NHKとアルジャジーラのイラク戦争報道を比較・分析

『日刊ベリタ』2008年1月15日に掲載された記事です。

反戦の動き、わずかしか触れず

カタールのテレビ局アルジャジーラと日本のNHKのイラク戦争報道を比較・分析した北大大学院メディア・コミュニケーション専門研究員アブデルガニ・エナムさん(モロッコ出身) が、先月、日本ジャーナリスト会議北海道支部の例会で講演した。「中東という表現の自由に制限がある社会ながらも、アルジャジーラは、現地からの中継と独自の情報源を利用し、イラク戦争を多角的に報道した」と語り、「日本人は、政府寄りの報道が多く流れた結果、この戦争の真実を十分に知ることができなかったのではないか」と指摘した。

エナムさんは、修士論文「2003年イラク戦争におけるアル・ジャズィーラとNHKの報道:内容分析に基づく比較研究」のデータを示し、アルジャジーラとNHKのイラク戦争報道の時間と内容を解説。

まず、アルジャジーラのイラク戦争報道について、開戦前の報道時間は、「戦争支持」のほうが「戦争反対」より長かった事実に関し、「カタールは親米国で、放送局の出資者が首長であるためか、プロフェッショナリズムと“米国支持”との狭間で迷いがあったのではないか」と分析した。

開戦後は、ニュース番組の大部分がイラク戦争関係で占められ、戦場からの精力的で密度の濃い中継が24時間続けられた。「バグダッド、モスル、バスラ他のイラク国内はもちろん、ヨルダン、クウェート、カタール、エジプト、モロッコ、パキスタンなどのアラブ諸国、米国、英国といった西欧諸国にいたるまで、世界各地の声を拾い、総括的なレポートを行っていた」と強調。

アルジャジーラが特に力を入れたのは、イラク人の人的被害に焦点を当てた報道で、「米軍によるイラク人殺害を取り上げ、米国の怒りを買ったが、アルジャジーラは怯まずに放送しつづけた」と説明した。さらに、「フセイン政権下で抑圧されていたクルド人やシーア派の問題、国際社会で盛り上がる反戦運動なども、時間は少ないが報道していた」とつけ加えた。

フセイン政権崩壊後の報道を見ると、イラク国内の混乱と治安悪化、米軍および英軍の活動、占領に反対するイラク人の行動、イラク再建計画が主な内容で、「米国は戦後の状況を悪化させたが、イラクの解放に貢献した、という2つの要素を織り交ぜた報道だった」と語った。

一方、同時期のNHKの報道について、「イラク戦争報道の時間数は、アルジャジーラより少ない。内容も、米国政府・米軍の活動が半分以上で、英国政府・英軍の活動は1割にも達しない。イラク軍の活動においては、まったく報道されなかった。また、日本政府の立場には触れても、日本政府内での戦争反対という意見はゼロだった。国際社会の反戦の動きもごくわずかしか時間を割いていない」と指摘。

イラク市民およびインフラの被害に関しての報道はあったものの、「人的被害へ目を向けなかった点が、アルジャジーラとの大きな相違である」と強調した。

「NHKの報道では、戦争の主体は米国であり、米国に好意的な内容になっている。NHKが中立性に欠けた要因としては、日本政府の影響、米軍・英軍の報道規制、米軍・英軍の戦争プロパガンダとしての放送、西欧のニュースソースへの過剰依存、戦地からのレポートの欠如、があげられる」とまとめた。

エナムさんは、「アルジャジーラのスタッフは、アラブ語を用い、アラブ地域に関する知識も豊富だ。イラク国内や世界各国の広範囲に特派員が駐留し、西欧に頼らない独自の情報源を有している。しかし、それだけでなく、アルジャジーラのスタッフはジャーナリストとしてのプロ意識が高く、CNNやBBCといったグローバルなメディアをライバルとみなし、アラブ世界にとどまらず、広く国際的に情報を伝えるという使命感が強い。こうしたプロフェッショナリズムの違いが、両局の報道に現れたのではないか」と総括した。

最後に、「アルジャジーラも米国偏重の報道を反省すべきだが、NHKはもっと中立性を保つべきだった。自己判断・意思決定をするために、人は正確な情報を得る権利を持つ。戦争時には特に、考える材料が必要で、バランスの取れた情報を視聴者に提供するのが、ジャーナリストの仕事といえる。情報が偏っていたという意味で、日本国民は不幸だったのではないか」と述べた。

 

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