『専門店』「世界の専門店拝見 こんな店・あんな店」1999年7月
パリの歴史はカフェ文化と密接な関係があるといわれている。暖かい季節になると、カフェのテラスはいつも満席。本を読む人、友人と話をする人。いっぱいのコーヒーとともに、彼らはカフェでのひとときを楽しむ。
コーヒーはフランス人に欠かせない飲み物のひとつ。今回はコーヒー焙煎販売店、ブリュルリー・デ・ゴブランのジャン=ポール・ロジェローさんにお話をうかがった。
店に入るとまず、コーヒー豆焙煎機(ブリュルリー)の大きな音に驚く。巨大な機械が店の半分ほどを占領している。店内のあちこちに無造作に置いてある布袋に入った緑色のコーヒー豆が、ここで焙煎される。上部の釜の温度は200度以上。ロジェローさんはたえずロースト具合をチェックしている。長年の勘で、上質のコーヒー豆が出来上がるのである。
-この機械は一日中動いているのですか?
いつも午前中だけです。朝8時過ぎから11時頃までの2~3時間ですね。でも、よく売れる日は、6時間ほど動きっぱなしということもあります。
-かなり歴史のありそうな焙煎機ですが。
50年前からある焙煎機です。毎日焙煎するので、うちのコーヒーはとても新鮮です。香りもすばらしいでしょう? 48時間以上たったコーヒーは絶対売らないことにしているのです。焙煎したコーヒー豆は、冷めてから大きなブリキの缶に入れ、涼しいところで保存します。こうしておけば、香りが逃げません。
-コーヒー豆はどのような経路でこの店に到着するのですか?
1か月に1回ほど、ル・アーブルにコーヒー豆を買いに行きます。ル・アーブルはフランスの大きな港町で、中央アメリカ、アフリカから輸入されたコーヒー豆が届きます。そこで輸入業者と会い、味を確かめ、豆を選び、購入します。コーヒー豆がまだ緑色の状態で、この店にやって来ます。
-エキゾチックなこれらの袋は、産地直輸入の緑のコーヒー豆…。
そうです。見てください。コーヒーは種類によってこんなに大きさが違うんですよ。もちろん、味も香りもそれぞれ。これらを客の好みに合わせてブレンドしていきます。
-コーヒーマンでの産地は具体的にどこですか?
うちは特に中央アメリカのコーヒーを多く仕入れています。コスタリカ、ニカラグア、メキシコ、グアテマラ、コロンビアなどです。エチオピアからのコーヒーもあります。また、ハイチ、キューバ、西インド諸島産もいいコーヒーです。一番遠い産地は、ニュージーランドのパプアニューギニアですね。
-これらがブレンドされて?
もちろん、純粋な味を楽しんでもらうために、ブレンドしていないコーヒーもあります。10種類ぐらいでしょうか。ブレンドコーヒーは5種類ほどです。
-人気のコーヒーは?
やはりブレンドが売れますね。最近、フランス人はイタリア風の濃いコーヒーを好む傾向にあります。ベニス、シエンヌといったイタリア風コーヒーが売れています。また、ブレンドの5番も人気があります。まるでシャネルの香水のようですが、決してまねをしたわけではありません。このコーヒーはとても香りがいいんですよ。
-珍しいコーヒーというのは?
ブルーマウンテンはとても高価で、しかも少量しか手に入りません。これだけは注文販売にしています。メキシコの有機栽培コーヒーは、ここで売っている珍しいコーヒーのひとつです。
-コーヒーについてどのように勉強されたのですか?
祖父も父もコーヒーの仕事をしていました。パリで名の知れた会社を経営していたのです。私はまず、ル・アーブルで2年ほど輸入業者からコーヒー豆について学びました。毎日味見をして、違いを覚えていったのです。その後、スイスのジュネーブにある、今は存在しないのですが、とてもすばらしいコーヒー会社で1年半修業を積みました。フランスに戻ってからは、父と一緒に働き、さらに知識を深めていきました。この店は50年前に私が買い、オープンしたのです。
-コーヒーを吟味するロジェローさんはコーヒーのソムリエのようですね。
確かに、ワインのソムリエと私の仕事はかなり似たところがありますね。コーヒー豆の味は、産地の日照時間、雨量、土の性質、標高などに関係してきますから。
-最近、コーヒー愛飲家が減少しているといううわさもありますが…。
そんなことはないと思います。コーヒーの消費量は上昇こそしていませんが、安定しています。うちの店では、少しではありますが、定期的に売り上げは上昇しています。残念ながら、おいしいコーヒーを飲む喜びを知らない人が増えているのは確かです。問題は、品質にあるのではないでしょうか。
-おいしいコーヒーを知れば、みんなそれを飲み続けるのですね。
ええ、ここにやって来る人は、長年この店を知っている近所の住民が多いのですが、香りにつられて店に入って来る新しいお客さんも毎日絶えません。常連客は15日おきにコーヒーを買いに来ますね。おいしいコーヒーだけを飲みたい人はたくさんいるのです。
-こちらには紅茶もおいてありますが、フランスで紅茶の人気はどうですか?
紅茶の消費は増えています。紅茶もここでブレンドしているんです。
-それでは、紅茶についても勉強されたのですか?
紅茶に関しては、イギリスのリバプールにある有名な紅茶会社で研修しました。半年ほどの間、毎日毎日紅茶を飲み、葉を覚え、香りをかいで…。
-コーヒーのお仕事をされていますが、毎日何杯飲みますか?
午前中に3~4杯ぐらいですね。一回の量はとても少量です。コーヒーはエスプレッソのように密閉した状態でいれると、コーヒーにしみこむ時間が短いため、カフェインが少なくなります。
-コーヒーをおいしくいれるのは難しいですね。
もっとも大切なのは準備です。コーヒーの量はそれぞれの器具によって変わってきます。エスプレッソマシーンは圧力が強くかかるので、5グラムぐらいのコーヒーでいいのですが、ペーパーフィルターを使う場合はその倍の12グラムぐらい必要です。ピストン式のポットも同様に10~12グラム、イタリア式のポットは8グラムぐらい。コーヒーの分量に気を配ることが、おいしいコーヒーをいれるコツです。もちろん、水の量はカップに合わせて用意しなければなりません。
2 Avenue des Gobelins 75005 Paris
パリの食べ物屋(28のレストランやカフェを紹介)