フランス原子力安全局「放射線防護原則」パンフレット

フランス原子力安全局(ASN)は、「放射線防護の基本原則」というパンフレットを作成しています。
ネットでダウンロードもできます。
このパンフレットは、放射線は被ばくの危険があるので、それを避ける、低減するための防護について、一般の人にわかりやすく説明するためのものです。
以下、パンフレットの(個人)翻訳です。

“放射線の危険性から身を守るために”

放射線防護の目的は、放射線による危険性を避ける、もしくは低減することにあります。
これらの危険性を回避もしくは低減するために、放射線防護は、(放射線活用の)“正当”、(放射線量の)“適正”そして“限度”という三大原則に基づいています。
これらの基本原則の適用にあたり、放射線防護を、一般市民、患者、原子力施設従業者の3つに区分し、それぞれに応じた規制および技術を用いています。
フランス原子力安全局は、規制を制定し、国家機関の名のもとに、放射線防護システムが正しく適用されているかを監視しつづけています。

放射線が人体に与える生物学的な影響とは?

自然放射線であっても人工放射線であっても、放射線は、何かにぶつかって原子から電子をはじきだす(電離を起こす)十分なエネルギーを持っています。放射線が生体細胞の物質にあたると、分子構造が損なわれ、細胞破壊もしくは変質が起こります。それにより、生物学的に2種類の影響を生み出します。

確定的影響(例えば、火傷や吐き気など)は、一定の限度以上の放射線量を浴びて被ばくしたとき、系統的に、急性障害の症状がでます。症状の重さは、線量が多いほど増加します。
確率的影響(主にガン)は、系統的ではなく、被ばくした個人によって差があり、数年後に晩発障害として症状がでます。確率的影響の可能性は、被ばくした線量に比例して増加しますが、症状の重さは線量に関係しているわけではありません。

放射線防護の基になっている基本原則とは?

放射学の事故の場合に突発的に起きる確定影響を回避し、確率的影響の危険性をできるだけ低減するために、放射線防護システムでは、公衆衛生法に記載された三大原則を基礎においています。
正当:被ばくの危険性のある活動における放射線の正当化
適正:被ばくの線量をできるだけ少なくする適正化
限度:放射線の被ばく線量の限度化

これらの三原則は、一般的に言われる警告原則から生じたものです。その原則とは、「ALARA」(As Low As Reasonably Achievable 合理的に達成できるかぎり低く)です。
三原則すべてを重視する技術的および組織的な手段が監視で、公的機関がそれを担っています。フランス原子力安全局もその機関のひとつです。
放射線防護の規制は、一般市民、患者、原子力産業従事者の3区分にそれぞれ応じて定められています。

放射線被ばくの重大な生物学的影響を回避し、被ばくの度合いを比較するために、放射線防護では、被ばくした放射線の線量を用います。この線量はミリシーベルト(mSv)の単位で表され、グレイ(Gy:原子質量単位で受けたエネルギー)で測定される人体の吸収エネルギー量だけでなく、放出された放射線の種類、組織や器官が被ばくした際の放射線の生物学的感受性も考慮に入れて計算されます。

正当の原則はどのように用いられますか?

放射線被ばくの可能性があるにもかかわらず、正当化され、実施される活動は、被ばくの危険性を伴う公衆衛生的、社会的、経済的、科学的の分野で、それが利点となる場合のみに限られています。正当化されない活動はすべて、禁止されています。同様の結果を得ることができる技術がたくさんある場合は、放射線の用量をできるだけ低く抑え、リスクが最小限になるものを選択する方針がとられています。

私たちが浴びるさまざまな放射線
フランス人の年平均被ばく線量は3.4ミリシーベルトで、その内訳は次の通りです。

<自然放射線>
ラドン(地下から発散される放射性ガス) 37%
大地からの放射線(大地の放射性ミネラル) 12%
宇宙線 10.5%
飲料水や食品 10.5%

<人工放射線>
医療放射線 28.5%
原子力関連の産業、研究、核実験 1.5%

医療分野において、造影画像診察の指導ガイドにより、放射学もしくは核医学の診断の正当性が統制されています。

適正はどのように実用化されますか?

放射線の集団被ばくや個人被ばくの度合いは、合理的に達成できる最低限のレベルを保たなければなりません。(放射線生物学の疫学および実験研究によりもたらされた)科学的な知識、技術の現状、経済的および社会的要因、そして、万一の場合の医療目的での研究を考慮し、適正量が保たれています。
被ばくを適正化するためには、次の事項も同時に関係してきます

放射線を放出する物質
放射線を放出する物質の濃度を減少させる。防護壁、屋内退避、放射線吸収防護コンテナーを使用する。その他の安全システム(浄化器、換気扇など)を用いる。

労働環境
放射線を放出する物質からできるだけ離れる。被ばく時間をできるだけ少なくする。防護服や防護装備を身につける。外部被ばくを減少し、皮膚の放射能汚染や、呼吸や食物摂取による内部被ばくの汚染を避けるためのマニュアルに従う。

患者の被ばく環境
放射線診断や放射線治療の適正手順と医療機器の質の安全性を守る。

適正原則は、すべての被ばくに適用されます。すなわち、民間企業、軍事活動、医療、獣医学、研究などです。さらに、宇宙線や大地からの放射線(例えば、航空機内、鉱山の坑道、花崗石質の土地での建設工事など)の自然放射線での被ばくが発生する特殊な環境での活動にも適応されます。

限度の原則はどのように具体化されますか?

公衆衛生と労働に関するフランスの法律において、市民や従業者に合わせ、ひとりの人間が年間に許容できる放射線量の限度を決められています。
一般市民の限度線量は、年1ミリシーベルトです。原子力産業従業者の限度線量は、20ミリシーベルトです。医療での被ばくは治療を究極目的として発生することから、患者には限度量が適用されません。正当性と適正の原則だけを遵守することになっています。医療での被ばく線量は、患者の健康回復が期待できる利点を予測した上で、希望の診断に関する情報を提供し、研究治療目的を達成することが、まず優先されます。
万一に備え、年間限度線量は規制され、国際的なさまざまな実験研究で確認された健康上のリスクよりも、少ない量に抑えられています。これらの限度量が厳守されているかを調べるために、環境放射能の定期的な監視、放射線を放出する物質で被ばくした個人や従業員の計測調査を行っています。環境の監視体制は、国内全土にわたり、大気、水、土壌、動植物、食糧品に適用されます。従業員の監視は、主に個人の計測器での定期的な分析に基づいて行われます。作業中には計測器の携帯が義務づけられています。

放射学では、それぞれの診察ごとの参考線量レベルが、インディケーターのように、適正に合わせて用意されています。放射線治療の線量は高レベルですが、正常な組織への被ばくを防ぐ限度内で、それぞれの腫瘍治療ごとに特別に決められています。

 

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