男を買うパリの女、だけれども… エスコートのレンタル

『VoCE』1998年8月号(講談社)に掲載された記事です。

 

「パリに出張、女ひとりじゃレストランで食事するのも恰好悪い。バーで飲みたくても、物欲しそうな男性が近づいてきて、落ち着かない」「友人の結婚式。別れた男は新しいガールフレンドと出席するらしい。まだ独りだって絶対バレたくない!」

たった数時間だけでいいからパートナーがほしい。気兼ねなく、自分の思い通りになる忠実な紳士がいたら…。話は簡単、男をレンタルすればいいのだ。

紳士道を極めたプロ級のエスコートボーイを貸し出すレンタル業がロンドンで人気だと、フランスの女性誌で紹介されたのは昨年8月のこと。その3か月後、パリにも同様のビジネスが登場した。ジェントルメン・ウォーカーズを始めたのは、六本木にも滞在したことがあるという26歳のパリジェンヌ、マリリン・ヌシャさん。

「面白いコンセプトだと思ったの。社会に進出して活躍する女性が増えている、今の時代にぴったりのビジネスだから」

外出は男女同伴が一般的なカップル社会のヨーロッパ。ビジネスのパーティーやディナーなどでは、同伴者がいないことで、他の女性に嫉妬したり、男性から変な誘惑をされたりと、女性がひとりでいると居心地悪い思いをすることが多い。適当なパートナーがいないなら、借りるのが手っ取り早いということになる。

今までにない画期的な考えに、フランスでも肯定的な人が多い。

「最初は抵抗があったようですが、みんなこのアイデアを理解し、賛成してくれています」

マリリンの事業も盛況だという。利用客は25~65歳の女性で、フランスの地方や海外から出張でパリに来る30~40代のビジネスウーマンが最も多い。目的は、ディナーやパーティー、オフタイムのパリ市内観光がほとんどだが、なかには離婚した夫に抵抗するためという、芝居がかったケースもあるとか。

この手のビジネスで気になるのが、エスコート以外の要求がからんでこないかということ。

「このサービスにはセックスはまったく含まれません。また、エスコートボーイは、クライアントの電話番号、住所は聞いてはいけないことになっています」 男女平等を強く主張するアングロサクソンの国では、ビジネスと恋愛は別と割り切り、お金を払って借りた男性に、恋愛感情を抱くことは少ないといわれる。フランスでも恋愛抜きが成立するのか? 男性が女性にお金を払う場合、寝ることも含め、したいことをすべてする権利を持とうとするのが一般的ですが、女性が男性にお金を払う場合、身を守るため、また、女王のように扱ってもらうためなのです」

エスコートボーイの男性探しは簡単だったという。

「エスコートのアルバイト男性募集。35歳以上。風貌が良く、高学歴の人」の求人広告を見て、すぐにたくさんの候補者が集まった。現在、登録者の数は40人程度。年齢は30代~60歳と幅広い。フランスだけでなく、デンマーク、ベルギー、アメリカ、イギリスなど、さまざまな国籍の男性がそろい、本職は、カメラマン、役者、ソムリエとバラエティに富んでいる。

マリリン自身、人材の質の良さと、男性たちの熱意に驚かされるそうだ。登録者は、彼女が面接で決める。

「最終的には、私の主観で選びます。横柄な人、生活環境が複雑な人は除外しますね。見栄っ張り、落ち込みがちの男性はエスコート役には不向き。ユーモアがあって、軽めの男性が向いています」

コンセプトの新しさが気に入り、登録したというジャン=クリストフは、「エスコートするのは楽しい」と語る。「日常生活、特に仕事場では、女性とでも戦わなければならないときがある。まったく逆のシチュエーションでエスコート役をするのは、気分転換になるんだ。これまでエスコートした5人はすべてフランス人。難しいことはなかったよ。相手をなるべく早く笑わせること、楽しい気分にさせることが、重要なポイントだね」

フランス人2人、ノルウェー人1人をエスコートしたというノルベールは、「毎回違うタイプの女性に会えるから刺激的だね。ジェントルマンでいることは、自分を磨くことでもあると思う。有意義なひとときを過ごしたと、女性に満足感を与えるのがエスコートボーイの役目なんだ。エスコートするクライアントについては、事前に情報をもらい、予習もするよ。古い映画を見たりして、紳士としての振る舞い方を研究することもあるね」

どちらも嬉々としてエスコートボーイを演じている様子。マリリン曰く。「意外だけど、男性は従順な騎士役を演じること、女性をやさしくもてなすことを夢見ているようなの。彼らはエスコートをすることに、遊び心、冒険心、価値を見出しているみたい」 女から寵愛されるナイト。これが男たちの願望らしい。

騎士になりたがる男と、女王のように扱われたい女。女性の権力が増したことで、伝統的な騎士道が注目され、需要と供給がうまく結びついたようだ。これは、現実生活にも反映している。女に尽くす男性が、フランス社会のトレンドになりつつあるのだ。「親の世代は男尊女卑的な風潮があったけど、僕たちの世代は違うよ」とジャン=クリストフ。

経済力もあり、自由を満喫したいと願う女性たちは、自分勝手なマッチョ男に見向きもしない。だからといって、弱い男はお呼びじゃない。理想のタイプは、女性の意見を尊重し、思いやりがあり、マナーを心得た男性、現代版“従順な騎士”。男性側もその心理を察知し、しなやかな転身を心掛けているようだ。

女性たちの声

サンドリン・シェフマン(31歳、既婚、銀行員)
ジェントルメン・ウォーカーズについては、テレビで観て面白いアイデアだと思ったわ。私には必要ないけど。今の若い男性は、ロマンチックで、女性をちやほやするのが好きみたい。結婚は自分が選んだ結果だけど、女性があえて結婚を選ばない生活も理解できるわ。自分の時間という点では、独身のほうが満喫できるものね。うちは結婚していても、個人の存在を認め、お互い独立した関係だから、満足してるけど。

ベロンジェール・ガジェリー(23歳、独身、ブティック勤務)
フランス男性がみんなジェントルマンとは言えないけど、女性の自由を尊重してくれる人が多いわね。この人という男性が現れるまで、結婚する気にはならないの。独身生活は自由時間が多く、気が楽だわ。好きな時に好きな人と外出できるから、シングルでも寂しいとは思わない。ただ、パーティーは、カップルでというケースが多いの。そんな時、女性ひとりだと気まずい思いをするわ。後腐れがないから、レンタルは便利ね。

プドール・イラリ(24歳、独身、美容師)
実は私、バツイチなの。独身に戻って、今はとっても充実しているわ。何の束縛もないのは、やっぱりうれしいかな。結婚生活も悪くないけど、やりたいことができないのはストレスになってしまうのよね。いずれまた結婚するかもしれないけど、今は考えられない。独身生活で一番困るのは、男を探していると勘違いされること。ナイトライフの楽しみが半減しちゃうの。エスコートがいれば、面倒くさい問題も解消できるわ。

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