『専門店』「世界の専門店拝見 こんな店・あんな店」2000年7月号に掲載された記事です。
フランスは伝統的な製法を受けついた職人をとても大切にしている。ワイン、チーズはもちろん、生活のいたるところで、手作りの良さを感じることができる。さまざまな木の実から抽出される食用オイルづくりも、フランスでは古い伝統がある。
今回は一世紀以上の歴史をもつオイル製造業「ルブラン」のパリのショップを訪ねた。場所はモダンなエリアで知られるサンジェルマン。老舗ではあるが、センスのいいデコレーション。アンヌ・ルブランさんにお話をうかがった。
-ここはオリジナルのオイルを販売しているのですね。
うちは1878年創業の食用オイル製造業者で、120年の歴史があります。ブルゴーニュの南のムーランにオイル製造工場があり、現在、兄が4代目。私はパリのショップを担当しています。パリのショップはここだけで、3年前にオープンしました。ムーランには工場とショップがあり、各地、各国に販売もしています。
-オイル以外の製品もいくつかありますね。
バルザミコ、フランボワーズビネガー、シードルビネガー、ワインビネガーなどの酢類、マスタードです。食品以外では、オリーブオイルを原料にした石けん、シャワーソープ、クレンジングローションをおいています。これらの商品も伝統的な手仕事で製造されているものです。
-この場所を選んだ理由は?
サンジェルマンを選んだのは、この製品のエスプリが、ある意味でサンジェルマンのエスプリと一致しているからです。サンジェルマンは魂を感じるエリアです。私たちの製品にも魂があります。なぜなら、4代も続いているのですから。私はサンジェルマンが好きなんです。サンジェルマンは歴史あふれる街です。私たちのオイルにも歴史がありますから。
-それにしても、4代目というのはすごいですね。今でも伝統的な作り方ですか?
昔ながらの製法、手作りを守り続けています。もちろん、時代とともに新しい技術も導入していますが、伝統的な手作りの部分をとても大切にしています。
-具体的にどのようにオイルを作るのですか?
うちのオイルは、さまざまなナッツの皮をむき、圧力をかけて油を抽出します。オリーブオイル、くるみオイル、ヘーゼルナッツオイル、ピスターチオオイル、アーモンドオイル、ピーナッツオイル、松の実オイルなど、いろいろな種類のオイルを製造しています。ほとんどのオイルはムーランで、オリーブオイルはプロヴァンスのドロームで作られます。
-とても香ばしい香りですね。
素晴らしい香り、しっかりした味の芳醇なオイルが特徴です。くるみ、ヘーゼルナッツ、ピスターチオ、アーモンド、ピーナッツなどは、乾燥したナッツからオイルを抽出するため、とても味の濃いオイルができるのです。原料のナッツも厳選された品質の良いものだけを使用しています。
-これらのオイルはどのような料理に使いますか?
オイルそのものに香りと味があるため、サラダや温野菜にとても向いています。また、魚料理、さしみのような生にでも、火を通したものにも最適です。料理に使うというより、ソースなど、仕上げの隠し味として使ったほうが、味と香りが引き立ちます。
-フランスの有名なシェフもこちらのオイルを使用しているとか。
ええ。日本で仕事をしているフランス人シェフも、ここの商品を買っていますよ。
-一般のお客さんはどういう人が多いですか?
うちの製品が好きな、あらゆる種類の人が来ます。特別なカテゴリーはないですね。ナチュラルなもの、手作りのものを求める人がやって来ます。フランスでは、自然志向、手作り志向の人が増えていますね。大量生産の時代なので、自然なものが求められるのではないでしょうか。また、野菜の消費の増加にともない、サラダなどに使うオイルを探している人も多くなりました。
-外国人も買いに来ますか?
ええ。でも、日本人は少ないですね。これにはちょっと驚いています。というのは、日本でもここのオイルが紹介されているようなのですが、買いに来る人は多くないからです。たぶん、日本料理にはオイルを使う習慣があまりないからではないでしょうか。
-そうですね、ごま油はよく使いますが…。
日本人は生魚や蒸した魚をよく食べますよね。魚料理にうちのオイルはとても合います。特にピスターチオオイルは最適ですよ。オイルをさっとかけると、シンプルですが、うまみが増すのです。日本へ輸出することには興味はありますが、輸送費がかかるため、まだ積極的に取り組んでいません。
-この近所にもオリーブオイルショップがありますね。
これらのショップは、各地のオリーブオイルを集めているので、うちの店とは全然違います。ここにはひとつのブランドしかありません。小さいショップですが、製造元と直結しているのです。このようなオイル専門店はパリにたくさんありません。うちは、家族経営のため、代々同じ価値観を持ち続けているのです。
-ボトルやラベルも昔のままなのでしょうか?
この壺のデザインは創業時と変わりませんが、ラベルやボトルなどはあたら石ものになっています。製造器具も、例えばナッツを砕く挽き臼など昔と同じものを使っているものも多いのですが、すべてが昔通りというわけではありません。私たちは、伝統と近代化を両立しています。ただし、根本のコンセプトは、あくまでも伝統なのです。ですから、流行を追ったり、トレンドを意識したりはしません。かわいいボトルにするといったことは絶対しないのです。
-全体にシンプルな感じですね。
ボトルやラベルを見ていただくとわかりますが、どちらかというと地味ですよね。これは、クラシックであろうと努めているからです。このクラシックなエスプリは、世代を越えて受け継がれているのです。120年の間には、もちろん技術が改善され、新しい商品も生まれましたが、私たちはいつも同じエスプリ、伝統のエスプリを持っています。このエスプリが、売ること、コマーシャルを一番に考えているオリーブオイル店と違うところです。
-このように4代続くのは、フランスでは珍しくないのですか?
いいえ、とても珍しいことです。2代ぐらいで途絶えてしまうのが普通です。若者が昔からの家業を継ぐのは、容易なことではありません。でも、私たちはこうしてやっています。うちのオイルづくりの伝統は、決して絶えることはないと思います。たとえ家族でなくても、誰かがこの伝統を受けついてくれると信じています。保存していかなければならないことですから。
パリの食べ物屋(28のレストランやカフェを紹介)