ドイツのエコは68年学生運動からはじまった

2008年の洞爺湖G8サミットを前に、6月にG8勉強会を行った。

3回目は、19歳のドイツ人、ディビッドを講師に、環境問題と学生運動について語ってもらった。

ドイツでは、徴兵を拒否して、代わりに奉仕活動をするシステムがある。ディビッドはその良心的徴兵拒否で札幌に来て、ボランティア活動をしていた。

「何について話そう?」と迷っていたが、雑談で学生運動について質問したら、「68年の学生運動については話したい!」と言ってくれた。

若い彼が、68年のことを知っていて、「話したい!」と言ったことにちょっと驚いた。日本でも同じ頃、学生運動が盛んだったが、若者はそれを学ばない(と思う)。

ドイツでは、学校で勉強するそうだ。

ちなみに、フランスでも、68年5月革命について、若者でさえ知っている。外国人のためのフランス語のテキストにも載っていて、私はそこで学んだ。

フランス社会を語るとき、68年は非常に重要なカギになっている。
ドイツでも同様に、このときの動きが、現在社会に大きな影響を与えているそうだ。

以下、ディビッドのスピーチを紹介する。


昨年6月のドイツG8サミットが国民にどのような影響を与えたか、国民がどのように受け止め、マスコミがどう報道したか、お話しします。

サミットが開催されたハイリゲンダムは、スパとホテルで有名な小さな村です。ドイツでは、G8サミットを問題視している人が多く、その理由は、世界の金持ち8カ国が集まり、世界の政策を決めるのにもかかわらず、結果はまったく発表しないからです。

サミット開催にはドイツ国民の税金が使われます。昨年は150億円かかり、一番高くついたのは、会場の周りのフェンスで、10億円かかったそうです。

サミットに反対するのは、ほとんどが高校生から大学生、30歳ぐらいの若者たちです。それから、左派系の人たち。

デモやキャンプに参加したのは5万人でした。キャンプは、G8サミットについて考えるのが目的で、「なぜ8カ国が集まるのか」「どんな政策を決めるのか」といった勉強会が開かれました。

このサミットでドイツ軍隊を出動させたことは憲法違反で、今でも問題になっています。

G8にこれだけの人がデモに参加したのは、ドイツでは昔から大学生運動の文化があったからです。

ドイツでは、19世紀から大学運動がはじまりました。その目的は、ドイツの平和と民主主義国家の成立にありました。当時の運動で使われた旗が、現在のドイツの国旗になっています。

最も有名な学生運動は、68年学生運動です。このときの運動の目標は、「ナチ時代を忘れないこと」でした。第二次世界大戦後、ドイツの制度は変わりましたが、大学のなかでも、ナチ時代に公務員として働いた人はそのままで仕事をつづけていたので、それに反対して大学生運動が起こりました。それから、ナチ時代から残っている教科書もあり、その反対運動でもありました。

もうひとつ大事な問題は、原子力発電とエネルギー、環境保護、人権問題、女性の権利です。ナチ時代、女性は育児や家事を押しつけられ、働きたくてもなかなか働けず、賃金格差もありました。今でも賃金格差はありますが、以前はもっとひどかったのです。

さらに、アメリカの反戦運動の影響で、ベトナム戦争への反対運動も盛り上がりました。

こうした学生運動から、「緑の党」が設立されました。「緑の党」は70年代に一度政権をとり、1998年に社会党と連立で与党になりました。原発反対といった市民団体は、「緑の党」を通して、政府へ意見を言えるようになりました。

「緑の党」が取り組んでいる最も重要な課題は、環境保護と原子力発電問題です。

「緑の党」のおかげで、日常生活での環境保護が行われているといえます。日本に来るまで、ドイツが環境問題に努力していることに気づきませんでした。具体的にどのように環境問題に取り組んでいるのか知らなかったのです。毎日やっていたのですが。

ひとつはゴミ分別です。ドイツはゴミの収集が有料で、袋の大きさによって支払い額が違うので、できるだけゴミを少なくします。ビンは専用のところに返却し、ペットボトルはデポジットを支払って返却のときにお金が戻ってきます。新聞紙はリサイクルに出せばお金が戻り、生ゴミは堆肥にします。ゴミを少なくする工夫がいろいろあります。また、スーパーマーケットでのビニール袋は80円ぐらいするので、エコバッグも普通に持っています。

ドイツは、街中で自転車を使いやすくするために、自転車専用道路があります。自転車専用の信号があり、地下鉄やバスにも乗れます。

質疑応答

Q:駐輪場は十分にあるのですか?

A:駐輪所はたくさんあります。信号も少ないです。自転車専用の道路は、車道の脇というわけではなく、公園の中にあったり、車と別に走ることができます。自転車を地下鉄やバスに乗せられるのは便利です。自宅から駅まで15分自転車に乗り、地下鉄で目的地まで行き、そこからまた自転車で15分で大学に着くとか。ドイツは小さな村が多く、そういうところはバスや電車が少ないので、自転車でいけることが大切です。自然に近い生活です。

Q:「緑の党」に新しい世代が入ってきていますか?

A:若い人も入っています。環境保護とか平和運動とか、ナチ時代を忘れないこととか、国民がしなければならないことは今でもつづいています。「緑の党」として、原発廃止という政策は変わっていません。今は、どこからエネルギーを得るのかが問題になっています。

Q:どのように徴兵を拒否できるのですか?

A:徴兵の前に検査があり、そこで拒否の意思を伝え、理由の手紙を書きます。僕は、「子どもの頃から、暴力がなしで育ってきた。暴力ではなく話し合いで解決するようにと育てられてきた。武器を使いたくない。人を殺したくない。人を殺すという責任を持ちたくない」といった内容を書きました。これでOKがでました。

Q:札幌ではどんなことをしていますか?

A:果樹園の仕事と、環境教育です。先日は、木屑とか砂とか石とか、水とかで道を作り、はだしで歩くフィーリングロードというものをしました。
これまでボランティアをしたことはありません。札幌に来てすぐ、障害者の施設で働き、とてもいい経験になりました。障害者とこんなに近い関係になれたのははじめてで、本当にいい経験でした。ドイツでは、障害者と接する機会はあまりありません。街中で見かけても、近づいて話したりすることはありません。ボランティアは、自分でやろうとしなければ、やらなくてもいいという環境です。

Q:徴兵に行く人と拒否する人の割合は?

A:クラスメートのなかでは、軍隊に行った人のほうが多いです。55%が軍隊で、45%が拒否といった割合だと思います。

Q:日本では悲惨な事件がつづいていますが、ドイツの若者の状況はどうですか?

A:メディアで報道されている事件に関しては、ドイツのほうが少ないです。でも、実際の数がどうなのかはわかりません。ドイツと日本では、殺人の目的が違います。ドイツでは、お金が目的とか、差別とか。でも、日本は人間関係、特に家族関係に問題がありますよね。こうしたことはドイツではあまり聞きません。親子殺人は年1度あるかないかです。

(2008年8月10日)

 

徴兵を拒否するドイツ青年が日本で奉仕活動
ドイツでは徴兵を拒否し、代わりに奉仕活動に従事できる。日本でのボランティアを希望する若者を受け入れる取り組みは、作家の故小田実さんが立ち上げた活動のひとつで、札幌でもドイツ青年を受け入れている。『日刊ベリタ』2008年5月3日に掲載された記事。

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