中絶よりシングルマザー イギリスの事情

シングルマザーに関する12年前の黄ばんだ新聞記事を捨てられないのは、ある思い出があるからです。

ロンドンの語学学校の授業で、「もし16歳の娘が妊娠したら、あなたはどうするか?」と聞かれ、「まだ若いから中絶するよう説得する」と答えたら、大ひんしゅくを買ってしまったのです。

当時、シングルマザーの状況は厳しかったにもかかわらず、多くのイギリス女性がシングルマザーに肯定的でした。私の意見はそれに反していたのです。

不況の真っ只中だったイギリスは、シングルマザーへの生活保護の負担にあえぎ、保守党のメジャー首相は、「伝統的な家族の価値を見直そう」キャンペーンを打ち出したりしました。

その後、景気の回復とともに、「伝統的な家族への回帰運動」はいつのまにか消滅し、現代の家族のあり方を受け入れざるをえなくなったようです。

現在のイギリスは、ティーンエイジャーの出産が問題になっており、10代で妊娠する女の子の数はヨーロッパで一番多いとのことです。

以下、英国のシングルマザーに関する1993年7月11日のテレグラフ紙日曜版の記事の抄訳です。


イギリスでは130万人がシングルペアレント(片親)で、その数は20年前の2倍に上る。そのうち、90%が女性で、イギリス人の母親の1/5がシングルマザー。しかも、若い女性が多い。

シングルマザーの70%が生活保護を受けており、40%が生活保護のみの収入。

政府は社会保障予算の負担増加を懸念している。シングルペアレントに対する国民年金給付は、ここ10年で30億ポンド以上増加した。

問題は、シングルマザーの貧困にある。

オックスフォード大学のある教授は、「両親のそろった子供に比べ、シングルペアレントの子供は病弱で、学校の成績が悪く、失業しやすい傾向にある。犯罪や非行に走りやすく、親と同様の不安定な生活を繰り返す。寿命も短い」と語る。

政府は、暴力が蔓延する荒廃の文化が広まるのを恐れている。

One plus One(結婚&恋愛リサーチ団体)の調査によると、「シングルペアレントの子供は健康状態が十分ではなく、胃潰瘍や大腸炎になりやすい。心の病をわずらう人も多い。また、成績もよくなく、学校でおちこぼれる。男子の失業率は、両親を持つ人の3倍」とのことだ。

シングルペアレントの増加は、結婚生活の崩壊と深い関係がある。

家族で暮らす場合、結婚しているケースが一番多いのは20年前と同じだが、1961年の392,000組以来、結婚する人の数は徐々に減っている。

最近著しいのは、再婚、再々婚の増加で、1961年は5,000組だったのが、1989年には50,000組に達した。

この傾向は、離婚の増加とも関係があり、1961年の離婚は27000組だったが、1989年には164,000組となり、結婚したカップルの1/3が離婚し、この数はヨーロッパ平均の2倍である。

一方、事実婚は、1961年には5%以下だったが、1988年には約50%を占めるようになった。

離婚はまた、財政を圧迫している。離婚にかかる負担は、年間13億ポンド。8.5億ポンドは生活手当、3.2億ポンドは住宅手当、7,300万ポンドが法律上の費用、2,700万ポンドが養育費に使われる。

最も頭を悩ませるのが、養育費である。というのも、シングルペアレントのほとんどは、再婚するか事実婚をするのだが、再び別れるケースが多いのだ。事実婚が増加していても、事実婚の崩壊は結婚の3倍で、結局、子供だけが増えていくことになる。

現在のイギリスでは、出生の30%が婚外子で、16歳以下で親の離婚や別離を経験している子どもが1/5におよぶ。

イギリスも北欧型になりつつある。北欧では、事実婚が多く、結婚したカップルの半分が離婚、出生の50%が婚外子である。

One plus Oneの調査によると、「離婚した男性が心臓病を患う確率は、既婚者の2倍。離婚者が心の病にかかる率は4~6倍。自殺を図るケースは、男女とも離婚者が4倍になっている。さらに、循環器と呼吸器の病気、もしくは事故で若くして命を落とす傾向にある。また、別れた相手の死が、ストレスの原因にもなる」とのこと。

British Medical Journalは、「シングルペアレントの子供は、他の貧困家庭の子供に比べても、最も死亡率が高い」と発表した。

再婚してもうまくいかない場合が多く、離婚率は高い。シングルペアレントの再婚により、子供は傷つくことが少なくない。

離婚が簡単にできるようになり、出生率が減少し、離婚や事実婚に対する偏見がなくなり、働く女性が増加した。このような社会で、伝統的な家族の価値へ立ち返るのは容易なことではない。

住宅および家族ローンなど、シングルマザーに不利なシステムを改善するのは可能だろう。

また、逃げる父親を追跡するサポートシステムを強化することもできるかもしれない。

もしくは、税金や他の年金システム(結婚手当てなど)で結婚したほうが有利にするか。

(2005年4月6日)

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