モロッコ独立メディアのジャーナリスト逮捕に抗議の声

2013年9月にモロッコの独立系メディア『Lakome』(閉鎖)のジャーナリストが逮捕された事件。

各国で人権侵害という抗議の声が上がりました。

フランスのネット新聞『メディアパルト』の2013年9月28日付記事の抄訳です。


モロッコを脅迫するアルカイダのビデオにリンクさせたのを理由に、独立系メディアサイト『Lakome』のジャーナリストのアリ・アヌズラが「テロを煽った」罪で投獄された。長ければ懲役20年の刑を言い渡されるかもしれない。

「アヌズラはジャーナリストだ。テロリストじゃない!」「なぜアリを逮捕したかって? 彼が真実を伝えたからだ」「アリ・アヌズラとみんなで連帯しよう」 「テロを煽った」としてジャーナリストのアリ・アヌズラの容疑を通告したモロッコ議会の前に、木曜日、数百人が集まった。権力に対する批判的編集で有名な独立系ネットメディア『Lakome』のアラビア語版ディレクターであるアヌズラは、モロッコを脅迫するアルカイダのビデオにリンクさせた投稿で起訴された。

弁護士、ジャーナリスト、NGOの活動家、アーティスト、政治家の何人かが、彼の釈放と課徴金の破棄を求めてラバトに結集した。タンジェでも、数十人がデモを行った。NGOの「2月20日運動」と「モロッコ人権団体(AMDK)」の活動家カミリア・ラウヤンヌは、「権力側は、テロ問題にからめて彼に復讐している」とみている。
火曜日の夜、1週間拘束された後、アヌズラは予審判事の前に呼ばれ、テロ擁護、テロの煽動と物的補助の容疑で起訴された。そして、テロ犯行者が普通収容されるサレ刑務所に移送された。彼は2003年の反テロリスト法に基づいて起訴された。彼の弁護士によると、最長で懲役20年になる可能性があるという。

モロッコを脅迫するテロリストに関する記事のなかで、アヌズラは、聖戦を呼びかける-プロパガンダの煽動であることは明らかなのだが-イスラム・マグリブ諸国のアルカイダ(AQMI)のビデオとリンクさせた。このビデオはスペインの新聞El Paisのブログで閲覧可能だったが、その後削除された。Lakomeのフランス語版サイトはこのビデオを掲載したが、サイトのディレクターのアブバキ・ジャマイはそのとき何の心配もしていなかった。翌日に起訴の情報を電話で知り、アブバキ・ジャマイは、同僚に対する拘留訴因に「茫然とする」とひとりごとを言った。

アヌズラの弁護士アブデラヒム・ジャマイ氏は、反テロリスト法で起訴されたという事実は「とんでもないこと」で「常識外れ」だと述べた。「これは世論に対する告訴だ。ジャーナリストを告訴するのは、表現の自由を脅かすということである」と弁護士は断言した。「実際には何もしておらず、冤罪であることが問題だ。物的証拠を探すなら、ネットサイトを見つけて分析すればいい」

アヌズラの取り調べ以来、結集が増大したのは明らかだ。今週の土曜日、ネット情報サイト(Lakomeはもちろん、Yabiladi、Mamfakinch、Onorient、Telquel)、同様に有名なブロガーたち(Labi.org、docteurho.com、mounirbensalah.org、excepmag.com、mdd.ma、sniper.ma、transportmaroc.wordpress.com、carnetdebeur.com、mcherifi.org、thesanae.com)がインターネット・ブラックアウト操作に巻き込まれた。ブラックアウト操作はフェイスブックやツイッターにまで及んだ。
9月27日の金曜日、海外で活動する56人のモロッコ人ジャーナリストが、ハンガーストライキを始めた。ソーシャルネットワークで、世界中のジャーナリストたちが、アヌズラの釈放を求める写真を掲載した。海外でも集会が予定されており、この土曜日にはカナダのモントリオール、10月1日にはフランスのリールで行われる。

逮捕の翌日にはすでに、アヌズラが収監されている司法警察署前で抗議デモが行われた。さらに、首都ラバトの法務省前でもデモが行われた。横断幕には、多くのインターネット利用者による怒りと驚きを表現した言葉が書かれている。ツィッターの@Vi_Ninuaは「モロッコの表現の自由を謀殺するのを我々は目撃している」と書き込んだ。他の人たちは、法務大臣のムスタファ・ラミドと通信大臣兼政府広報官のムスタファ・エル・ケルフィに抗議の手紙やSMSのメッセージを送りつけている。

こうした動きはあっという間にモロッコ国境を越えてひろがった。「人権や表現の自由の保護を掲げる有名なNGOがアリのために動き出し、非常に素早く、確実にひろがった。モロッコでも、アリへの同情が一気に集まった」と、ジャーナリストのジャマイは強調する。アムネスティ・インターナショナル、ヒューマンライツ・ウォッチ、そして、ジャーナリスト保護委員会、国境なき記者団もまた、アヌズラの釈放をモロッコ政府に求める声明を出した。

モロッコでは、政治関係者や既存メディアからの支持者は、いまのところどちらかというと消極的だ。もっとも懸念するのは、優秀な政治家たちがアヌズラの拘束を正当化していることにある。通信大臣兼政府広報官のムスタファ・エル・ケルフィでさえ、アヌズラを支援する団体に向けて声明を発表した。彼は、メディアパールが送った声明にもメッセージにも回答していない。法務大臣のムスタファ・ラミドは、すべてのコメントを拒否している。「何も言いたいことはない。訴訟中なのでコメントしたくない」と電話で述べた。この大臣は、10年前に施行された反テロリスト法の採択に激しく反対したなかのひとりである。弁護士によると、彼は、2003年5月のカサブランカで起きたテロ事件に関連したとして起訴された多くのイスラミストを擁護したという。

アヌズラがモロッコの裁判沙汰を引き起こすのはこれが初めてではない。2009年、彼はすでにムハンマド6世の健康について「うその情報」を流したとして懲役1年の有罪判決を受けている。彼の新聞『Al Jarida El Oula』は廃刊となった。
6月、ムハンマド6世が海外に行って長期間留守にしたのに、アヌズラは疑いを持った。その前の月に、彼はダニエルゲイト事件-11人の子どもをレイプした罪で30年の禁固刑を言い渡されたスペイン男性へのモロッコ国王の恩赦-がどうなるかを取り上げ、王の側近であるフアド・アリ・エル・ヒンマのこの事件での責任に触れた。アヌズラの最近の編集内容は、サウジアラビアに関することだった。アラブ世界の民主化への努力にブレーキをかけるために、サウジアラビア王国が努力していると書いた。

多くのフリージャーナリストにとって、これは何を表しているか明らかである。政府は、既存メディアを服従させることはできたが、独立系ネットメディアはそれができないので、排除しようとしているのだ。

ネットメディア『Hespress』のジャーナリストのラシッド・エル・ベルジティは、「仕事の方法」を変えたわけでもないのに、同僚の何人かが「引き下がろうとする」のを懸念している。「非常に恐ろしい。これは悪い兆しだ。我々は後退する国にいるといえる。」と彼は嘆く。「アリ・アヌズラは学校のようであり、彼からたくさんのことを学んだ。友人でもあり、彼の人間としての価値も知っている。ジャーナリストを独房に入れ、反テロリスト法違反で逮捕するのは認められない。こんなことは、軍事独裁政権の国でさえ起きない」

ジャーナリストのイマド・スティトーは、「いい加減な」逮捕だと告発する。「アヌズラは自分のするべき仕事をしただけだ」と彼は言う。こうして、この逮捕により、ハサン2世のモロッコ時代へ戻ることになる。この後退は、ジャーナリズムを実践する方法-そして彼に続くジャーナリストの同僚たち-を変える恐れがある。「私たちは、どんどん増えていく赤信号について考えはじめている」

ここ数年、モロッコ政府はますます独立系メディアを窮地に追い詰めている。取り上げるのが危険な問題はあいかわらず変わっていない。サハラの状況、イスラム、国王と皇室。独立系出版物の多くが、裁判沙汰の後、特に広告のボイコットにより、廃刊になっている。『Journal hebdomadaire』や『Nichane』がそのケースで、2010年にキオスクから消えた。

「アリはまた、たぶん特筆すべき、真の独立系メディアの共同創立者である。独立系メディアを『Al Jarida Al Oula』と『Jounal hebdomadaire』の自由なジャーナリズムのジャンルのほうに向かわせ、それを維持しようとしている」とジャマイは説明する。「モロッコのキオスクの前にいけば、蜃気楼のような印象を得るだろう。膨大で多彩なメディアが存在するのは本当だ。しかし、誰が権力を行使する人たちか、彼らが権力をどう行使するか、といった本質的な問題に興味があるとしたら、結局、出版に関して砂漠のようなものが明らかになる。そして、画一性にうんざりする」

(2013年10月21日)

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