自殺の多いフランスの雑誌に掲載された防止対策

自殺の多いフランスの防止対策に関する雑誌記事の抄訳です。


健康雑誌サンテ(1997年9月号)の記事の抄訳

フランスでは、毎年約15万人以上が自殺を図り、約12000人が死亡している。ここ20年で、自殺者数は毎年増加の傾向にある。
自殺を図る女性の数は、男性の2倍だが、自殺による死亡者数は、男性のほうが倍多い。
年齢別では、55才以上が46%で、25~34才、15~24才と続いている。
都市部に比べ、地方での自殺が多く、すべての社会階級に及んでいる。
自殺は、フランス人の心の嘆きである。
特に、失業、暴力、迫害などの不安に満ちた社会で生きる若者や、孤独に苦しむ年配者の悲嘆を象徴している。

<なぜ自殺をするのか?>
家族の断絶、不和、引きこもり、自分の殻に閉じこもるなどが主な原因。また、過酷な人権侵害(近親相姦、近親相姦の脅威、暴力)や孤独、さらに、深刻な病い、失業、離婚や別居、親や友人の死、依存症(ドラッグ、お酒)、過度の仕事のストレス(政治家に多く見られる)。
若者に関しては、成績の悪さを苦にしたり、失恋、仲間外れなどが原因になっている。思春期に陥りやすいナルシスト的妄想(屈辱的な)が自殺の引き金となる。
自殺には前触れがある。自殺を図った人および自殺者の80%が、実行する前に、医者か近親者の誰かにほのめかしている。

<相談された場合、心理学の知識がないのに、どう答えたらいいか?>
このような人の行動や自殺について理解する必要がある。フランスでは、自殺に偏見があり、敏感に反応する点で遅れている。他の国は、自殺に関して、よりオープンで、大胆な防止対策がとられている。ケベックでは、一般市民向けのインフォメーション・キャンペーンが常に行われている。

まず、自殺願望者の話を聞くよう心がけること。非難するのはもってのほか。抱えている問題を理解しようとすることで、解決の糸口を発見し、解決策を見出すことができるかもしれない。
ただし、長期間、強制的に話を聞こうとしてはいけない。
話したがらないようなら、心理カウンセラーに相談するのがいいだろう。
専門家でもないのに、いきすぎた行動をし、相手を追い詰めてはいけない。

自殺未遂者の半分は、1年以内に再び自殺を図り、その方法は次第にエスカレートする。
自殺未遂により、家族はショックで言葉を失いがちで、その結果、再び対話が途絶えてしまう危険性がある。こうなると、自殺未遂者は、「自分はあまり注目されていない」「何かできたはずなのに」「私が悪い」などの罪責感を抱くことになる。
本人と家族が、同時に方向性を修正しなければならない。

自殺未遂者は、救急病院で温かい看護を受けるが、病院の93%はその専門ではない。患者は肉体的な看護を受けても、4人に3人は、24~48時間以内に病院を退院する。
心理的なケアを頼む時間も手段もない。

カウンセリングを受けるべきだと言われたり(このアドバイスは、9割の人に無視されている)、精神分析の診療所へ移送されたりすると、精神的ショックは大きい。

不当な入院は、最悪の体験となる。なぜなら、自殺者の70%は精神障害ではなく、自殺は発狂者のする行為ではないからだ。

最近、少しずつ、立ち直りを目的としたサービスが行われるようになってきた。
自殺願望者は、精神分析医や心理カウンセラーと面接し、適切な治療や知識などを教えてもらえるようになってきた。
自殺未遂を繰り返す割合が高い若者のために、専門の病院も存在している。
フランスでは、1997年2月、「自殺防止全国集会」が開催されて以来、本格的に自殺の問題と取り組んでいる。


フィガロ紙(1998年4月25日)に掲載された記事の抄訳

1996年の調査によると、フランスの自殺の原因は、「失業」「不安定な生活」「家庭の崩壊」。
10万人に19人が自ら命を絶ち、自殺はフランスの死亡原因の2%を占める。

若者の自殺が深刻で、25~29歳の若者の死因の20%以上が自殺であり、15~49歳においては死因の13%に上る。

1996年の自殺による死者は11300人で、交通事故死7800人、エイズによる死亡3500人より多い。

失業と自殺の関連は、15~24歳に多くみられる。
1993年3月、1994年3月の失業増加にともない、自殺も増加している。1993年が最悪だった。
年齢別では、25~49歳では、失業と自殺は同じ曲線を描いている。
50~64歳では、1977~1986年の失業率の増加にともない、自殺も増加。1987~1991年に失業率が頂点となり、その後、失業が減少したことで、自殺も急速に減った。

75歳以上の高齢者の自殺率がここ10年で減少したのは、高齢化社会に対する環境が整ったからといえる。

また、独身者、離婚者の増加が、全人口の自殺数を上げている。
以前は結婚が自殺防止の役目を果たしていたが、現在はそれが機能しなくなっている。
結婚する人の数や結婚期間の減少が、自殺の増加に関係している。

25~44歳の女性の自殺者は、1973/75年と1985/87年の12年間に59%増加した。
この数は、結婚の崩壊に関係していると思われる。事実婚は、正式な結婚より自殺防止機能が低い。
結婚は社会的安定であったが、現在は、家族のメンバーが防止の役目を果たすとはいえない。
失業、雇用の不安定、欠如、弱さ、収入の減少は、家庭の崩壊、精神的および肉体的な孤独を導くといえる。

(2015年7月4日)

タイトルとURLをコピーしました