『She’s』1991年2月号(主婦と生活社)に掲載された記事です。
山崎洋子さんインタビュー
男と女が触発し合って共存するためにも、まずは相手を理解し与えることから始める
小説を書く上で登場人物の心理描写はかなり重要である。しかし、男性心理を書くのはあまり得意ではないとおっしゃる山崎さん。
オンナの時代といわれる今、世の男性たちは、本当に弱くなってしまったのだろうか?
「昔は女性が被害者という意識が強かったのですが、現在は男性がかなり追いつめられていると思います。今の女性には選択肢がたくさんありますよね。結婚して仕事を持つことも可能ですし、仕事を辞めるのもわりと簡単ですし。でも、男性は選択肢が少ない。仕事を辞めて主夫になるわけにもいかず、どんなに安月給であっても、上司が嫌いでも、家族を養っていくために働かなければならない。プレッシャーに耐えながら、ギリギリのところで体を張って仕事をしているのです。その上、家庭でも妻に理解してもらえなかったり、かわいそうなところがありますよね。そんなに人間は強いものではないですし、男は強いといわれてもね、人間だから弱いんですよ。もっと男の心理を知る必要があると思います」
常に“男らしさ”を求めてしまう女性にとって、仕事と家庭の間で悩む男性の孤独、悲哀は理解しがたいもの。精神科の医者が書いたドキュメンタリー『ビジネスマンの精神病棟』で挫折してしまった男たちの弱さを垣間見ることができる。
「仕事などで追い込まれて、自殺に走ったり、心の病気で精神科にかかったサラリーマンのドキュメントなんですけど、これを読むと、男性にもっと優しくしてあげなくては、という気持ちになりますね。優しくしてあげないから、萎縮してしまうのです。こちらが優しくして、相手の能力、長所をほめてあげると、男性も優しい気持ちになって、素直に心を開いてくれます。当然、相手にも欠点がありますよね。でも、相手を非難する前に自分がそんなに完璧かどうかを考えるべきですね。男も女も自分勝手で、自分を理解してもらおうという気持ちが先にたってしまいますが、理解してもらいたければ、相手を理解することが大切なのです」
女性が仕事、プライベートで元気に活躍する一方、男性は元気を失いかけているようにも感じる今日このごろ。もはや女性は男性から学ぶものがなくなってしまったのだろうか。
「男性はもともと女性を守ってあげたいという気持ちが強いのですが、経済力も仕事の能力もある女性が増えたことで、かばうところがなくなってしまって、男性は困っているのではないでしょうか。男性は女性に何かをしてあげられるんだ、と見せたがっているのだと思います。どんな人でも自分よりよく知っていることがあうものですから、どんどん吸収していくべきですね。ダメと頭から切り捨ててしまえば、せっかくの学ぶチャンスを自分から逃してしまうことになります。それはとても愚かなことだと思いますね」
女性が強くなり、何もかも手に入れたかのように見えるのだが、社会的立場では、女性はまだまだ自立しているとはいえない、と山崎さんは語る。
「よくいわれることですが、女性は目の前のことだけしか考えない。それにひきかえ、男性は将来的なことを考えて行動します。総合的な目を持っているというか、社会的訓練ができているのです。男性同士は仕事でもフォローし合い、対会社という意識が強いですね。いろんな角度から物事を考えるバランス感覚も男性から学びたいものですね」
男の人が社会や会社の組織の中でどんなに戦っているか、みじめな思いをしているか、野心を持っているかを理解するには、企業小説が参考になる。女性にはとっつきにくい分野かもしれないが、ぜひ読んでみてほしい。
「男性は恋愛だけで生きているわけではなく、もっと厳しいところで生きているのです。それを理解するためには社会の仕組みを知らなければいけない。小説やエッセイよりもドキュメンタリーやノンフィクションなど女性があまり読まないジャンルに挑戦するべきですね。そうして、男性と対等の立場で話ができるようになることが大切です。自分の知識でさりげなくアドバイスできる女性になれば、男性にとっても新鮮ですよね。グレードの高い男性とつき合いたければ、ジャンルにこだわらずに本を読むことですね」
与えてもらうことだけを望むのではなく、自らも勉強し実力をつける。人間としてランクアップするために、男と女が触発し合って共存していく時代がやってきたといえる。
伊佐山ひろ子さんインタビュー
自分の気持ちが相手にも反映する。だから謙虚に正直にいかないと……
「男性はミステリアスでわからないことがいっぱい。恋人、友人、仕事の同僚など、ある程度つき合っても、次から次とわからないことがたくさん出てくるし。人って100人いれば100人みんな違うでしょ。1人の男性が他人と接するとき、自分と接するときでは、また違ったりするしね」
女優として、またエッセイストとして、男と女の微妙な心理をみずみずしい感性で表現する伊佐山さん。男の心理は複雑で理解でいないからこそ、魅力を感じ、好奇心もわく。そして、わからないから自分勝手に想像し、小説のなかで遊ばせてしまうという。でも、やはり興味のある人の心の中は気になるもの。
「好きな人の心の動きはかえってわからないものですよね。面と向き合っていればいるほど。頭の中が彼のことでいっぱいになってね。相手の気持ちがわからないから、何だろう、何だろうって、いろんな本を読んだり、映画を観たり、音楽を聴いたりして理解しようとするのよね。そうやって一生懸命吸収しようとする恋愛中のパワーってすごいと思います」
男の心理を知る上で参考になるのが男の人を追究した本。男の生きざまを通して、男とは何かを感じることができる。
「とても好きな映画監督のひとりにジョン・カサヴァステがいるのだけど、彼について特集した“スウィッチ”では、さまざまな角度から彼を追究していて面白かったですね。妻であり、女優であるジーナ・ローランズとの関係もステキなの。夫婦であったり、女優と監督であったり、時には兄弟のようであったり、男性とのいい関係をつくっていくためのお手本になりますよ」
1人の全く知らない人を知ることも、男性の心理を知る上で大切。知っている人を知るだけではなく、知るよしもない人を知る好奇心も必要である。
「男性一般の気持ちがわからないから本を読みましょう、というより、一人一人違うのだから一人一人違うということを知るためにも、いろんな人のエッセイや自叙伝のようなものを読むのもいいですね。未知の人を知るのも面白いものですよね。橋本治さんの書いた『絵本徒然草』は、かの有名な日本の古典を現代訳したもの。青年から中年の男性心理を知るのと同時に、人生がどういうものかも触れてることができると思うの」
女性がたくましくなったとはいえ、社会性、責任という点では、男性に学ぶべきものがたくさんあるといえる。
「男性は社会のなかで1つの歯車として、ある程度我慢して仕事をし、その上、妻を思いやって生活していく習慣性を身につけていて、それが当たり前のようになっていますよね。女性も社会で活躍しだして、男性と同じようにできるようになったからって評価されているけど、男は昔からそうするのが当たり前だったわけ。男性の忍耐力にはかなわない気がします。女性の場合、第一線で働いている人でも、自分の生理的なことが出てきたりして、ちょっと相手に気をつかって『元気?』とか声をかけると『調子悪くて、でも忙しくて休めないの』とぐだぐだ始まっちゃう人が多いのね。プライバシーと社会を区別できないというか、遠慮がないというか。自分のことだけしか考えていないと社会的には見苦しいじゃない? 女性には客観性に欠けた人が多いと思うのよね。男性は、まず相手がどうしたいのかなって、考えることから始めますね。相手優先よね」
女性にないもの、男性の素晴らしいところを学ぶためには、一方通行の理解ではダメ。
「自分の気持ちがその相手に反映するからね、男性に対して、アッシーとかメッシーとかの気持ちでしかなければ、相手は何も返してくれないと思うの。その人のことを知りたいと思うなら、尊敬というか、謙虚に正直にいかなければね。アッシーみたいなつき合い方に慣れてしまっていたら、本当に興味ある人が現れても、女性が持っていないものを相手から学んで自分のものにしたい、と伊佐山さん。男と女、GIVE & TAKEのいい関係が成立したとき、お互いが成長できるのだ。