現役の活火山の富士山が噴火すれば?小山真人さんに聞く

『ビッグイシュー日本版』2013年3月1日に掲載された記事です。

よく噴火しているからこそ美しい富士山。
噴火が起きれば、火山灰で空港は閉鎖、流通や交通がストップ。

日本の象徴、富士山は現役の活火山だ。
富士山の地下深くではマグマ活動に関連する地震が毎年数十回程度起きているという。
将来発生する恐れのある噴火について、小山真人さん(静岡大学教授)に話を聞いた。

日本の火山の寿命は100万年、200万年というが、雄大な姿でそびえる富士山は誕生からまだ10万年。人間の年齢にたとえると、元気溌剌10歳ほどの新しい火山だ。

「約2000年前に今のきれいな円錐形となり、私たちはたまたまその姿を見ているのです。火山は活動が停止して10万年もたてば、侵蝕されゴツゴツの山になります」と語る小山真人さん。

火山とは、簡単に言うと地下の溶けた岩石(マグマ)が地表に出てくる場所。地球の表面をおおうプレートの境界の地下深部はマグマが発生しやすいため、プレート境界にそって火山の列ができている。日本列島付近は4枚のプレートが折り重なっており、まさに火山密集地帯だ。

「日本で認定されている活火山は110。富士山もその一つで、いつ噴火しても不思議ではないのです」

気になるのは、地震と噴火の関係。3.11の東日本大震災で、富士山の火山活動は刺激されなかったのだろうか?

「そうした現象は今のところ観測されていませんが、中・長期的な影響はわかりません。数年、数十年後に3・11の地震が原因で噴火する可能性はありますね。過去に、富士山の近くで起きた大地震が噴火を引き起こした実例があるからです」

過去の信頼すべき文書に、781年から10回の富士山の噴火記録が残されている。そのうち7回が奈良・平安時代、2回が室町時代、残り1回が江戸時代。最後は、江戸時代1707年の宝永噴火だ。この噴火はマグニチュード8.7の宝永東海・南海地震発生の49日目に起きた。富士山噴火史上まれにみる激しさで、莫大な噴煙が立ち上り、16日間にわたり、広範囲に火山礫や火山灰を降らせた。直接の死者は知られていないが、後の被害は大きく数十年も続いたという。

「宝永噴火では、火山灰で家や農地が埋没して耕作ができず、飢餓でおおぜい亡くなっています」

予想が難しい富士山、
登山客や観光客の被害が心配

それ以降、300年以上沈黙している富士山。マグマは地下深部から少しずつ上昇して溜まり、その蓄積量に見合った大きさの噴火が起きてもおかしくない、と小山さんは言う。

富士山で大規模噴火が起きた場合、溶岩がふもとまで流れたり、降り積もる火山灰による被害が心配される。

「仮に宝永噴火と同じ噴火が起きれば、羽田と成田の空港は閉鎖され、東名高速は沼津、東海道新幹線は三島から東が封鎖になり、流通や交通がストップします。風向きによっては浜岡原発にも火山灰が薄く積もる可能性がありますが、その対策はされているのでしょうか。そもそも原発の立地については活断層だけでなく、火山学も深くかかわっています。過去十数万年以内に火砕流や溶岩が到達したところにある場所に、原発は建てるべきではありません。川内原発と泊原発はそのケースに相当します」

関東大震災や阪神・淡路大震災などの大地震については記憶に刻まれていても、火山の大噴火の史実を知る人は少ない。市民の知識にもばらつきがある。富士山のハザードマップが2004年に完成し、山麓の全家庭に配布された。防災対策も着々と進んではいるが、予知は万全とはいえず、課題も残る。

「前兆通りに噴火しやすい有珠山は警報と避難に成功しましたが、富士山は予測が難しくて…」

最大の心配は、登山客や観光客の被害だ。

「噴火予報をすばやく確実に伝える手段がありませんからね。落石に備えて、山登りの際には必ずヘルメットを用意するとか、シェルター作りなども考えるべきです。登山は危険と隣り合わせだという意識を持つことが大切です」

今でさえ観光客は飽和状態なのに、世界遺産に登録されれば、さらなる増加が予想される。

「ハザードマップを最初に作成しようとした時、観光業界の反対にあいましたが、いい面を強調するだけでなく、リスクにも触れるべきです。富士山はよく噴火しているからこそ美しいのだと」

火山のおかげで、私たちは風光明媚な地形を楽しむことができ、温泉や地熱といった恩恵も受けている。その一方で、誰でも噴火の危険に遭遇しかねない。火山を正しく理解したい。

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