フランスは10代から50代までみんな子どもの幼稚な社会

フランスの幼稚な社会について、フランスの女性誌ELLEに1990年代末に掲載された記事の抄訳です。


ストレッチのパンツ、ミニスカート、8cmのハイヒール、赤い口紅、おへその見えるTシャツ、タトゥー、アクセサリー。これが12歳の女の子の格好。
髪のバレット、おさげやシニョン、ベビーピンクのTシャツ、ナイキのシューズ、蛍光カラーのマニキュア。これが40歳の女性のファッション。

最近の若い女の子はスパイス・ガールズに似てきている一方で、母親たちは、アニメのヒロインのようなルックスを真似ている。同様の現象が男の子にも見られる。

父親が最新の電車に乗って楽しんでいる一方で、子供がコンピュータに夢中になっている。
15歳以下の子供はインターネットに熱中し、30歳以上の大人はキャンディー(飴)をむさぼるようになめている(キャンディーの消費量は10%増加)。

子供たちはCD-Romにあこがれ、大人たちは、けばけばしい色の自動車を乗り回している。
子供は早熟で、大人は若返る。65歳以上のシニア以外は、98年版フランス人はすべて同じ年齢といった現象が起きている。

みな若者なのだ。

この現象は、現代社会の危機と関係があるのか? 消費社会の結果か? 根の深い傾向か、一時的な流行か?

過去においては、うまくやっていけないのが若者といわれていた。アンドレ・マルローは、「若さとは、改宗することでつねに終わりを迎えなければならない宗教である」と言っている。

しかし、若さが時代を象徴する文化になった。何も信じられない現代社会において、若さだけが唯一確実な価値となったのだ。「ヤング・イズ・ビューティフル」は世紀末のスローガンであり、青少年が絶対的な参考モデルなのである。

しかも、8~12歳の子供たちが早熟化している。
「これは目新しい現象だ」とある社会学者は語る。「思春期に入る年齢は、どんどん早くなっている。10~12歳だったのが、来年には、8~10歳になるだろう。数年前は14~15歳の行動が、10~12歳の子供に見られる」

子供たちは、周りの“青少年マニア”に影響されているのだろうか?

心理学者や精神科系の専門家によると、メディアやイメージ、情報に早い時期からひたっていることが原因だと言う。さらに、子供たちの育ち方にも関係があると見ている。子供たちの親の世代は、68年に思春期だった人たちで、子供たちの話を理解しようとし、家族とのコミュニケーションも良好なのだ。

大人っぽい12歳の女の子が、18歳の娘と同じように成熟しているのだろうか? 自分の人生を引き受けることができるほど成熟しているだろうか?

「外見にまどわされてはいけない」と、ある精神科医は警告する。
「青少年を真似る大人と同じように、子供たちは、若者であること想像して真似ているだけ。これは偽りの成熟であり、実際には子供のままなのだ。精神は、身体と同じ年齢でしかない」

たとえば、性について、子供は、映画やテレビ、雑誌などから、かなり早い時期に情報を手に入れている。30年前の同じ世代の子供は知らなかったことまで、今の子供は知っている。
「子供たちは、とてもあからさまな言葉で、性について話す。みな映画で見ているからだ。でも、初体験の年齢は17歳と、ここ数年変わっていない。昔と同じように、子供たちはつねに不安を抱いている」とある精神科医は言う。

10歳の子供が10歳年上の人を真似ると、ますます競争にかかりあうことになる。親たち自身は、ベビーブーマーの消費者で、勝ち誇った様子の50代であり、ジーンズを身につけ、ナイキを履き、ヘルメットをかぶっている。

「68年の5月革命の当事者という口実で、私のママは、自分が若さを独り占めしていると考えている」と、15歳のマリーヌはののしる。

「ドラッグ、ロックンロール、ヒッピー・ファッション、反抗、そしてセックス。すべてを所有している」
これが、たぶん、このトレンドを説明といえるだろう。

ベビーブーマーたちは、永遠の青少年にとどまっているのだ。
「この世代は、永遠の若者という神話をあきらめるのを拒否している」とある専門家は説明する。

ベビーブーマーたちは、年齢不詳の若さを価値とみなし、社会の指向、生活に求められる状態としている。そして、次の世代にゆずろうなどとは考えていない。「成長し、構築するためには、青少年は確固とした目標が必要だ。大人との区別をつけることができなければ、青少年は成長できない」と精神科の専門家は言う。

このような現象は、幼稚な社会を作り出す危険性を含んでいる。
「すでにそうなっている」とある哲学者は嘆く。大人の気まぐれな態度は、「まるで子供のようで、感情にまかせて行動している」

「幼稚というのは、すべてをすぐに欲しがること。自己中心的で、感謝されることばかりに貪欲で、自分の行動がどのような結果になるか予測できない。人々の行動はますます似てきているのではないか?」

「大人は、危機や物質的な偶発性から逃れたがっている」とある専門家は分析する。
「面白いもののなかで暮らし、衰退の雰囲気を遠ざけようとしている。はけ口となっているのだ。あらゆることが悪化しているとき、人々は子供に戻ろうとする」

ある精神分析医は、親子関係の角度から、この現象を分析する。
「親はどんどん自分の役割を見失い、立場の逆転が見られる。子供たちは、実際の親の親のような存在になっているのだ」

どうしてか? 離婚した親に育てられた子供の増加からも、説明できる。
「普通のカップルでは、子供は寝室に追いやられる。そして、自分が子供であることを自覚する。子供はそれに不満を感じ、成長しようとする。離婚した家族や片親の場合、子供は役者になり、カップルにおいて中心人物になる。モデルが自分自身なのだ」

思春期前の子供たちは青少年になりたがり、大人は青少年のままでとどまりたいと願っている。結局、青少年自身しか存在しない。青少年があこがれているのは、身分を変えることだけ。青少年たちは、大人の社会での身の置き場を求めている。しかし、世間は、青少年を未成熟な状態により長くとどめようとしている。表面的には、大人の社会は若者への並々ならぬ好感を寄せているようであっても、現実には、大人は、若者が求めている場所を拒否しているのだ。

青少年マニアは、“世代のユニフォーム化”という結果を生んだ。

同じ洋服、同じ遊び、同じ文化。98年のフランスは、10歳から50歳までみな青少年で、ある年齢層だけに集中しているような状況だ。

この青少年マニアを最初に理解し利用したのは、マーケティングや広告の専門家である。若者層による総売り上げは4000億フランほどで、家計費の43%を占めているといわれている。

その事実を知っても驚きはしない。フランスでは、消費の半分が、15歳以下の子供から影響を受けているという。

“若さ”はなによりも価値があり、“若者”をアピールする広告は、全ての人を喜ばせることになる。
「モノは何であっても、ターゲットとなる年齢層はますます絞られる傾向にある」とパリの広告マンは言う。「若者をキーワードに、より幅の広い人々にアピールするのである」

あらゆる年齢層をターゲットにした若者ブランドが話題になっている。

ギャップは、“世代を越えた”ブランドの一例だ。青少年、親、それどころか祖父母まで、ギャップを着ている。H&Mと似たブランドで、洋服のイケアともいえる。クーカイ、アニエスB、ザラといったブランドのように、女の子や母親が区別なく着ている。

同様に文化においてのユニフォーム化現象が起きている。30年前なら、ロックを聴く黒い革ジャンを着た若者は、親の家を飛び出した。

90年代の子供にとっては、それは昔の話である。現在は、若者と中年が一緒になった。文化は大人よりも青少年に受けることを狙っている。
映画「タイタニック」(フランスで1500万人の入場者数) の成功やテレビシリーズ(Xファイル、ER緊急救命室、フレンズ)の視聴率の高さもそれに似ている。

アーティストのなかには、やはり、みなと同じことをしている人がいる。クエンティン・タランティーノ監督もまた、世代を越えた有名人で、「世界の若者たち全員と話すことが、活力になる」と雑誌のインタビューで答えていた。

親にアピールするのもまた、効果的な方法だ。親たちは、ずうずうしくも、若者文化を楽しもうとしている。トリップホップが生命保険の広告に流れ、ライミュージックが土曜夜のゴールデンタイムに歌われ、20時のニュースにビョークが出演する。50歳以下の家庭では、誰もがポーティスヘッドを聴き、プティ・バトーのTシャツとパーカーを着ているのだ。

この現象は、ヨーロッパ各地で起こっている。ある社会学者は、「若者たちは、ひと昔前の世代より伝統的な価値観を持っている。つまり、現在の若者は、反権威主義や反制度主義といったところが少なく、モラルに関して少し保守的なところがある。その一方、ベビーブーマーたちは、先輩たちに比べて、若さという価値を手放そうとしない」と語っている。

(2006.02.17 22:06)

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