2011年8月25日のフランス雑誌『Terra Eco』の電子版に掲載された、ロール・ヌアラ(ジャーナリスト)の記事の抄訳です。
それはあってはならないことなのに、とにかく起きてしまった。
今年3月、福島第一原発の原子炉6基のうち3基がメルトダウンし、原子力に好意的だった社会、政治、産業の全てに亀裂が生じた。
核の大惨事のスペクタクルに覚醒され、フクシマは、ここ数年間の核に好意的な相互理解を、数日で根元から崩した。原子力は絶対確かではない。
原子力はゆるぎないわけではない。原子力はそれほど確かではない。日本のドラマと平行して、25年前のチェルノブイリが、集団的不安の鈴を鳴らす。
核で得をしているかのように思わされていた人々のなかから、議論を求める声が出現する。カッサンドラ(ギリシャ神話に登場する、正しい予言をしても誰からも無視される人物)に応え、あらゆる“反対”の増加を痛烈に打撃しつつ、顧客が離脱することを予測して相互理解の新基軸を作り上げなければならない。つまり、フクシマの爆発効果を修復しなければならないのである。
1.政治
最大の逆襲は、メディアと政治の前線で繰り広げられる。事故後の最初の数日間、フランス電力およびアレバのパトロンである一部の政治家が、原発の永続的支援を再確認するために、テレビに出演した。エリック・ブッソン産業大臣から、ナタリー・コシウスコ=モリゼ環境大臣にいたるまで、政界からはフランソワ・フィヨン首相、そしてアレバの最高責任者だったアンヌ・ローヴェルジョンやフランス電力のアンリ・プログリオ総裁らがそれぞれ、原子力事故と、日本で起きような“自然災害”とを区別した。サルコジ大統領自身は3月末に、フランスの移住者の安否を確認するために東京へ飛んだ。
環境保護論者たちは叫んだだろうか? 社会主義のリーダーたちは、“すべての原発”の停止を約束しただろうか? フクシマ後の闘いは、情報の場で一戦を交える。大統領選に向けた議論を準備するために、フランソワ・フィヨンは会計検査院の監査を命じた。2012年1月31日にコピーが戻される。一方、エリック・ブッソン大臣は、脱原発につながるものも含め、可能な限りのエネルギー政策のシナリオを研究する委員会を立ち上げ、“エネルギー2050”という未来予想を開始した。少しばかりの恵みが与えられたが、それを自慢すべきではない。エネルギー政策担当のブッソン大臣は、フランス国内の原子力依存を3分の2にすることを強くすすめていた。価格競争、エネルギーの独立、温暖化効果ガスの排出量減少を維持するためだ。
「この2つの事業は少し見かけだおしである」と市民団体グローバル・チャンスの技術者で理事長のベンジャミン・ドゥスゥは批判する。
「原子力の費用(解体や核廃棄物など)はシナリオに大きくかかわっているが、会計検査院が検討している費用、そして特に核燃料サイクル保証費用は、原子力の継続を仮定した場合だけのものだ。脱原発はイエスかノーか、4世代原子炉はイエスかノーか、MOX燃料はイエスかノーか、EPRはイエスかノーか、などなど。同様に、会計検査院は産業界が提供した数字のみに基づこうとしている。ブッソンの未来予想実施は、もっとひどい。4ヶ月で可能なあらゆるシナリオを考えるとは、大それた望みである。この委員会を構成するメンバーは、フランス電力の前総裁ピエール・ガドネックスや、エネルギー経済法律研究センターの所長ジャック・ペルスボワといった“見事な資格を備えた”人たちだが、未来予想など何もわからない、筋金入りの原子力推進派だ」
多くのオブザーバーたちであっても、少なくとも1年はかかる作業の研究である。実効の適用性などどうでもよく、脱原発の問題を考えることを主義として拒否していないことを、政府は叫んでいるのかもしれない。
2.安全性
権力者の反論のもうひとつの大きな軸は、安全性である。
フクシマ後の最初の数日間、原子力反対派は、原発にともなう危険性に関して本質的な相互理解にいたった。地震、津波、干ばつ、火災、洪水……。原発はどのように防御できるのか?
「原子炉に実施される一連の“ストレステスト”を我々に委ね、政府はまず原発施設の状態について安心させたがっている」とフランス原子力安全当局(ASN)の職員のひとりは断言した。「もし日本の事故がフランスの安全基準を見直すのに役立つのであれば、それはいいことだ」
有名な“ストレステスト”とは、原発運営業者が質問用紙に書き込み、それを原子力安全当局へ返送するだけだ。より目を引くのはむしろ、原子炉の冷却装置に備えてある救済システムの停止が長引いた場合に作動する特殊電流設置したという、4月のフランス電力の発表だ。
3.イメージ
「ヨーロッパ中の原発反対派はすぐに、チェルノブイリとこれを同一視した。チェルノブイリとこれを比較するあらゆる試みを鎮めなければならない」
この証言は、イギリス政府と原子力企業(アメリカのウエスティングハウス、フランスのフランス電力とアレバ)との間のメールのやりとりから引用した。イギリス政府と原子力企業はグルになって、フクシマの事故のインパクトを最小限にするために、公式通達を練り上げていたのである。
イギリスでもどこでも、チェルノブイリは産業界の悪夢として記憶に残っている。
「すぐに危機細胞会議が開かれた。進行中の事故についてどう伝えるか? 特に、チェルノブイリとのあらゆる同一視をどう阻止するか」とフランスのサイト製作会社の責任者は説明する。合言葉は? 「チェルノブイリは旧ソ連で起きた大惨事であり、フクシマは“自然災害”である」
新聞での議論、テレビ出演する専門家、フランス電力やアレバのパトロンたち、大臣たちなど、原子力推進派は業界を独占している。原発推進派は全員、見事な平静さを装った。調査結果のネガティブな数値(フランスの70%が20年か30年後の脱原発に賛成)に対し、気候変動、世界的な電力需要、さらに事業者の賢明さ(!)などと言って反駁する。しかし、核と同様のイメージに関連したことには、利害関係者が平静な態度を表明している。
「世論の大きな後退はない」とアレバのスポークスマンのレギ・アスレは断言する。「事故の数日後、確かに、我々は感情的だった。人々は地震や津波、大規模な崩壊による瓦礫のイメージを目にした。しかし、数週間後、これは他の国の違う現実だ、と世界中で解釈された」
イタリアは原発を放棄したが? 「この決断はベルルスコーニと非常に強く関係している」
ドイツはどうか? 「ドイツの電気料金はフランスの約2倍で、1キロワット/時は24サンチームだ」
正常で分別のある議論があるとすれば、そこには肯定を見出だすことになる。さまざまな局面を総合して考えなければならない。気候変動、我が国の産業の価格と競争。「原発を停止して高い電気代を払う覚悟はあるか?」 議論ははじまったと言える。
4.財政
財政の面もまた、公式である。フクシマはフランスの原子力産業を苦境に追いやった。そう言っているのは、昔から活動している反原発運動家ではなく、アレバの新最高責任者リュック・ウルセル自身だ。
このグループの前半期の数値が公開された。新社長によると、フクシマが原因で、ドイツと日本を中心に、多くの契約取り消され、その額は1億9千100万ユーロである。グループの受注残高の減少はどれほどか。前半期の純利益は3億5千100万ユーロで、2010年の同時期の58%減。
ここでもまた、冷静さを保ち、勝負の成り行きを見守るのが慣例だ。中国は12基の原子炉をほしがっている、イギリスは8基、南アフリカは2基、インドのジャイプルは6基。リオとパリ間の飛行機が墜落したからといって、エアバスの注文がなくならないように、フクシマが原子力開発を急に止めたりしない。
「全てが間違いである」とエネルギー情報調査室ワイズ・パリの創設者で技術コンサルタントのマイケル・シュナイダーはみている。「アメリカの民間企業は、原子炉の新建設という考えを破棄したほうがいいと思っている。南アフリカのEskomは、入札募集を取り消されたとき、パニックに陥った。中国はすでに福島の事故以前に、原子力への投資より年間5倍も多く再生可能エネルギーに費やしている。インドは、ジャイプルのアレバのEPR原子炉計画への反対が根強い……」
原子力の支持者たちは、狼狽していない。「気候温暖化の理由で、原子力の需要は増えるだろう」と、7月末に福島で、IAEAの天野事務局長は予測した。
日本の事故は、さほど大きな変化をもたらさないだろう。アレバやフランス電力のロビーではそう断言している。「せいぜい、いくつかの計画が遅れるだけ」と、アレバのレギ・アスレは説明する。
エネルギーの国際機関によれば、原発が世界の電力生産の16.9%に相当するのであれば、10年後の世界の原子力電力生産は27%に増加する、と『エコノミスト』の研究分析サービスは予測している。「中国、インド、ロシアが予定している原子炉が加われば、ドイツが廃止する原発の5倍もの生産能力になる」とフランス電力は計算している。闘いははじまったばかりだ。