『専門店』「世界の専門店拝見 こんな店・あんな店」2000年3月号に掲載された記事です。
世界に誇る美食の王国フランスは、各地方がそれぞれ自慢の味を持ち、その種類はバラエティに富んでいる。パリにある、各地の名産の味を楽しめるショップのひとつが、「ラ・フェルム・デゥ・アモー」だ。ハム、ソーセージなど豚肉加工品とチーズを中心に、あらゆる食品がそろっている。
今回は、この道40年の経験を持つジャン・ブティエ氏にお話をうかがった。
-いつごろこのお店をオープンしたのですか?
1972年にこの店をはじめましたので、今年で28年になります。14歳のころからこの仕事をはじめ、今54歳ですので、40年のキャリアです。妻も39年間、この分野で働いています。
-どのように仕事を始めたのですか?
まずはシャルキュトリエ(豚肉加工業者)として働き始めました。20歳の時にフロマジェ(チーズ業者)としての資格を取得し、ハム・ソーセージ類とチーズの両方を扱うことができるようになりました。若いときは、地方の製品の知識を得るために、フランス各地で修業したのです。山地のチーズ製造業者やワインの製造業者のところでも見習いをしました。
-それにしても、ものすごい数の食品ですね。
チーズは100種類ほどあります。フランスで製造されるチーズがほとんどそろっています。シャルキュトリーは60種類ぐらいありますね。リヨン、ストラスブール、ノルマンデーなどフランス各地の豚肉加工商から仕入れています。
-ハム・ソーセージ類、チーズ以外の食品もありますね。
食前酒からデザートまで、朝食から夕食まで、すべての食生活をまかなえる食品をそろえてあります。ランド地方のフォアグラ、カスレ、コンフィ・ド・カナール、アルプス山脈サヴォワのフランボワーズジャム、二オンスのオリーブオイル、ヴォージュ山脈のヒイラギの蜂蜜、各地のワイン…。
-ここで製造しているものもあるのですか?
地方の業者が製造しているもので、ここで作っているわけではありません。あらゆる食品が毎日、フランス中のいたるところから届きます。ですから、いつも新鮮なのです。
-もちろん厳選された食品ばかり…。
すべてECで認可された加工品です。最高品とし栄誉を与えられた高級品もいくつかあります。地方の高級品店ととても親密な関係にあり、そこから直接仕入れています。
-長年のキャリアから選ばれた味、ということですね。
ここにあるすべての食品を試飲、試食しています。味、品質をしっかり証明できるものばかりを販売しているのですから、原料は何か、製造過程はどうなっているのか、すべて把握しています。
私も妻も、作り手、製造方法について、いつでもお客さんにちゃんと説明できますよ。
-パリにいながら、フランス各地の味が楽しめるのですね。
フランス人はフランスの食品が好きですね。高品質のもの、本物を求めます。私の選ぶものは、地方の名産品であるのと同時に、本物の味なのです。本物であることが、とてもとても重要です。
-季節によって商品を変えるのですか?
夏と冬で変えています。この冬は、昨年製造されたボーフォールチーズとコンテチーズがおいしいですね。冬の味覚として、アルザス地方の名物料理シュークルートも人気があります。
-よく売れているものというのはありますか?
爆発的な売れ筋商品はありませんが、あらゆるものがよく売れます。秋は、狩猟の季節ですので、ジビエ(野獣)のテリーヌがよくでます。クリスマスの時期は、フォアグラ、コンフィ、白ブーダン、トリュフが定番ですね。
-どのような人がここを訪れますか?
この店にやって来る人は、特に食にうるさい人ですね。私のように、おいしいものが好きな人。ほら、私のお腹を見てください、食べることが大好きだって、わかるでしょう?
プロの人が来ることはありませんが、レストランにおいしいものを食べに行くように、グルメがこの店で買っていきます。
-特にこのお店のおすすめというのはあるのでしょうか?
私はカマンベールで有名なフランス北部のノルマンデー、妻は白ワインで知られるサンセール出身です。私と妻の出身地のものがスペシャル商品といえますね。私の両親は農場を持っており、カマンベールを製造するためのミルクを提供してくれます。カマンベールはおすすめです。
-店のつくりも田舎風でかわいらしいですね。
店のデコレーションは、ノルマンデーの典型的な茅葺屋根の家のスタイルを再現しています。ノルマンデーの家は、屋根が茅葺で、木組みの間に漆喰をつめた壁コロンバージが特徴です。ここも、表のウインドーの横をコロンバージ風にしてあります。
-シンボルマークは何を意味しているのですか?
店のシンボルマークは、私と妻の出身地を表しています。牛乳のブリキ缶とチーズ用のナイフは、チーズに対する情熱を表しています。カマンベールとじゃがいもは、私の出身地であるノルマンデーを、ぶどうとワインを試飲するカップは、妻の出身地であるサンセールをそれぞれ説明しているのです。
-ノルマンデー名産はどのようなものがありますか?
ソーセージ類では、ブーダン、テリーヌ・ド・フォア・ド・ヴォライユ(家禽レバーのテリーヌ)、パテ・ラパン(うさぎのパテ)、アンドゥーユ・ド・カンパーニュ(豚の内臓の腸詰)など。チーズはカマンベール、ボン・レヴェック、ルヴァロ。牛乳もあります。また、パンに塗るコンフィチュール・ド・レ(ミルククリーム)もノルマンデーの特産です。
-すぐにでもいただきたいものばかりですね。
本物のシャルキュトリーは、他の料理に加えたりせず、それだけで食べるべきものです。調理された料理と比較することはできません。私はひとつひとつの味をとても大切にしているので、ミックスして食べたりしません。おいしいアンドゥイユをひとつ、テリーヌ・ド・フォアをひとつ、パテ・ド・カンパーニュをひとつ、というように、これだけで楽しむものであって、料理と一緒に食べるべきではないのです。チーズも同様です。本物だからこそ、他と混ぜる必要もないのです。
店に置いてある食品の説明をお願いすると、ノルマンデー、リヨン、アルザス、ブルターニュ、コルシカなど、フランス各地の名産を次から次へと紹介し始め、メモをとるのが不可能なほど。この勢いは、ブティエさんの仕事に対する情熱を証明しているかのようだ。夫が紹介し忘れたら、ブティエ夫人がつけ加え、二人三脚が成功の秘訣であるに違いない。
この店はブティエ夫妻が一代目だが、後継ぎのことは考えていないとか。ときどき店を手伝ってくれる息子さんは飛行機のスチュワード。「息子の仕事を尊重しているし、将来のことは気にしていません」 ブティエ氏がおおらかなのは、おいしいものをたくさん食べているからだろうか。
*2005年に若い男性にバトンタッチし、現在も店はつづいている
La Ferme du Hameau:223 Rue de la Croix Nivert, 75015 Paris

パリの食べ物屋(28のレストランやカフェを紹介)