放射能と離婚ー福島原発事故から

福島原発事故の放射能が引き金になり、離婚を決意した女性たちに取材した。
離婚など珍しくないご時世だが、彼女たちの話を聞くのは、とても胸が痛かった。
“放射能”の心配がなければ、離婚の危機などなく、夫婦生活をつづけていたであろう。
私が話を聞いたのは、子どもをつれて避難し、夫との二重生活を経験した後、離婚協議に入った女性たちだ。
避難していない女性の多くは、放射能について夫に相談もできずにいるという。

仮にお金で補償されたとしても(取材した女性たちは自主避難なので、補償の対象ではない)、壊れた夫婦関係は修復できない。
人間関係は、お金で解決する問題ではない。

放射能と夫婦関係の取材ではつねに、「子どもを守るために避難したい母親」と「家族を養うために留まって働くことを優先する父親」が話に出てきた。
家族における男女の役割は、“最先端の原発技術”を誇る日本で、何十年も変わっていない。
原発事故と男女の役割を一緒くたにするな、と言われるかもしれないが(この問題はどんな場合でも議論にならず、後回しにされる)、この取材をしている間つねに、やるせない気持ちになった。
伝統的な家族の役割分担が、“放射能”という生命にかかわる一大事を乗り越えるものどころか、夫婦関係に重くのしかかっているからだ。
「子どもを守るために避難したい母親」も、「家族を養うために留まって働くことを優先する父親」も、“放射能”に加えて、慣習だとか常識だとかに縛られ、がんじがらめになって苦しんでいる。

こうした状況が、日本特有のものなのか知りたく、何人かに質問してみた。
日本在住のイギリス男性「妻と夫の立場やそれぞれの意見は、人間の正直な言い分として理解できる。その上であえて言うとしたら、母親が幼い我が子の健康を心配するのは至極当然で、それを優先すべきなのももっともなこと。夫は、幼子の命を思い、仕事や居住地を変える選択をしてもいいのではないか? その決断ができないのは、自分に自信がないからか。会社の辞めて新天地で就職することに臆病になっているのではないか。日本男性は変化を好まないからかもしれない」
イタリア在住の日本女性「夫婦で話し合わないのでしょうか? イタリアでは政治的意見が正反対の夫婦が珍しくないのですが、こういうときには、とことん議論すると思います」
フランス在住のフランス女性「フランス人にとって仕事は二の次。男性も家族を優先し、仕事を辞めて避難するはず」
イギリス在住の日本女性「日本では今でも、『夫が家族を養う』という考えが残っているのですか?」

ヨーロッパの家族のあり方が正しい、と言っているわけではない。
日本の伝統的な家族で、女性も男性も幸せであるのなら、何も問題はない。
が、本当に、これで幸せといえるのだろうか…。

震災後、“絆”という言葉が、美化されて用いられている。
私個人の意見としては、“絆”は、危機が起きたときに急遽見直されるべきものでもないと思っている。
そして、“絆”を結ぶには、激しいぶつかりあいも必要だと思っている。
相手に従属するだけでなく、お互いを尊重する関係でなければ、“絆”は築けないとも思う。

取材した記事は、10月21日発売の『週刊金曜日』に掲載されています。

原発震災離婚 原発事故が引き裂いた男女の絆
福島原発事故による放射能の脅威は、夫婦の関係にも亀裂をもたらした。政府への怒り、家族の苦悩と葛藤、将来の不安。3.11から半年、福島から避難することを選んだ6人が赤裸々に語る。『週刊金曜日』2011年10月21日号に掲載された記事。

(2011.10.22 06:52)

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