パリの店:中国茶専門店 Thés de Chine

『専門店』「世界の専門店拝見 こんな店・あんな店」2005年3月号に掲載された記事です。

パリには中国茶専門店がいくつか存在し、ファンは多い。そのなかのひとつ「テ・ド・シーヌ」は、サンジェルマン大通りを東に向かった、静かなエリアにある店だ。

今回は、パリに住んで約20年という、中国出身の雲錦中さんにお話をうかがった。

-日本でも中国茶は人気です。

日本人のお客さんも多いですね。お茶を購入するだけでなく、レストランの飲茶を目当てにやって来る日本人がたくさんいます。

-いつからフランス人は中国茶を飲むようになったのですか?

この店がオープンした8年前、中国茶を知っているフランス人は少なかったですね。
経営も厳しかったですよ。よく覚えています。開業して1年は、かなり苦労しました。知名度はないし、中国茶の店ということだけで、誰も知らなかったからです。今は順調ですが。

-何か広告活動をしましたか?

広告は一度も出していません。私たちは、広告をしない主義です。口コミで広げる方法を利用しています。口コミはとてもフランス的で、効果があります。

-パリには何軒か中国茶の店がありますね。

お茶専門店は多いのですが、中国茶の店は、私の知っている限りで3~4軒です。中国茶の経営者同士はお互い顔見知りです。知り合いでいるほうがメリットはありますね。競争し合い、相乗効果が期待できるからです。

-この場所を選んだのにはわけがあるのですか?

第一に、ここに不動産を見つけたというのが理由なのですが、お茶の店にはうってつけでした。というのは、中国茶の店を営業するなら、たくさんの人が行きかう賑やかな場所より、少し静かなところのほうが向いているからです。繁華街である必要はありません。ここにやって来たお客さんには、招待客のように安らかな幸せを感じてもらいたいのです。

-寂しすぎず、賑やかすぎない、といったエリアですよね。

このあたりにはいくつか洒落たショップがあります。特に、絵画やキッチン用品など、家に関するショップが並んでいます。まさにお茶の店にはふさわしい通りです。

-すっきりした内装ですね。

中国の雰囲気を残しつつ、モダンな感じに仕上げています。あまりにも典型的な中国風デコレーションにはしていません。ここはパリですから。

-たくさんの種類の中国茶があるようですが。

中国茶は千種類を超えるといわれていますが、ここにはつねに100種類以上のお茶を用意しています。
代表的な中国茶は、発酵の弱い順に、緑茶、白茶、黄茶、烏龍茶(青茶)、紅茶、黒茶の6種類。そして、ジャスミン茶や桂花烏龍(けいかうーろん)などの花茶です。さらに、ブレンドしたフレーバーティーもあります。これらは100グラムから量り売りしています。

-それ以外の商品は?

ティーバッグなど、すでに箱詰めしたお茶もそろっています。箱入りのお茶は、台湾製とパリで詰めているものがあります。さらに、お茶のキャンディーやジャムなのです。

-雲さんがお茶を選んでいるのですか?

中国茶鑑定士を含め、スタッフは40人ほどいます。商品の60%は、彼らと一緒に選んでいます。台湾にある会社からパリに輸入しているのです。

-中国茶の入れ方はエレガントですね。

工夫茶器を使う、もっとも丁寧な方法は、烏龍茶を入れるのに適しています。茶壺(チャフー、急須)を使い、まず茶海(チャカイ)と呼ばれる大き目の器に移してから、茶杯(茶碗)に注ぎます。その際、聞香杯(もんこうはい)という茶杯で香りを楽しみます。中国茶は、清香(チンシャン)が特徴なのです。

-どんなお茶がありますか?

緑茶では、龍井(ロンジン)がよく飲まれています。西湖龍井(せいこロンジン)が上質で、深いコクがあります。
碧螺春(ぴーるーちゅん)は巻貝のように縮れた茶葉で、緑茶の中でもっともすがすがしい香りといわれています。
また、気品のある甘みが定評の黄山毛峰や、薬草のような風味の南京雨花茶(なんきんうかちゃ)、六安瓜片もあります。

-烏龍茶はどうですか?

蘭や金木犀の花のような芳醇な香りで知られる安渓鉄観音(あんけいてっかんのん)。鳳凰単そう(ほうおうたんそう)は、鳳凰山の一株の茶樹だけ(単そう)から採ったお茶で、マスカットなど果物のようなさわやかな逸品です。大紅ほう(だいこうほう)は、樹齢300年以上の老樹から少量採れる高級茶です。白茶は、白毫銀針や白牡丹ですね。

-フランス人が好きなお茶はどれですか?

そう聞かれると答えが難しいですね。人それぞれ好みが違いますから。フランス人もあらゆるお茶を楽しいんでいますよ。この店がオープンしたころは、まだ中国茶をよく知らなかったからか、プーアール茶(黒茶)やフレーバーティーがよく売れましたが、最近ではいろいろなお茶を求めるようになりました。

-フランス人は砂糖を入れてお茶を飲むのでしょうか?

緑茶、白茶、黄茶、烏龍茶、黒茶は、砂糖を入れずに飲むようアドバイスしています。紅茶は砂糖を入れることに反対しません。

-高価なお茶もありますね。

もっとも高価なお茶は、100グラム75ユーロの緑茶で、獅峰龍井と安吉白茶です。いずれも量数限定商品です。
黄茶では、生産量が少なく、入手しにくい君山銀針が100グラム68.50ユーロです。湖南省の洞庭湖の島・君山で栽培されている銘茶で、甘さをともなう芳醇な香りとさわやかな喉ごしが特徴です。

-同じ銘柄でも価格に差がありますね。

烏龍茶などは、同じ種類でも、梅、松、茶王の順に値段が上がります。文山包種(ぶんざんほうしゅ)、凍頂烏龍(とうちょうウーロン)、白毫烏龍(白い産毛のある東方美人)の茶王は、100グラム61ユーロです。

-高いほうがおいしいですか?

値段が高いからといって、高品質とは限りません。名前がよく知られていたり、流行のお茶が値上がりする場合があるからです。有名なお茶が高めになっています。

-フランス人が求めやすい値段というのはあるのでしょうか?

フランス人は価格に関係なくお茶を買っていきます。

-お客さんはどのような人が多いですか?

俳優やアーティストなども店に来ます。特に、フランスの女優や女性歌手がよく買いに来ます。私はあまりテレビや映画を観ないので、有名人が来ても名前がわからないのですが(笑い)。数か月前、アラン・ドロンの息子が来ましたよ。でも、人にいわれるまで気づかず、帰ってからわかりました。

-それは残念ですね。サインをもらえたかもしれないのに(笑い)。

そうですね(笑い)。でも、有名人がきても、なるべく静かにしておいてあげたいのです。私自身、店で商品を選ぶのを邪魔されたくないので、そっとしておくのが礼儀だと思っています。

正午にレストランの営業が始まると、みるみるうちにテーブルがいっぱいになった。ほとんどがフランス人女性のグループだ。断然人気は、お茶付で10ユーロの飲茶セット。フランス人が選ぶお茶は、ノート・ブルーというバニラ風味のフレーバーティーが多い。
取材中に、朝食用のお茶を買いにきたフランス人は、「香りがよく、あまりフルーティーではないお茶がほしい」と言い。一生懸命香りを試して、お茶を決めていた。
雲さんによると、中国人や台湾人は、フレーバーティーをほとんど飲まないとのこと。紅茶や緑茶にフルーツやスパイスを混ぜたフレーバーティーは、フランス人のために作っているそうだ。

Thés de Chine : 20 boulevard St Germain 75005

 

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