フランスの原発の被ばく事故申請のあいまいさ

フランスのメディアパルトが2011年6月15日、原発事故で労災申請をしなかった企業の記事を掲載しました。

2007年11月、53歳の溶接工ドミニク・サンソンは、フランス電力公社の巨大原発施設パリュエル原発の配管蛇口を交換していたときに被ばく。しかし、その労災申請はされなかった。パリュエル原発を管轄するオート=ノルマンディー地方労働監督が、事業主に対し、労災申請を怠ったとして告訴した。事業主は、GDFスエズ(フランスガス公社とスエズが合併)の子会社で、下請け会社の工業保守管理専門企業アンデル(Endel)。
公判は6月16日(木)、ローアンの司法裁判所で開廷。下請けの健康衛生管理の欠如が問われる訴訟は、フランスの全原発にかかわる問題として注目されている。

フランスも日本も、労働者をとりまく状況は同じです。

記事はこのような内容(全訳ではありません)。

2007年11月6日、アンデルの社員サンソン氏は、パリュエル原発の原子炉建屋で配管の蛇口を溶接していた。放射線粒子吸収装置で放射線防護をしていたが、突然、コンセントが抜けて電源が切れた。再びコンセントを入れたが、数秒間の間にドミニク・サンソンは被ばくした。原発施設内でコンセントの場所を見つけるのは容易ではなかったという。「原子炉建屋内は迷路のようで、人であふれ、誰が何をやっているかを見たりしない」と彼は説明する。
施設から出ようと最初の測定器を通ったとき、放射性物質が付着していることを示すアラームが鳴った。彼は外に出ることができず、そこで服を脱ぎ、顔や髪の毛についた放射性物質の存在を調べる2つ目の測定器を通った。彼は看護師に連れていかれ、洗剤とシャンプーで除染。しかし、ボディカウンターで調べたところ、器官から放射性同位元素のコバルト58と60が検知された、と言われた。

一緒に作業していた配管工の同僚も被ばくした。「被ばくはたいしたことはない、限度量を下回っている、と言われたが、実際には安心できなかった。タバコを吸わない同僚は肺ガンを発症した」 ローアンの司法裁判所で、彼は説明した。

二人の社員が被ばくしたが、48時間たっても、アンデルは社会保険を受けるための労災申請をしなかった。激怒したドミニク・サンソンは個人的に労働監督官への告発に踏み切った。2009年10月、アンデルは申請を怠ったとして、135ユーロの罰金を命じられたが、この罰金命令を拒否したため、ローアンの司法裁判所で再び訴訟となった。

メディアパールが広報責任者と連絡とったところ、アンデル側としては、「事故のときに肉体的被害がなければ、労災とはいえない」と言う。弁解として、ドミニク・サンソンの上司でアンデルの支店パトリック・ソーサイ所長は、「今日まで、この種の事故は労災申請の対象になったことがない」と説明した。

検察官は、「この事故が申請されないのは常識がはずれている。これは危険な状況での本質的な事故である」と言う。判決は次の9月29日に言い渡される。

被ばくは特に、原発施設内で起きる。労働組合はたびたび、フランスの大部分の原発を運営しているフランス電力公社の経営陣に被ばくについて告発していた。メディアパールが入手した2008年の内部資料によると、フランス電力公社は原発の幹部に、外部被ばくを医療保険の事故として申請しないよう求めている。内部被ばくの疑いがある場合や、被ばく量が基準以下である外部被ばくも同様だ。

放射性物質が付着した汚染は、放射線にさらされる被ばくとは区別される。フランス電力公社では、内部被ばくと推定されたものだけに治療がほどこされる。同じく、基準値を超えた線量による外部被ばくは、「たいしたことのない事故」として申請されなければならない。労災申請は単に、原発で「医師か外部の病院で治療を受けたか」にある。
フランス電力公社の資料では、汚染の存在や外部被ばくには言及しておらず、それらは突発しないかのようである。

しかし、原発の下請けに詳しい社会学者のアニー・テボー=モニィによると、「外部および内部被ばくは、労災として考えなければならない。それは肉体的被害である。放射性物質は体内に入り、細胞にまでいたる。この物体が変質し、発がん性物質とともに器官に沈着する」と言う。低量被ばくであっても、ガンや心臓血管の病気、生殖器の損傷などの危険性を引き起こす。研究者たちは長年警告しており、最近でも、ルモンド紙に掲載された議論で、原子力エネルギーを有する国では「放射線汚染が絶え間なく広がって」おり、「放射線汚染は油断できない」とある。

メディアパールが公開したフランス電力公社の内部資料で明らかになった事実は、原子炉と核燃料を製造しているアレバとの地位の「分かち合い」を重視している点である。この2つのフランスの巨大原子力企業は、被ばく問題について互いに相談しあっているのだ。

特筆すべきは、金属鉱業団体との情報交換である。経営者たちの集まりである金属鉱業団体は、アスペクトの騒動でも当事者のひとつだった。危険を知りながらも、何10年もの間、社員の身にアスベストをさらさせたままにしていたのである。

 

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