いまどきの結婚(2009年)

『りぷる』(札幌市男女共同参画センター)2009年7月号に掲載された記事です。

 

「結婚」への関心が薄れて久しいなか、「イマドキの結婚」の原稿を依頼され、頭を抱えた。巷では、「婚活」ブームで、若い女性の専業主婦志向が高まっているというが……。

まずは同年の女性ライター二人の意見を聞いてみた。首都圏のOLネットワークを組織する、東京在住の既婚・子どもなしのライターは、「キャリアを積みながらも、結婚して子どもを持つ女性が勝ち組ともてはやされる。“ステイタス”のひとつとして結婚を目指す人が増えた」と言う。確かに、女性社長、女性政治家、芸能人などのなかには、“妻”“子育て経験者”をアピールポイントにしているケースが少なくない。

札幌在住の既婚・子どもありのライターは、「結婚願望の強まりは、自分の母親が幸せな結婚をしているからでは?」と言う。私たち40代後半以上の女性は、家庭に縛られた母親を見て育ち、同じような生き方をしたくないとの反発があった。一方、団塊世代の娘たちは、自由気ままな母親みたいにハッピーな結婚(ときには離婚も)をしたいのではないか、と。

私たちの共通見解は、「80年代、自立した働く女性がカッコいいとされ、がんばればそれなりの評価を得ることができた。その頃、女性は結婚願望を声高に語らなかった。しかし、時代は逆行してしまった。不景気のこの世の中、努力しても報われない。バリバリ働く女性は敬遠され、専業主婦を志向したがる」。女性の社会進出のために奮闘したつもりはないが、正直なところ、女性の意識が逆戻りしてしまったのは少々残念だ。

私個人は、「結婚」の意味合いはここ数十年さほど変わっていない、と感じている。「寿退社」「オールドミス」といった言葉が死語になり、育児制度の充実など環境は整備されてはきた。しかし、「結婚」には、いまでも一種の“強迫観念”が潜んでいるように思えるのだ。

25歳クリスマスが、三十路に移行し、今はアラフォー、と年齢は上昇しても、つねに適齢期がつきまとう。生活費を稼ぎ、草食系が好みとはいっても、自分より高収入で頼りになる男性が理想の夫だ。妻子を養うのは男性、との役割分担に変化はほとんどない。

さらに、日本社会では「結婚しているか、していないか」の二極で区別されることが多い。年金算定のモデルとなる「平均的家族」の妻は、いつまでたっても専業主婦のままだ。都市部を中心に、事実婚や非婚などカップルの形が多様化しているにもかかわらず。

そして、マスコミによる「結婚」賛美。ドメスティックバイオレンス、デートDV、親子・夫婦の愛憎殺害、児童虐待といった、「結婚」と密接にむすびつく暗いニュースを日々報道しながらも、それとは全く無縁かのように「結婚」を美化して取り上げる。

私たちの世代が「働いてこそ自立した女性」に煽られてしまったように、現在の女性たちは、「婚活」ブームに踊らされ、キラキラ輝く表層的な「結婚」にあこがれるよう仕向けられている。いずれにしても、そこには、“主体性”がないのである。悲しいことに。そしてこれが、日本女性(男性も)の実像といえるのではないか。昔も今も。

西欧諸国との比較しかできず、それが適切かどうかはわからないが、21世紀の現在、日本の「結婚」はかなり異質で、他の先進国と大きな差がある。

たとえば、フランスでは、「結婚」の伝統的意味はほとんど失われ、その魅力が薄れている。現代の「結婚」は、体面や経済的保障ではなく、自律した二人の意志で選択した関係とみなされる。もちろん、親が口出しするなど言語道断。また、「結婚」をしなくても、二人が一緒に住み、出産して子育てするのも珍しくない。法的に認められている事実婚(パクス、同性カップルにも適応)や、単なる同居(ユニオン・リーブルやコンキュビナージ)を選ぶカップルは年々増加している。ちなみに、フランスで家父長制が崩壊したのは戦後、女性が権利を手にしたのは60年代後半であり、女性解放のスタート時期は日本とさほど違わない。

伝統的な結婚制度の衰退は、他の豊かな国にもみられる傾向だが、経済大国・日本の女性はなぜか昔ながらの「結婚」に固執している。この不思議な現象は、ジェンダー・エンパワーメント指数で説明できるのかもしれない。日本は、93か国中54位(人間開発報告書2007/2008)。極めて低い社会進出度が古風な「結婚」と関連しているのではないか。

「結婚」願望が強まるなか、最近よく耳にする表現に、「お金がないから結婚できない」がある。女性は生活レベルを落としたくないから、男性は家族を養う収入がないから、結婚できないらしい。こうした考え方は、日本独特のように思う。というのも、フランスはここ20年ほど失業率10%前後を推移しているが、「金銭的理由で結婚できない」との話は聞いたことがない。住宅手当や家族手当が手厚く、教育費もほぼ無料といった社会保障のおかげか。

セーフティネットの脆さは、「結婚」にも影響を及ぼす。生存権が脅かされ、将来に不安を抱えたままでは、男女問わず、「新しい結婚とは何か?」など追及する余裕がないのである。「結婚」を掘り下げていくと、実はさまざまな問題が浮き彫りになってくる。「結婚」と真剣に向き合う社会になれば、日々起こる痛ましい事件も少しは減るのではないかとさえ思う。

30~40代の子を持つ親による婚活ビジネスが盛況だという。全国に先駆けて札幌ではじまったと聞き、恥ずかしいやら嘆かわしいやら。社会が変容しているなかで、「結婚」は古い価値観のまま置き去りになっている。こうした状況で誕生した夫婦、その子どもたちに、札幌・北海道、そして日本の未来を託していいものか。大いに疑問が残る。

誰のための何のための結婚か? まずそこから問い直してみる必要がありそうだ。

ここまで悲観的に書いてきたが、カップルの暮らしを完全否定しているわけではないことを、最後につけ加えておく。いわゆる日本的「結婚」に興ざめしているだけである。愛を育み、関係を築いていくのは難しくとも、人間として成長するうえで重要なのだから。

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