要求される。共同体。子どもたちは一緒に学校へ行く。牧歌的な世界の香り。フランス電力の広報担当者はそれを心配している。「私たちは完璧な世界を売ったりしていない。ケアベアではないのです」 原発の先任者の娘、運営会社、新規加入者を再び連想させる。家族的精神なのだ。

「私の妻と子どもはどこに住んでいると思いますか?」

家族、これはグラヴリンヌ原発の所長との最後に交わした議論だ。この施設の安全性が絶対であることを説得するために。「私の妻と子どもはどこに住んでいると思いますか? 原発から2キロ圏内です」 ヘルメットとフランス電力のロゴ入り作業着で、彼は心温かく見学を引き受け、パリの会議に出発するまでの3時間以上の時間を割いてくれた。

彼は“教育する”ことを望んでいる。しかし、彼の手法で。私の質問に対し、事故に関する報告書や、原子力安全当局(ASN)から送付された手紙を取り出し、原則と手順の記述にそって回答した。彼なりの“道路交通規則”である。ASNは原発から周辺環境への放射能漏れを懸念しているが? 「放射性の液体からの放射線漏れは、基準以下の非常に少ない量です」 施設の老朽化、フッセンハイムと同じ年月の古い原子炉については? 「設備は30年前より現在のほうが安全です」 原子炉建屋に入るときの派遣労働者の被ばくは? 「グラヴリンヌの集団線量は、ここ15年で2~3下がりました」 原発労働者の健康に与える危険性は? 「私はコルシカ島に花崗岩の家を持っていますが、そこでの1ヶ月の放射線量は、この原発での1年間の放射線量とほぼ同じです」

耳が聞こえない人同士の会話。質問と答えがこうもかみあわず、2つの違う言語で言い表しているかのようだ。

帰り、今朝のタクシーの妻が、駅まで送ってくれた。彼女はパリ行きの電車の時間と、原発施設からダンケルクの中心部までの往復にかかる時間を空で覚えている。彼らの息子は、この原発での研修を終えたばかりだ。

私たちは、ポール・サン・リュイ村へ向うアカキュルチュール道路を通り、原発を後にした。グラヴリンヌ原発の原子炉の塔が建つ風景。その原子炉は、ノートル・ダム・デュ・ペルペチュエル・スクールに捧げる教会の塔の遠い向こう側に並んでいる。幾千人の住民が暮らす数歩先で、設立30年のこの工場がフランスの電力の10%近くを生産している。

 

日本の原発で大儲けしてきたフランスの原子力企業アレバ
フランスの原子力グループ・アレバが、世界4位の顧客である日本で操業して40年以上がたつ。金の卵を産む鶏は、アレバに過去毎年6億5千万ユーロの売り上げをもたらしていた。フランス週刊紙『カナール・アンシェネ』の原発特集号(2011年10月)の記事。

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