札幌に6ヶ月滞在したイラク人女性との女子会おしゃべり

札幌ではじめての海外生活を体験したイラク人女性との会話です。食べ物、ファッション、結婚観など、女子のおしゃべり。

「ブラッド・ピットもイラク女性に人気よ」 アンサムさんはニッコリ。

フセイン政権が倒れて衛星放送が解禁となったため、イラクの人々は家で外国映画を観る機会が増えたそうです。

「サッカーも好きよ。ドイツW杯はテレビで観戦したわ」
「お気に入りのチームは?」
「うーん、ブラジルかなぁ……」

アンサムさんやガフランさんと世間話をしていると、彼女たちの祖国が戦禍に巻き込まれていることを忘れてしまいそうになります。

新雪を踏んで喜んだり、お茶に砂糖を何杯も入れながら「見ないで」と照れ笑いしたり、二人の無邪気な姿はどこにでもいるような“普通の女の子”(女性というべきなのですが)です。

イラクという言葉からすぐ連想されるのは激しい戦闘シーンですが、戦争や経済制裁で国が荒廃したとはいえ、一般市民は生活を営んでいるのです。

普通の女性と書きましたが、「札幌で一番感動したのは安全だということ。安心して歩くことができてうれしい」とガフランさんが語ったときは、彼女たちがいかに苦難に満ちた毎日を送っているかを思い知らさました。

アンサムさんとガフランさんが札幌に来て、4ヶ月が過ぎようとしています。

イラクの女性が海外で半年も過ごすのは珍しいそうで、二人にとって今回が初めての海外生活。初体験づくしの滞在で、日々驚きの連続でしょう。

若い世代との交流もまた、二人にとって新しい発見の機会となっているようです。

11月は、中学、高校、大学で授業を行いました。

清田高校を訪れたガフランさんは、女生徒たちのヨサコイ踊りに大喜び。
石山中学校では、アンサムさんが全校生徒の前で講演。
酪農学園大学では二人がそれぞれ講義をし、その後に学生たちとフリーディスカッションを楽しみました。

衣食住において、イラクと日本は考え方が異なる点が多く、ときには戸惑うこともあるそうです。
特に、食生活にはこだわりが強く、肉はハラル(イスラム教徒向けの精肉)しか口にしません。
イラク料理とトルコ料理は似ているといいますが、「札幌のトルコ料理レストランは、ハラルを使ってないの」と残念そう。

また、なかなか日本食になじめないらしく、「刺身は口にする気になれない」「豆腐は一度食べたけど、もうパス」「お汁粉は苦手」と、手厳しい答えが返ってきます。
唯一気に入ったのが、天ぷらなのだとか。

出身地のバスラは冬でも20度をくだらず、雪を見るのはもちろん、セーターやコートを着るのも初めて。

そうしたなかでも、ファッションへの気遣いは欠かせないようで、雪道用のブーツを買うときは、お気に入りを見つけるまで何軒も物色したとか。

アンサムさんとガフランさんは、外出するとき必ずヒジャーブと呼ばれるスカーフをつけていますが、必ず洋服とカラーコーディネートしています。
ヒジャーブはただ頭を覆うだけのものではなく、巻き方もいろいろあり、イスラムの女性にとってはお洒落アイテムのひとつになっているのです。

酪農学園大学での講義の日、教室の後ろでスカーフを頭に被ろうとしている女生徒を見つけたガフランさんは、「ナイス」と笑いました。
スカーフを顔にぴったり被るにはコツがあるらしく、ちょっと見ただけでは真似できそうもありません。
「安全ピンで留めているの。ほら、ココとココに」とガフランさんはこっそりスカーフをめくり、安全ピンを見せてくれました。

ただ、ヒジャーブ姿は誤解を招きがちで、二人を暗い気持ちにすることもあるそうです。
「ヒジャーブをつけているから、テロリストだと思われているみたい」と言ったアンサムさんの表情は寂しげでした。

日本女性のファッションについても、一度質問してみました。高校での授業を終えた後、
「制服のミニスカートをどう思う?」とガフランさんにたずねると、「好きじゃない」とキッパリ。
イスラム圏の多くが女性の肌の露出を禁じているからもあるでしょうが、「雪が降って寒いのに、身体に悪い。信じられない」という医師らしい理由もそのひとつだったようです。

女性の考え方の違いも大きく、結婚観については、「イラク女性は20歳前に結婚したがるわ。見合い結婚をする人もいるわね」とアンサムさん。
自分たちが独身であることには、「私たちは例外なの」と大笑い。
「親は何も言わない?」と聞いたら、「何も。私たちが選んだ道だから」と穏やかな笑顔を見せました。

結婚願望が強い女性ばかりではなく、たとえば、イラクの医師の4割ほどが女医で、小児科医と産科医は女性のほうが多いといいます。
「日本は女医が少ないわね。どうしてでしょう?」とガフランさんは首を傾げました。

彼女たちイラク人の“普通”の生活が、戦争や経済制裁で奪われてしまったという事実に心が痛みます。
アンサムさんとガフランさんが札幌で多くを学んで欲しいとともに、私たちもまた、彼女たちからたくさんのことを教えてもらいたいと思います。
戦争を抜きにしたイラクを、イラク人の暮らしや文化について、私たち日本人はほとんど何も知らないのですから。

(2006年12月14日)

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